悪性新生物は中高年労働者の死因の半数以上を占めているが、職域におけるがん検診は義務化されておらず、がん検診の経済効果も検討されていない。地域住民に対する老人保健法による子宮がんと胃がんの検診の効果は立証されているが、大腸がん検診の効果は、評価のための資料収集さえ進んでいない。このような状況において本研究は平成6年度に全国産業健康管理研究協議会(全産研)が中央労働災害防止協会からの委託により行った調査検討の報告書である。全産研は全産研に所属する約260事業場の総従業員数約100万人を対象として、職域がん検診(胃と大腸)の実施状況を調査するとともに、健康管理上の効果及び経済的損失の判定を行った。
調査項目は以下の2項目である。
1)がん検診の実施状況及びそれががん死亡率低下に及ぼす影響
2)がん検診導入の医療経済的評価
検診を毎年実施している事業場は胃がんでは全体の46.3%、大腸がんでは23.3%であった。隔年、希望者のみなどの何れの形態でも検診を実施しない事業場は胃がんで0.9%、大腸がんで44.2%であった。検診の効果として、全員毎年検診する群とその他の群の比較で、胃がんでは差が認められなかったが、大腸がんでは毎年検診群でその他の群より大腸がん死亡率が17%低い結果を得た。
消化器系がん検診の医療経済的評価から、胃がん検診では直接胃透視後に胃内視鏡と生検を行う個人検診方式の総費用が最低であり、大腸がん検診については便潜血検査後に注腸検査及び大腸内視鏡と生検を行う集団検診方式か、便潜血検査後に大腸内視鏡と生検を行う個人検診方式のどちらかを選択することが望ましいとされた。
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