安全衛生情報センター
建設業における労働災害防止につきましては、平素から格段の御理解、御協力をいただきお礼申し上げ ます。 さて、平成23年3月11日に発生した東日本大震災に係る災害復旧工事における労働災害防止対策につい ては、平成23年3月18日付け基安安発0318第1号及び基安化発0318第8号「東北地方太平洋沖地震による災 害復旧工事における労働災害防止対策の徹底について」等に基づき、関係行政機関等と連携のもと、津波 によって発生・漂着した「建築物等の残がい」や「流木」等の「がれき」の処理作業(以下「がれき処理 作業」という。)、「応急仮設住宅建築作業」及び「木造家屋等低層住宅の屋根等の改修工事」をはじめ、 管内の被害状況に応じた労働災害防止対策を推進しているところです。 現在までに、津波被害のあった地域においては、進捗状況に差はあるものの、「がれき処理作業」が一 定程度終了し、今後は、住宅やビルなどの建築物等の解体工事が行われることとなりますが、先般成立し た「東日本大震災により生じた災害廃棄物の処理に関する特別措置法」に基づき、自治体の要請により、 国が直接、災害廃棄物の処理を行うこととされたことから、今後、これらの工事が各被災地において集中 的に行われることが予想されるところです。 また、地震・津波で被害を受けた建築物等の解体工事については、通常の解体工事と異なり、作業中に おける倒壊の危険性が高いほか、一定のエリア内で複数の工事が並行して行われること等から労働災害の 発生が懸念されるところです。 つきましては、今後の災害復旧工事における労働災害防止対策のより一層の徹底を図るため、別紙1「 解体工事における死亡災害の分析」(労働安全衛生総合研究所)を参考にしつつ、下記の事項を踏まえた労 働災害防止対策の実施について、貴協会会員各位に対し周知を図っていただきますようお願いします。
1 地震・津波により被害を受けた建築物等の解体工事における対策 (1) 解体作業に当たっての一般的な安全対策 ア 作業計画の作成及びこれに基づく作業の徹底 解体工事の対象とする建築物やブロック塀などの工作物(以下「建築物等」という。)の種類・構 造に応じ、労働安全衛生規則(以下「安衛則」という。)第517条の14等に基づき、あらかじめ、作業 計画を作成し、これに基づく作業を徹底すること。 また、地震や津波により被害を受けた建築物等の解体工事においては、通常の解体工事とは異なり、 [1]低層部分に津波被害を受けていること、[2]半壊した建築物等が相互にもたれかかっていること、 [3]一定のエリア内で同時並行して作業が行われること、[4]緩んだ地盤上で車両系建設機械等を用 いた作業を行うこと等の特殊性があるほか、[5]被災者(建物所有者)の立会のもとで作業が行われる ことも想定されるところであることから、あらかじめ、その損傷の程度、周囲の状況等を事前に十分 に調査するとともに、調査結果を踏まえた作業計画を作成し、これに基づく作業を徹底すること。 イ 作業主任者の選任及び職務の徹底 建築物等の種類・構造に応じ、安衛則第517条の17等に基づき、作業主任者を選任するとともに、 当該者に作業主任者としての職務を適切に行わせること。 また、作業主任者を選任しなければならない作業以外の作業においても、墜落により労働者に危 険を及ぼすおそれのあるときは、安衛則第529条により、作業指揮者の指名、作業方法及び順序につ いて労働者への周知を行う必要があること。 ウ 建築物等の崩壊・倒壊による労働災害の防止 外壁、柱、はり等の強度が不十分である場合には、解体作業による衝撃や余震によって崩壊・倒 壊を生ずるおそれがあるため、上記アの作業計画を作成するに当たっては、必要に応じ、作業方法 の見直しや、補強用の支柱の設置による強度の確保等について検討すること。 エ 墜落・転落による労働災害の防止 建築物等の屋根上など、高さ2メートル以上の箇所で作業を行う必要がある場合には、安衛則第51 8条第1項に基づき、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けること。なお、作業床の設置が 困難な場合については、安衛則第518条第2項に基づき、防網の設置、安全帯の使用等労働者の墜落 による危険を防止するための措置を確実に講ずること。 また、建築物等の外部に解体作業用の足場を設置して作業を行う場合には、安衛則第563条第1項 に基づく措置を適切に講ずること。 オ 物体の飛来・落下による労働災害の防止 はつり作業や壁・柱等の切断作業などを行う際に発生したはつりガラや鉄筋、切断物等の落下に より、労働者に危険を及ぼすおそれがあるときには、安衛則第537条に基づき、防網の設備を設け、 立入区域を設定する等により落下物による危険を防止するための措置を講ずるとともに、作業に従 事する労働者に対しては、安衛則第538条に基づき保護具の使用等を徹底させること。 カ 機械・器具の使用に伴う労働災害の防止 低層住宅の外壁下地となる木材の切断等に使用する「携帯用丸のこ盤」、鉄骨部材の取外しに使 用する「インパクトレンチ」、コンクリート造の壁や柱等の切断に用いる「ワイヤソー」や「鉄骨・ コンクリートカッタ」等各種の機械・器具を使用する場合には、安衛則第28条に基づき、安全装置 等を適切な状態に維持するとともに、必要な保護具の着用等を徹底すること。 キ 解体工事に伴う粉じんの飛散の防止 解体工事に伴い粉じんが発生する場合には、散水による湿潤化、シート等による囲い込み等により 粉じんの飛散を防止する対策を行うこと。 (2) 建築物の構造に応じた解体作業の対策 上記(1)の一般的な安全対策に加え、建築物の構造に応じて講ずべき対策は次のとおりであること。 ア 低層住宅の解体 (ア) 木造家屋等低層住宅(木造、軽量鉄骨造等で軒の高さが10m未満の住宅等の建築物。以下「低層 住宅」という。)の解体に当たり、高さ2メートル以上の箇所で作業を行う必要がある場合には、 上記(1)エに基づき、墜落防止措置を適切に講ずる必要があるが、低層住宅については、梁や母屋 の上など、不安定な場所が多いため、上記(1)アの作業計画の作成に当たっては、高所作業を極力 少なくするような作業方法の採用について検討すること。 なお、脚立や作業台を用いて行う高さ2メートル未満の場所における作業についても上記(1)エ に準じた墜落防止対策を講ずること。 (イ) 手こわしにより内装・外装の解体作業を行う場合においては、保護手袋やゴーグル、防じんマ スク等必要な保護具の着用を徹底すること。 イ ビル建築等の解体 (ア) 低層住宅以外のビル(鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨・鉄筋コンクリート造等による高さが 10m以上の建築物。以下「ビル建築等」という。)の解体に当たり、高さ2メートル以上の箇所で作 業を行う必要がある場合には、上記(1)エに基づき、墜落防止措置を適切に講ずる必要があるが、 特に、解体時に発生した廃材を投下する「開口部」や作業床の端部からの墜落・転落災害が生ずる ことがないよう、安衛則第519条第1項に基づき、囲い、手すり、覆い等を設けること。なお、囲 い等を設けることが困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取り外すときについては、防網の 設置、安全帯の使用等労働者の墜落による危険を防止するための措置を確実に講ずること。 (イ) ビルの外壁や柱等で、「高さ5メートル以上のコンクリート造の外壁、柱等」の引倒し等の作業 を行う場合には、安衛則第517条の16に基づき、一定の合図を定めるとともに、引倒し等は、当該 合図により、作業を行う労働者以外の労働者を確実に避難させた上で実施すること。なお、「高 さ5メートル以上のコンクリート造の外壁、柱等」以外のものの引倒し等の作業についても、上記 に準じた措置を講じること。 (3) 解体工事における車両系建設機械等に係る対策 ア 車両系建設機械を用いて解体作業を行う場合には、安衛則第154条及び第155条に基づき、あらか じめ作業場所の地形や地質を調査した上でこれを踏まえた作業計画を策定し、これに基づき作業を 行うこと。 特に、津波により地盤が緩んでいる箇所や、傾斜地等で作業を行う場合には、安衛則第157条に基 づき、不同沈下防止等の転倒防止対策の徹底を図ること。 また、建築物等の基礎部分の解体において、基礎杭を撤去するためにくい抜機などの基礎工事用 の車両系建設機械を使用する場合には、安衛則第173条に基づき、当該機械の倒壊防止のための措置 も講ずること。 イ 車両系建設機械又はその荷と接触するおそれのある箇所には、安衛則第158条に基づき、労働者の 立入りを禁止する措置を講ずる、又は誘導者を配置してその者に車両系建設機械を誘導させることに より、車両系建設機械との接触防止を図ること。 ウ 解体した建築廃材や鉄骨部材等のつり上げ作業を行う場合には、移動式クレーンやクレーン機能 付きドラグショベルを用いること。なお、作業の性質上移動式クレーン等を使用できない場合に限 り、安衛則第164条第2項及び第3項に基づく措置を実施した上で、車両系建設機械による荷のつり上 げ作業を行うこと。 エ 車両系建設機械や移動式クレーンの運転の業務については、安衛則第41条に基づき、技能講習を 修了した者等必要な資格を有する者により行わせること。 オ 「ニブラ」、「グラップル」などの解体用の建設機械についても、車両系建設機械に準じ、上記 のア〜エに準じた取扱いを行うこと。 (4) 安全衛生管理体制等 ア 混在作業による労働災害の防止 商店街や住宅密集地などにおいては、複数の事業者が混在して同時並行して作業を行うことが想 定されるため、労働安全衛生法(以下「安衛法」という。)第30条第1項に基づく作業間の連絡調整の ほか、作業開始前のミーティング等を綿密に実施すること。 また、解体工事に際し、解体する建築物等の所有者などが作業に立ち会うことも想定されるため、 立会者に危険が及ばないよう、[1]危険範囲への立入禁止措置、[2]建築物等の周囲をメッシュシー トで養生する等物体の飛来・落下防止措置を徹底すること。 イ 建設業に不慣れな作業者に対する安全衛生教育の徹底 建築物の解体作業については、一定の専門性を有する労働者がこれを行うものと考えられるが、 当該作業の補助者として、建設業に不慣れな者が従事することが予想されるため、安衛法第59条に 基づき、当該者に対する雇入れ時等の安全衛生教育を徹底すること。 2 解体工事における石綿ばく露防止対策 建築時期によっては天井、壁、内装材、床材、耐火被覆材、屋根材等に石綿等(石綿を0.1%を超えて 含有するもの)が使用されているものがあるため、地震・津波による被害を受けた建築物等の解体・改修 等の際に石綿粉じんが飛散する可能性がある。 このため、建築物等の解体に当たっては、石綿等による労働者等の健康障害を防止するために事前調 査を行い、石綿等の使用の有無の調査結果を記録するとともに、調査の結果を作業に従事する労働者が 見やすい場所に掲示すること。この調査の結果、石綿等が使用されている場合には、法令に基づく措置、 とりわけ(1)から(7)までの措置を採ること。 (1) 作業計画の作成 あらかじめ、作業計画を定め、当該作業計画に基づき作業を行うこと。 (2) 作業主任者の選任 石綿作業主任者技能講習を修了した者のうちから、石綿作業主任者を選任し、その者に次の事項を 行わせること。 ア 作業に従事する労働者が石綿等の粉じんにより汚染され、又はこれらを吸入しないように作業の 方法を決定し、労働者を指揮すること。 イ 保護具の使用状況を監視すること。 (3) 特別教育の実施 作業に従事させる労働者に対し、当該業務に関する特別教育を実施すること。 (4) 保護具 同時に就業する労働者の人数と同数以上の適切な呼吸用保護具を備え、常時有効かつ清潔に保持す ること。 (5) 関係者以外の立入禁止 作業を行う場には、関係者以外の者が立ち入ることを禁止し、かつ、その旨を見やすい箇所に表示 すること。 (6) 隔離等 建築物等の解体に先立ち、次のア、イのいずれかの作業を行う場合、当該作業場所については、そ れ以外の作業を行う場所から隔離、集じん・排気装置の設置、負圧化、前室設置等の措置を講ずるこ と。ただし、当該措置と同等以上の効果を有する措置を講じたときはこの限りではないこと。 ア 吹き付けられた石綿等の除去作業 イ 保温材、耐火被覆材、断熱材の除去作業のうち、石綿等の切断を伴う作業 (7) その他 上記(6)の作業を行う場合には、次のアからウまでに掲げる集じん・排気装置の保守点検の徹底を図 ること。 ア 集じん・排気装置の取扱説明書等に基づき、フィルターの目詰まりによる劣化を防止するため、 フィルターを定期的に交換すること。 イ 集じん・排気装置のパッキンの取付け等の不具合による石綿の漏洩を防止するため、使用開始前 の取付け状態を確認すること。 ウ その他、集じん・排気装置に係る定期自主検査指針等に示された事項を確認すること。 3 委託事業による事業場に対する指導、支援の活用 地震や津波により被害を受けた建築物等の解体工事に当たっては、上記(1)アのとおり、建築物等自体 の強度が低下していることによる崩壊・倒壊の危険等が想定されることから、作業を開始するに当たって は、適切な作業計画を策定し、それに基づき作業を実施することが特に重要である。 平成23年度第1次補正予算にて、「東日本大震災に係る復旧工事安全衛生確保支援事業」(別紙2参照) として、岩手、宮城、福島の3県に災害復旧・復興工事を実施する事業者に対する支援のための拠点(支 援センター)を設置し、安全衛生の専門家による[1]工事現場への巡回指導、[2]安全衛生相談、[3]安全 衛生教育への支援等を実施しているので、解体工事における作業計画の作成に際しては、必要に応じ、 本事業の安全衛生相談も活用して、適切な作業計画の作成に努めること。 (別記団体等) 社団法人全国建設業協会 社団法人全国解体工事業団体連合会 建設業労働災害防止協会 社団法人日本建設業連合会 社団法人建設産業専門団体連合会別紙1(PDF:136KB)