近年、企業の経営環境は、長期にわたる景気の停滞や国際化、情報化の進展等の環境変化に伴い、厳しさが増している。こうした中、企業経営の一層の効率化が要請されており、特に費用対効果の視点から、限られた経営資源をいかに効率的に活用するかが問われている。労働安全対策についても同様であり、費用対効果を見極めるための評価方法への関心が高まっているが、実際には、これまで企業において労働安全対策としてどのような費用がどの程度投入されており、その結果どの程度の効果が生じているかについては、ほとんど明らかになっていない。
本分析は、こうした状況を踏まえ、企業が労働災害防止のために投じている「費用」とその「効果」の程度を数量的に把握することを試みたものである。企業における安全対策の費用として取り上げたのは、ソフト面、ハード面にかける安全対策費と不幸にして労災事故が発生した時に要する諸費用である。一方、効果として挙げたのは、主要効果としては「労働災害の防止効果、回避効果」、副次的効果としては「生産性向上効果」、「製品の品質向上効果」、「早退、遅行、欠勤、疾病罹患率減少効果」、「企業イメージや信用向上効果」などである。
調査分析は、企業に対して実額を記入していただく等のアンケート調査をもとに推計を行うという方法が採られた。分析結果によると、企業における安全に係る費用対効果比は1:2.7との試算がえられた。2.7倍の経済効果があるということである。また、投じた直接の安全対策費は、その3倍に当たる災害防止・災害回避効果、すなわち、企業にとっての節約効果をもたらしていることも明らかとなった。あるいは、投じた安全対策費の60%近くは、生産性向上効果などの副次的効果により回収されているとの試算結果も得られている。
付属資料に、労働災害統計の日・英比較、アンケート調査資料一式、安全対策に 係る費用対効果総括表がつけられている。
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