別添
平成25年3月14日
改正 平成25年10月1日

洗浄又は払拭の業務において事業者が講ずべき化学物質のばく露防止対策の留意事項

 以下の事項は、「洗浄又は払拭の業務において事業者が講ずべき化学物質のばく露防止対策」(以下
「対策」という。)を技術的に補足し、実務上の留意点等を示すものである。

1 対象業務(対策の1関係)
  対象業務には、印刷機のローラーやブランケット部分を手作業で洗浄し又は払拭する業務及び印刷機
 に取り付けられた洗浄装置を用いて洗浄する業務だけでなく、メッキの前処理工程としての金属表面の
 脱脂や、金属部品や機械を洗浄槽等で洗浄(脱脂を含む。)する業務も含まれること。
  洗浄又は払拭に用いる液体の化学物質としては、脂肪族塩素化合物、脂肪族フッ素化合物及び脂肪族
 臭素化合物(以下「脂肪族ハロゲン化合物」という。)のほか、シクロヘキサン、トリメチルベンゼン、
 ミネラルスピリット等炭素数の少ない石油系炭化水素類が多く用いられており、有機溶剤中毒予防規則
 (昭和47年労働省令第36号。以下「有機則」という。)に規定する有機溶剤及び特定化学物質障害予防規
 則(昭和47年省令第39号。以下「特化則」という。)に規定するエチルベンゼン等に限定せずにばく露防
 止対策を講ずる必要があること。本通達の対象物質としては、その含有量が、有機則に準じて全体の重
 量の5%を超える物としているが、特化則及びがん原性指針の対象物質については、それぞれの規定に
 基づき、重量の1%を超えて含む含有物は対象に含まれることに留意すること。常温で液体の溶剤を含
 まない水系の洗浄剤は対象としないが、エマルション系の洗浄剤については、当該溶剤の含有量により
 判断すること。

2 危険有害性情報に基づく化学物質管理(対策の3関係)
  労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第576条及び第577条は、有
 害物を取り扱い、蒸気を発散する有害な作業場においては、事業者は、その原因を除去し、屋内作業場
 における蒸気の含有濃度が有害な程度とならないよう必要な措置を講ずることとしており、化学物質を
 取り扱う事業者は、有機則特化則等の特別則による規制対象となっている物質以外の物質であっても、
 当該物質の危険性や有害性を把握した上で、適正な化学物質管理を行うことが求められること。
  労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第57条は、労働者に健康障害を生ずるおそれのある物等約100
 物質及びその含有物を表示対象物質とし、同法第57条の2は、640物質及びその含有物を通知対象物質と
 しているが、安衛則の改正により、平成24年4月から、譲渡し、又は提供する者は、通知対象物質以外
 の危険有害性情報を有する全ての化学物質及びその混合物についても、表示や通知をすることが努力義
 務とされている。こうしたことを踏まえ、事業者は、洗浄剤等を購入する際に、含まれる化学物質に関
 する危険有害性情報を入手して確認し、労働者に周知する必要がある。その詳細は、「化学物質等の危
 険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針」(平成24年厚生労働省告示第133号)によるこ
 と。

3 適切な換気の確保(対策の3の(2)関係)
  全体換気装置は、作業場内の汚染された空気を排気口から外部に排出するとともに、新鮮な外気を導
 入して作業場内に発散した揮発性物質の蒸気を混合希釈することにより、作業場内の揮発性物質の蒸気
 の濃度を下げるものである。したがって、排気口からの汚染された空気は、室内に還流させることなく
 外部に直接排出する必要があること。また、全体換気を効果的に行うため、揮発性物質の消費量に応じ
 て希釈に必要な換気量を確保するとともに、排気口を発散源からできるだけ近い位置にし、給気口があ
 るものについては、吹き出す新鮮な外気が部屋全体に行き渡るよう配置するなどの工夫が必要であるこ
 と。
  「空気中の化学物質の含有濃度が有害な程度とならない」ためには、作業場の濃度レベルがACGIH又
 は日本産業衛生学会が定める許容濃度を常に下回る状態にある必要があるが、局所排気装置又はプッシ
 ュプル型換気装置を設けていない作業場では、1日の化学物質の消費量、1日の換気量等から算出した平
 均濃度が目安となること。また、ACGIHでTLV-STEL(短時間ばく露限度)やTLV-C(上限値)が定められて
 いる化学物質については、これらについても超えないようにする必要があること。

4 呼吸用保護具の使用(対策の3の(3)関係)
  洗浄又は払拭の業務は、労働者に高濃度のばく露のおそれがあることから、有機則特化則又はがん
 原性指針の対象物質かどうかに関わらず、有効な呼吸用保護具を使用すべきであること。有機ガス用防
 毒マスクについては、国家検定に合格したものを使用させるのはもちろんのこと、正しい装着と管理に
 よりはじめて所定の効果が得られるものであるので、「防毒マスクの選択、使用等について」(平成17
 年2月7日付け基発第0207007号)に従うこと。なお、脂肪族ハロゲン化合物の中には、ジクロロメタンの
 ように、試験ガスと比べて、破過時間(吸収缶が除毒能力を喪失するまでの時間)が極めて短いものがあ
 るため、吸収缶の交換時期に留意するとともに、休憩中に有機ガス用防毒マスクを作業場に放置するこ
 とがないよう、保管にも留意すること。また、業界団体等においては、(公社)日本保安用品協会の保護
 具アドバイザーに指導を求めることも有効であること。
  「労働者が高濃度の化学物質にばく露するおそれがない」とは、単に化学物質の使用量が少ないこと
 を指すものではなく、高沸点の化学物質のみを使用する場合などに蒸気圧等からばく露濃度を見積もっ
 たり、あらかじめ気中の化学物質の濃度を測定したりした結果が、ACGIH又は日本産業衛生学会が定め
 る許容濃度等を常に下回り、かつ、労働者の呼吸域でのばく露がこれらを超えないと客観的に判断され
 る場合があること。

5 保護手袋の使用(対策の3の(4)関係)
  洗浄又は払拭の業務において、皮膚からの吸収を防止するために使用する不浸透性の保護手袋につい
 ては、その組成と使用化学物質により浸透が始まる時間が大きく異なることに留意し、適切なものを選
 定すること。特に、市販のポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の材質の手袋の中には、使用化学物質によ
 って素材が溶出したり、短時間で浸透が始まり皮膚を保護することができないものがあることに留意す
 ること。

6 作業方法等の改善(対策の3の(6)関係)
  全体換気装置による換気が行われている作業場であっても、給気口から送られる新鮮な外気が作業場
 全体に行き渡らない等により、空気中の揮発性物質の蒸気の濃度は、必ずしも均一とはならない。この
 ため、作業に従事する労働者が局所的に高い濃度の蒸気にさらされることにより当該労働者のばく露が
 大きくなることがあることに留意すること。また、洗浄作業を手作業で行う場合には、労働者の呼吸域
 が揮発性化学物質の発散場所からできるだけ離れた作業方法となるよう工夫すること。

7 危険有害性が不明の化学物質への対応(対策の4関係)
  発散抑制措置は、化学物質の蒸気を発散源において吸引し、外気に排出する等の構造をもつものであ
 ること。気中に発散した化学物質を希釈しながら排出する全体換気装置は、発散抑制措置としては認め
 られないこと。


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