現在、わが国で広く行われている日本酒の醸造は、約400年の歴史を持つといわれ、諸外国で多く見られる各種のアルコール醗酵とは異なる、特異で微妙な固有の醸造工程による伝統産業である。農閑期の冬場(酒造りに適する季節)一杜氏の指揮の下に蔵人が酒蔵に入って酒造りに従事する労働形態は、農村からの出稼ぎ労働であり、冬期を中心に行われる季節労働の一種であると見ることができる。
日本酒製造業はごく一部の大規模な事務所を除くと大多数は全国各地に散在する昔からの典型的な零細企業である。時代の流れによる生産体系の見直しは避けて通れない課題であり、変革が徐々に進行しつつある。ひとつの変革の方向として製造工程の自動化、省略化があり、この方向は必然的に大規模工業化することになり、近代的な労務管理がとられるようになってきている。
本書は中央労働災害防止協会が平成10、11年度の事業として日本酒製造業における労働実態の分析と安全・衛生管理の在り方についての調査研究を取り上げ、委員会を組織し進めてきたものをまとめたものである。過去8年間の死亡災害の発生状況を見ると、死亡災害は小、零細事業所の中高年労働者に多く、仕込タンク周辺等での高所作業に伴う転落・墜落と、タンク内への転落または落下物を取ろうとして不用意にタンク内に入ることによる酸素欠乏症が大半を占めていた。
酒蔵内の労働条件を見ると、仕込タンクの気中酸素濃度は明らかな欠乏状態であったが、麹室の中の酸素濃度の低下はほとんど問題にならない程度であった。
仕込タンク内に不用意に入ることのないよう作業標準の策定などの作業管理の徹底が望まれる。また作業騒音が作業者の耳の位置で90dB(A)を超える第III管理区分に該当する場合があり、要経過観察程度の軽度の騒音性難聴の原因になる可能性があるので、聴覚保全のための対応も必要であろうと記されている。巻末に多数の図、表およびカラーの現場写真が載せられている。
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