鋼橋架設工事に係るセーフティ・アセスメントについて |
改正履歴
建設業における労働災害を防止するためには、施工中の安全衛生対策の充実を図ることはもとより、仕
事の工程、機械、設備等についての危険性を事業者自らが事前に評価し、その安全衛生対策を施工前に検
討しておくことが肝要である。
このため、従来から設計、計画段階における企業内での事前評価の実施促進を図るため、事前評価手法
の開発に努めてきたところであるが、今般、労働省内に設置した「橋梁(鋼橋)架設工事セーフティ・ア
セスメント検討委員会」から鋼橋架設工事における事前評価の手法等についての検討結果が報告され、本
省においては、この報告に基づき、別添のとおり「鋼橋架設工事に係るセーフティ・アセスメントに関す
る指針」をとりまとめた。
ついては、関係事業者において本指針の趣旨が徹底され、実効あるセーフティ・アセスメントが実施さ
れるよう指導するとともに、労働安全衛生法第88条第4項に基づく計画の屈出について審査をする際等に
活用されたい。
別添
鋼橋架設工事に係るセーフティ・アセスメントに関する指針
1 序文
鋼橋架設工事においては、構造物の倒壊、墜落、取り扱う重量物との激突等による死亡災害等の重篤
な災害が発生しており、これらの災害の原因のなかには施工計画の段階における安全対策が不十分であ
ったと見られるものが少なくない。
鋼橋架設工事は、橋の形式によって工法が異なり、また、同じ形式の橋であっても架設場所の地形、
環境条件等によって工法が異なるため、施工計画の段階における安全対策を画一的に定めることには困
難な面があるものの、そのような施工開始前における安全対策を充実することが、今後における労働災
害の防止を図る上で極めて重要であり、その一環としてセーフティ・アセスメントが位置付けられる。
本指針は鋼橋架設工事に係るセーフティ・アセスメントについての基本的考え方を明らかにすること
に重点を置き、さらに事業者がセーフティ・アセスメントを行う際に参考となるようその手法を具体的
に示すものである。
2 適用範囲等
本指針は、鋼橋(つり橋及び斜張橋を除く。)上部構造の架設工事(床版工事及び塗装工事(塗り替
え工事を除く。)を含む。)について適用し、当該工事を施工する事業者が工事開始前に本指針に基づ
くセーフティ・アセスメントを実施するものとする。
3 基本的考え方
一般に、鋼橋架設工事に係るセーフティ・アセスメントを行うことの意義は、事業者が施工計画の段
階において、その施工中の危険性を定量的又は定性的に評価し、これに対して必要な対策を検討するこ
とによって施工中の安全性をより高めることにあり、以下の手法によって進めることがセーフティ・ア
セスメントの基本となる。
(1) まず、危険性の評価及び安全対策の検討を行うための基礎資料の収集を十分に行う。次に、これ
らの資料から得られた情報をもとに、以下の(2)から(4)までの手順により、危険性の評価及び安全
対策の検討を行う。
(2) 鋼橋架設工事における危険性に影響を与える要因のうち、架設地点、架設工法、架設時期等は、
発注者から付与されたものであるが、これらに基づく危険性について評価を行うことが、施工段階
における安全対策を検討する上で不可欠である。このため、これらの要因に基づく危険性について
定量的評価を行う。
(3) 鋼橋架設工事の施工における安全を確保する上で必要な事項(以下「基本的事項」という。)に
ついて、適切な対策が講じられているか又は講じられることとなっているかを検討する。
(4) 上記(3)において基本的事項を検討した後、鋼橋架設工事に特有な災害であって重篤なもの又は
多発するもの(以下「特有災害」という。)として、構造物の倒壊災害、墜落災害及び重量物取扱
い災害をとり上げ、これらに対する対策について特段の検討を行う。
構造物の倒壊災害については、施工中における災害の発生の危険性を定量的に評価し、危険性の
度合いに見合った安全対策を検討し、検討結果が施工計画書に十分盛り込まれるようにする。墜落
災害及び重量物取扱い災害については、これらの災害の防止という観点から基本的事項のうちで関
連する事項を抜き出し、必要な対策が講じられているか又は講じられることとなっているかを再度
検討し、検討結果が施工計画書に十分に盛り込まれるようにする。なお、本指針の基本的考え方は
以上のとおりであるが、さらに各段階における詳細は次のとおりである。
イ 発注者から付与された条件に基づく危険性については、過去の事例等を考慮し、次の[1]から[10]
までの要素を用いて定量的に評価することとしたこと(4の(2)参照)。
[1] 構造形式
[2] 最大支間長
[3] 構造物の平面形状
[4] 桁下高さ
[5] 架設工法
[6] 使用クレーン(本体組立用)
[7] 地 形
[8] 地盤条件
[9] 架設時期と架設地域
[10] 架設工期
ロ 基本的事項については、安全施工の観点から想定できる必要な評価内容を網羅的に掲げたもので
あり、個々の施工計画にあてはめると橋梁形式又は架設工法によっては必要とされない評価内容も
含まれていること。
なお、計画時に施工上の細部条件が固まらない等の理由により具体的な評価が困難である事項に
ついては、それらを施工中にチェックできるよう「施工時における留意事項」として参考欄に掲げ
ていること。
ハ 特有災害のうち、構造物倒壊災害については、その原因が架設計算の不備によると認められるも
のが多いこと及び鋼構造物の耐力、変形等は、ある程度計算により予測することが可能であること
から、架設計算による安全率等と許容値とを比較して求めた値により、その危険性を定量的に評価
する方法を採用したこと(4の(4)のイ参照)。
4 セーフティ・アセスメントの具体的手法
セーフティ・アセスメントの具体的な進め方は以下のとおりである。
(1) 第1段階……基礎資料の収集
この段階では、次の[1]から[12]までの事項について調査等を行い、鋼橋架設工事の危険性の評
価及び安全対策の検討を行うために必要な基礎資料を収集・整備する。
[1] 設計図書
[2] 気象、海象、水の状況
[3] 地形、地質
[4] 既存構造物及び隣接構造物
[5] 下部工
[6] 運搬路
[7] 環境
[8] 仮設備
[9] 労働安全衛生関係法令
[10] 災害情報
[11] 同種の工事における記録
[12] 安全基準に関する技術上の各種指針
(2) 第2段階……発注者から付与された条件に基づく危険度のランク付けとその対策の樹立
この段階では、発注者から付与された条件に基づく危険度についてランク付けを行い、それに対
する対策を考慮する。以下にその方法の一例を示す。
発注者から付与された条件に基づく危険度のランク付けについては、次の表の左欄に掲げる10
の要素を用いて、各要素が中欄の条件のいずれに該当するかにより右欄の素点を与え、これを合計
して危険性の評点を求める。
(表)
得られた危険性の評点により、次表のように危険度のランク付けを行う。
(表)
以上のランク付けに応じた安全対策として、事業者は、次表に定める経験を有する工事計画責任者、工
事現場責任者等の選任、本社の指導体制の確立について考慮を行う。
(表)
(3) 第3段階……基本的事項についての検討
この段階では、基本的事項について安全対策が講じられているか又は講じられることとなってい
るかを別表1の「安全対策に関する基本的事項」の評価内容の欄に記された観点からチェックし、
必要な場合には施工計画の変更等を行う等の措置を講じる。
なお、講じることとなっている対策については、実施時期、実施方法等についても検討を行う。
(4) 第4段階……特有災害についての評価及び安全対策の検討
この段階では、特有災害のうち、構造物の倒壊災害についてはその危険性を定量的に評価し、こ
れに応じた安全対策を検討するとともに、必要な場合には、施工計画の変更等を行う等の措置を講
じる。また、墜落災害及び重量物取扱い災害については、安全対策が講じられているか又は講じら
れることとなっているかを重点的に検討するとともに、必要な場合には、施工計画の変更等を行う
等の措置を講じる。
以下にそれぞれの特有災害ごとにその手法を示す。
イ 構造物の倒壊災害に対する安全対策の検討
まず、別表2の「倒壊災害に関する架設計算評価表」の小項目ごとに架設計画を行っているか、
また、架設計算上考慮すべき荷重が抜けていないかをチェックする。続いて、各小項目の架設計算
結果について次式により安全指数を求め、下表により各小項目ごとにその危険性を評価する。
[1] 応力について
[2] 安全率について
[3] 安定について
(表)
ロ 墜落災害に対する安全対策の検討
墜落災害に対する安全対策が講じられているか又は講じられることとなっているかを別表3「墜
落災害に関する安全対策検討表」の評価内容の欄に記された観点からチェックし、不備等がある場
合には十分な措置を講じる。
なお、当該対策については、実施時期、実施方法等の適否についても検討を行う。
ハ 重量物取扱い災害に対する安全対策の検討
重量物取扱い災害に対する安全対策が講じられているか又は講じられることとなっているかを別
表4「重量物取扱い災害に関する安全対策検討表」の評価内容の欄に記された観点からチェックし、
不備等がある場合には十分な措置を講じる。
なお、当該対策については、実施時期、実施方法等の適否についても検討を行う。
別表1
安全対策に関する基本的事項
目 次
1 管理に係る基本的事項
1.1 施工管理
1.2 安全衛生管理
2 現場の環境に係る基本的事項
2.1 道路上又は道路に近接した場所での工事
2.2 高速道路上又は高速道路に近接した場所での工事
2.3 軌道上又は軌道に近接した場所での工事
2.4 水上(海上を含む。)での工事
2.5 市街地での工事
3 橋梁型式に固有な基本的事項
3.1 I形桁
3.2 箱形桁
3.3 トラス及びアーチ
4 架設工法、作業及び機材に係る基本的事項
4.1 架設工法
4.2 架設の単位作業
4.3 現場で組立てる機械、設備等
4.4 現場での組立てを必要としない機械、設備等
5 作業用仮設備に係る基本的事項
5.1 足場(継手足場、桁下前面足場、トラス上弦部足場等)
5.2 作業構台
5.3 通路等(桁上の通路、昇降設備、ワイヤブリッジ)
5.4 防護工等(主として公衆災害防止を目的とするものを指す。)等
6 床版工事に係る基本的事項
7 塗装工事に係る基本的事項
8 工事用宿舎用地等に係る基本的事項
別表2 倒壊災害に関する架設計算評価表
(表 前半)
(表 後半)
別表3 墜落災害に関する安全対策検討表
1 足場等仮設備に係る災害防止計画
2 作業等に係る災害防止計画
3 工法に係る災害防止計画
別表4 重量物取扱い災害に関する安全対策検討表
1 重量物のつり上げに係る災害防止計画
2 部材の転倒防止
3 重量物の移動に係る災害防止計画
4 打上降下に係る災害防止計画