安全衛生情報センター
第1 趣旨 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所における厚生労働大臣 が指定する緊急作業(電離放射線障害防止規則第59条の2第1項の規定に基づき厚生労働大臣が指定する緊 急作業(平成23年厚生労働省告示第402号)で定める緊急作業をいう。以下「指定緊急作業」という。)に 従事し、又は従事した労働者(以下「緊急作業従事者等」という。)のうち、指定緊急作業期間中に通常 の放射線業務の被ばく上限を超える線量を被ばくした労働者については、がん等晩発性の健康障害の発 生が懸念されるとともに、緊急作業従事者等が抱く健康上の不安を解消するため、緊急作業従事者等が 離職した後を含め、それらに対する検査等、適切な長期的健康管理を実施する必要がある。 本指針は、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「法」という。)第70条の2第1項に基づき、緊 急作業従事者等を指定緊急作業又は放射線業務(以下「緊急作業等」という。)に従事させる事業者が講 ずるよう努めるべき労働者の健康の保持増進のための措置が適切かつ有効に実施されるよう、緊急作業 従事者等の健康管理の実施方法の原則を定めるとともに、緊急作業従事者等が放射線業務から離れた後 における適切な長期的健康管理が実施されるために必要な措置を定めるほか、緊急作業従事者等の健康 の保持増進に関する措置の適切かつ有効な実施を図るために国が行う必要な援助について定めるものと する。 第2 長期的健康管理のための取組 1 事業場内の体制の確立 緊急作業従事者等を緊急作業等に従事させた事業者(現に、当該者を緊急作業等以外の業務に従事さ せる中小企業者を除く。)は、緊急作業従事者等に対する長期的な健康管理を適切に実施するため、事 業場の規模に応じ、衛生委員会、衛生管理者、産業医、保健師等による事業場内管理体制を確立し、 一般健康診断(法第66条第1項の規定による健康診断をいう。)、電離放射線健康診断(電離放射線障害 防止規則(昭和47年労働省令第41号。以下「電離則」という。)第56条の規定による健康診断をいう。) を適切に実施する。 2 がん検診等の実施 (1) 事業者は、緊急作業従事者等であって、指定緊急作業に従事した間に受けた放射線の実効線量が 50ミリシーベルトを超え100ミリシーベルト以下の者については、おおむね1年ごとに1回、細隙灯 (さいげきとう)顕微鏡による白内障に関する眼の検査を実施する。この際、水晶体の写真を撮影し ておくことが望ましい。ただし、当該労働者が受診を希望しない場合にはこの限りではない。 (2) 事業者は、緊急作業従事者等であって、指定緊急作業に従事した間に受けた放射線の実効線量が 100ミリシーベルトを超える者については、上記(1)の検査に加え、おおむね1年ごとに1回、次に掲 げる検査を実施する。ただし、当該労働者が受診を希望しない場合にはこの限りではない。また、 一般定期健康診断等の健康診断において実施する採血による赤血球数及び血色素量の検査と併せて 白血球数及び白血球百分率の検査を実施することが望ましい。
検査名 | 検査項目 |
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甲状腺の検査 |
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胃がん検診 | 胃エックス線透視検査又は胃内視鏡検査 |
肺がん検診 | 胸部エックス線検査及び喀痰細胞診 |
大腸がん検診 | 便潜血検査 |
(3) 事業者は、上記(1)及び(2)の検査を実施するにあたって、あらかじめ、検査内容やその必要性等 について、受診者に対して十分に説明する。 3 保健指導等 (1) 事業者は、緊急作業従事者等に対し、「健康診断結果に基づき事業者が講ずベき措置に関する指 針」(平成20年1月31目、健康診断結果措置指針公示第7号)に基づき、医師又は保健師による保健指 導を受けさせる際には、電離放射線健康診断及び2で定めるがん検診等の結果を総合的に考慮した保 健指導を実施する。 (2) 事業者は、緊急作業従事者等に対し、通常の放射線業務とは異なる環境下で緊急性の高い作業に 従事したことによる精神面への影響を踏まえ、当該者が希望する場合には、「労働者の心の健康の 保持増進のための指針」(平成18年3月31日、健康保持増進のための指針公示第3号)に留意した上で メンタルヘルスケアを含めた健康相談を実施する。 (3) 事業者は、一般健康診断及び電離放射線健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見がある と診断された労働者に係るものに限る。)については、法第66条の4の規定に基づき、医師等の意見 を聴き、その意見に基づいて就業上の措置を決定する。ただし、2で定めるがん検診等の結果は、原 則として再検査又は精密検査、治療のための受診の勧奨を行うために活用されるものであり、安易 に就業上の措置の決定には用いることがあってはならないことに留意する。 (4) 事業者は、一般健康診断、電離放射線健康診断、保健指導等の結果等、本指針に係る健康情報の 保護を図るため、その取扱いについては、「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保する ために事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成16年厚生労働省告示第259号)に留意する。 第3 緊急作業従事者等の長期的健康管理のためのデータベースの整備等 1 データベースの整備等 (1) 緊急作業従事者等を緊急作業等に従事させる事業者(電離放射線障害防止規則の一部を改正する省 令(平成23年厚生労働省令第129号)の施行前に、緊急作業従事者等を指定緊急作業に従事させた事業 者を含む。)は、緊急作業従事者等が緊急作業等に従事している間は、電離則第59条の2の規定に基 づき、次に掲げる項目を国に報告しなければならない。 ア 健康診断結果 [1] 電離則第57条の規定による電離放射線健康診断結果 [2] 労働安全衛生規則第44条及び第45条の規定による一般健康診断結果 [3] 法第66条第4項の規定による臨時健康診断結果 イ 「線量等管理実施状況報告書」(電離則様式第3号)に定める事項 [1] 氏名、住所、所属事業場名等 [2] 緊急作業に従事していた間の被ばく線量、指定緊急作業に従事する以前及び指定緊急作業に 従事した後に従事していた放射線業務による被ばく線量等 (2) 事業者は、第2の2のがん検診等、上記(1)以外の検査を緊急作業従事者等に対して実施した場合、 当該者の同意を得た上で、医師の診断・所見を含む検査結果を国に報告する。 (3) 緊急作業従事者等には、当該者に係る上記(1)及び(2)の項目等を記録し及び保存することができ るよう国が設けたデータベースに登録された旨を証する書面(以下「登録証」という。)が送付され るものとする。緊急作業従事者等は、国が設置する緊急作業従事者等を支援するための窓口(以下 「支援窓口」という。)に登録証を提示することにより、自らの被ばく線量、健康診断結果等の記録 の写しの交付を受けることができる。 (4) 第2の2(1)及び(2)に該当する緊急作業従事者等(以下「特定緊急作業従事者等」という。)は、上 記(1)及び(2)の主要な事項が記載された「特定緊急作業従事者等被ばく線量等記録手帳」(以下「手 帳」という。)の交付を受けることができる。また、随時、支援窓口において、手帳の記載内容の追 記を受けることができる。 2 緊急作業従事者等を新たに放射線業務に従事させる場合の措置 (1) 新たに労働者を放射線業務に就かせようとする事業者は、当該労働者に対する雇入れ時電離放射 線健康診断における過去の被ばく歴の調査により、当該労働者が緊急作業従事者等に該当すること を把握した場合は、電離則第59条の2の規定に基づき、第3の1に定める報告を国に対して行なわなけ ればならないとともに、当該者の指定緊急作業時の被ばく線量に応じ、第2に定める健康管理等を適 切に実施する。 (2) 事業者は、特定緊急作業従事者等の健康管理を実施するに当たり、当該者の同意を得た上で、手 帳に記載された過去の健康診断結果等を把握し、それを保健指導又は健康相談に活用する。 第4 緊急作業従事者等の健康の保持増進に関する措置の適切かつ有効な実施を図るために国が行う必要 な援助等 1 がん検診等の受診勧奨 特定緊急作業従事者等のうち、緊急作業等に従事する者については、事業者を通じ、それ以外の者 については、直接、おおむね1年ごとに1回、第2の2に定める被ばく線量に応じ、がん検診等の受診を 勧奨する通知をするものとする。 2 国による保健指導等の実施 国は、支援窓口において、緊急作業従事者等に対する健康相談又は保健指導を行う。 3 特定緊急作業従事者等への援助等 ア 国は、特定緊急作業従事者等のうち、現に職業に就いていない者については、一般健康診断及び第 2の2に掲げる各検査に相当する検査を受診する場合において、当該検査に要する費用の全部又は一部 を援助する。 イ 国は、特定緊急作業従事者等のうち、現に、緊急作業等以外の業務に従事させる事業者(当該者を 緊急作業等に従事させた中小企業者以外の事業者を除く。)に雇用される者については、第2の2に掲 げる各検査に相当する検査を受診する場合において、当該検査に要する費用の全部又は一部を援助す る。 ウ 国は、上記ア又はイの検査を実施する医療機関から、受診者の同意を得た上で、医師の診断・所見 を含む検査結果の報告を得るものとする。 4 国は、1から3までに掲げるもののほか、特定緊急作業従事者等の健康の保持増進に関する措置の適 切かつ有効な実施を図るために必要と認められる援助等を行うことができる。