有機溶剤中毒予防規則では、その対象となっている有機溶剤のうち8種類の有機溶剤に対して、取り扱い作業者の特殊健康診断項目の1つとして、生物学的モニタリングを規程している。生物学的モニタリングは体内に取り込まれた有機溶剤の量を推定するために行う尿中代謝産物の分析による測定である。本書は、作業者に対して生物学的モニタリングを実施する産業医や衛生管理者、作業環境管理者などを対象に、生物学的モニタリングの意味、具体的な実施において考慮すべき問題点、その結果への対応、作業管理及び作業環境管理との連携などを具体的な事例を示して解説した手引書である。
生物学的モニタリングは体内に取り込まれた化学物質が、体内で代謝されて化学変化し、尿中に排泄されるメカニズムを利用して、作業者の尿中代謝産物の量を測定して、作業者が経口的か経皮的かに係わらず摂取した量を推定するために行うもので、有機溶剤の種類毎に代謝の速度や代謝産物の種類が異なるために、尿の採取の時間や分析結果の評価には種々の基礎知識が必要である。中央労働災害防止協会は労働省の要請により生物学的モニタリングが事業場で実際に行われている状態を調査し、その結果を含めて本書で解説している。
本書に含まれる具体的な情報として、清涼飲料水の中の安息香酸はトルエンと同じく代謝産物として馬尿酸を尿中に排泄すること、その摂取時からの経過による馬尿酸の尿中濃度の変化、飲酒による代謝速度の遅延、作業環境濃度の時間変動と尿中代謝物の濃度の時間変動の相関、採尿時間の設定、尿の濃度と尿の総量、代謝産物の尿中濃度の季節変動、尿中代謝産物の濃度による3分布評価、評価結果から作業管理や作業環境管理、健康管理の見直しの実例、などが示されている。
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