鉛中毒予防規則は、鉛及び鉛化合物取り扱い作業者の特殊健康診断項目の中に生物学的モニタリング(バイオロジカルモニタリング、略してBEIとも呼ばれる)を含めている。鉛の生物学的モニタリングは血液中鉛濃度と赤血球中プロトポルフィリン濃度、及び尿中デルタアミノレブリン酸濃度の測定である。本書は、作業者に対して生物学的モニタリングを実施する産業医や衛生管理者、作業環境管理者などを対象に、生物学的モニタリングの意味、具体的な実施の際に考慮すべき点、測定結果への対応、作業管理及び作業環境管理との連携などを具体的な事例を示して解説した手引書である。
鉛の生物学的モニタリングは、体内に取り込まれた鉛が溶解して血液によって体内を移動し、造血器に作用して造血メカニズムの過程でデルタアミノレブリン酸脱水素酵素を阻害するためにデルタアミノレブリン酸が蓄積され、その結果として尿中へ高濃度で排泄され、また同じ造血メカニズムのコプロポルフィリンと鉄が結合してプロトポルフィリンが生成する過程を刺激して赤血球中のプロトポルフィリンが過剰になる現象を利用して、体内に蓄積された鉛の量の指標として血中鉛濃度を、その造血機能への影響指標として赤血球中プロトポルフィリン濃度と尿中デルタアミノレブリン酸濃度を測定するものである。
鉛は体内での滞留時間が長く、蓄積性があるために、短期間で体内蓄積量が大幅に変動することは一般にないが、蓄積量と健康影響は必ずしも並行せず、測定結果の評価には種々の基礎知識が必要となる。本書には、中央労働災害防止協会が労働省の要請により生物学的モニタリングが事業場で実際に行われている状態を調査した結果についても解説されている。
本書には具体的な情報として、鉛の生体内での造血器への影響のメカニズム、尿の濃度の分布と季節変動、作業環境濃度と血中鉛濃度の相関、曝露濃度指標と影響指標の意味するもの、検診結果の解釈、検診結果の活用、血中鉛濃度が高かった作業者の作業環境の問題点の例、健康影響から見た指標値の閾値などが示されている。
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