VDT作業のための労働衛生上の指針について
(平成14年4月5日基発第0405001号により廃止) |
改正履歴
VDT作業における労働衛生管理については、昭和59年2月、当面の措置として、指標(ガイドライン)
としての「VDT作業における労働衛生管理のあり方」を公表し、事業場における自主的対策の推進を勧
奨してきたところである。
一方、VDT作業のもたらす健康影響やその予防対策に関する調査研究が各方面で進められており、労
働省においても産業医学総合研究所及び産業医学大学で、昭和58年度から3か年計画により、OA化に伴
う作業環境や労働態様の変化が労働者の健康に及ぼす影響について調査研究を実施し、また、OA化等に
伴う労働衛生対策研究委員会においても、内外の文献評価、事例研究を行ってきた。
今般、これらの調査研究の結果や新たに得られた現在の知見に基づいて前述のガイドラインを見直し、
「VDT作業のための労働衛生上の指針」を別添のとおり定めたので、今後は、これにより関係事業場を
指導されたい。
なお、この通達の解説部分(参考を除く。)は、本文と一体のものとして取り扱われたい。
別添
VDT作業のための労働衛生上の指針
1 はじめに
近年、マイクロエレクトロニクスや情報処理を中心とした技術革新により、各産業分野でオフィスオ
ートメーション化が急速に進められており、VDT(Visual or Video Display Terminals)が広く職
場に導入されてきた。これに伴い、VDT作業に従事する労働者の健康確保の問題がクローズアップさ
れるようになった。
労働衛生においては、関係労使が適切な作業環境管理、作業管理及び健康管理に積極的に取り組むこ
とがその基本であるが、VDT作業における労働衛生管理についてもこのいわゆる三管理が重要である
ことはいうまでもない。このような観点から、昭和59年2月に当面の措置として発表した指標(ガイド
ライン)としての「VDT作業における労働衛生管理のあり方」を、機器の改良やその後内外で得られ
た人間工学、労働生理学等の分野における知見に基づいて見直すとともに、新たに健康診断の項目及び
労働衛生教育等について具体的に示したものが本指針である。
本指針は、標準的なVDT作業を対象としたものであるので、各事業場においては、これをもとにV
DTを使用する作業の実態に応じた労働衛生管理基準を定める必要がある。また、この基準を適正に運
用するためには、労働衛生管理体制の整備と各級管理者の活動が基本となるのはもちろんであるが、V
DT作業に従事する労働者がその趣旨を理解し、積極的に基準の履行を努めることが極めて重要である
ので、適切な労働衛生教育を実施することが不可欠である。
なお、職場における基準を新たに設けたり変更する場合には、その基準を職場の作業実態によりよく
適合させるため、試行期間を設けるとともに、衛生委員会等においてその効果を確認していくという弾
力的な運用が重要である。
2 本指針の対象
本指針は、事務所(事務所衛生基準規則第1条第1項に規定する事務所。)において行われるVDT
作業(CRT(Cathode Ray Tude)ディスプレイ、キーボード等により構成されるVDT機器を使用し
て、データの入力・検索・照合等、文書の作成・編集・修正、プログラミング等を行う作業をいう。以
下同じ。)に関する労働衛生管理を対象とする。
なお、事務所以外の屋内作業場において行われるVDT作業及びVDT作業に類似する作業について
も、本指針を参考にして労働衛生管理を行うことが望ましい。
3 作業環境管理
(1) 照明及び採光
イ 室内は、できるだけ明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせないようにすること。
ロ 陰画表示のCRTディスプレイを用いる場合のディスプレイ画面における照度は500ルクス以下、
書類及びキーボード面における照度300ルクスからおおむね1000ルクスまでとすること。
また、CRTディスプレイ画面の明るさ、書類やキーボード面における明るさと周辺の明るさの
差はなるべく小さくすること。
ハ 直接太陽光が入射するなどの高輝度の窓については、ブラインド又はカーテン等を設け、必要に
応じてその輝度を低下させることができるようにすること。
(2) グレアの防止
CRTディスプレイは、作業者の視野内には高輝度の照明器具・窓・壁面や点滅する光源等がな
く、かつ、CRTディスプレイ画面にこれらが映り込まないような場所に設置すること。
イ CRTディスプレイ画面の前後の傾斜の調整を行うこと。
ロ 低輝度型照明器具を使用すること。
ハ CRTディスプレイにフード又はフィルタを取り付けること又は反射防止型CRTディスプレイ
を用いること。
ニ その他グレアを防止するための有効な措置を講じること。
(3) 騒音伝ぱの防止
プリンター等から不快な騒音が発生する場合には、騒音伝ぱの防止措置を講じること。
(4) その他
換気、空気調和、静電気除去等について事務所衛生基準規則に定める措置をはじめとする必要な
措置を講じること。
4 作業管理
(1) 作業時間等
イ 一日の作業時間
連続してCRTディスプレイ画面からデータ等を読み取り又はキーを操作するVDT作業(以下
「連続VDT作業」という。)に常時従事する労働者については、視覚負担をはじめとする心身の
負担を軽減するため、できるだけCRTディスプレイ画面を注視する時間やキーを操作する時間が
短くなるよう配慮することが望ましく、VDT作業以外の作業を組み込むこと又は他の作業とのロ
ーテーションを実施することなどにより、一日のVDT作業時間が短くなるように配慮することが
望ましい。
ロ 一連続作業時間及び作業休止時間
連続VDT作業に常時従事する労働者については、一連続作業時間が1時間を超えないようにし、
次の連続作業までの間に10〜15分の作業休止時間を設け、かつ、一連続時間作業時間内において
1〜2回程度の小休止を設けること。
(2) VDT機器等
イ CRTディスプレイ
フリッカーは、知覚されないものであること。
文字又は図形の輝度及びそれらと背景との輝度対比(コントラスト)はVDT作業従事者(VD
T作業に従事する労働者をいう。以下同じ。)が容易に調整できるものであること。
文字又は図形は、次の事項が考慮され、読み取りやすいものであること。
(イ) 大きさ及び形状
(ロ) 文字又は図形及び背景の色彩
(ハ) 文字の間隔及び行の間隔
ロ キーボード
(イ) キーボードは、その位置がVDT作業従事者によって調整できるものが望ましい。
(ロ) キーは、ストローク(押圧距離)及び押下力が適当であり、操作したことをVDT作業従事
者が知覚しうることが望ましい。
(ハ) キートップ等に印された文字や記号は、できるだけ明瞭で判別しやすいものであること。
(ニ) キーボード及びキートップの表面は、つや消しされたものが望ましい。
(ホ) キーは、操作が円滑に行えるように配置されているものであること。
ハ 椅 子
安定しており、かつ、容易に移動できること。
床からの座面の高さは、少なくとも35cm〜45cmの範囲で調整できること。
複数のVDT作業従事者が同一の椅子を使用する場合には、高さの調整が容易であり、調整中に
座面が落下しない構造であること。
適当な背もたれを有しているものであること。
必要に応じてひじ掛けを有しているものであること。
ニ 机又は台
作業面は、キーボード、書類、書見台その他VDT作業に必要なものが適切に配置できる広さで
あること。
脚まわりの空間は、VDT作業中に脚が窮屈でない大きさのものであること。
机又は台の高さについては、次に示す数値を目安にすること。
(イ) 高さの調整ができない机又は台を使用する場合、床から高さは65cm以上70cm以下のもの。
(ロ) 高さの調整が可能な机又は台を使用する場合、床からの高さは少なくとも60cm〜75cmの範
囲で調整できること。
(3) 調 整
無理な姿勢による作業が継続しないようにするため、次の事項に留意のうえ、椅子の座面の高さ、
キーボード・CRTディスプレイの位置等を総合的に調整すること。
イ 椅子に深く腰をかけて背もたれに背を十分にあて、履き物の足裏全体が床に接した姿勢を基本と
すること。また、書見台及び十分な広さをもち、かつ、すべりにくい足台を必要に応じて備えるこ
と。
ロ 椅子と大腿部膝側背面との間には手指が押し入る程度のゆとりがあり、大腿部に無理な圧力が加
わらないようにすること。
ハ 上腕をほぼ垂直に垂らし、かつ、上腕と前腕の角度を90°又はそれ以上適当な角度を保持したと
きに、キーボードに自然に手指がとどくようにすること。
ニ CRTディスプレイは、その画面の上端が眼の位置より下になるような高さにすること。
また、おおむね40cm以上の視距離が確保できるようにすること。
ホ CRTディスプレイ画面とキーボード又は書類との視距離の差が極端に大きくなく、かつ、適切
な視野範囲になるようにすること。
5 VDT機器等及び作業環境の維持管理
作業環境を常に良好な状態に維持し、VDT作業に適したVDT機器等の調整を図るため、次によ
り点検、調整及び清掃を行い、必要に応じ、改善措置を講じること。
(1) 日常の点検と調整
VDT作業従事者には、日常の業務の一環として、作業開始前又は一日の適当な時間帯に、採光、
グレアの防止、換気、静電気除去等について点検させるほか、CRTディスプレイ、キーボード、
椅子、机又は台等の調整を行わせること。
(2) 定期点検
照明及び採光、グレアの防止、騒音伝ぱの防止、換気、空気調和、静電気除去等の措置情況及び
CRTディスプレイ、キーボード、椅子、机又は台等の調整状況について定期に点検すること。
(3) 清 掃
日常及び定期に作業場所、VDT機器等の清掃を行い、常に清潔に保持すること。
6 健康管理
VDT作業に常時従事する労働者(以下「VDT作業常時従事者」という。)に対しては、次により
健康管理を行うこと。
(1) 健康診断
イ 配置前健康診断
VDT作業に新たに従事する労働者(再配置の者を含む。以下同じ。)の配置前の健康状態を把
握し、その後の健康管理を適正に進めるため、次の項目について健康診断を行うこと。
(イ) 業務歴の調査
(ロ) 既往歴及び自覚症状の有無の調査
(ハ) 眼科学的検査
a 視力検査
(a) 5m視力の検査
(b) 近方視力の検査
b 眼位検査
c 調節機能検査
(a)又は(b)のいずれかを行う。
(a) 近点距離の測定
(b) 調節時間の測定
d 眼圧検査
e その他医師が必要と認める検査
(ニ) 筋骨格系に関する他覚的検査
a 視診及び触診
b 握力検査
c タッピングテスト
d その他医師が必要と認める検査
(ホ) その他医師が必要と認める者についての必要な検査
ロ 定期健康診断
定期健康診断(労働安全衛生規則第44条に定めるものをいう。)を実施する際に、併せて次の項
目について行うこと。
(イ) 業務歴の調査
(ロ) 既往歴の調査
(ハ) 自覚症状の有無の調査
a 眼疲労を主とする視器に関する症状
b 頚肩腕部の筋及び腰背部を主とする体軸筋のこり・痛み等の症状
c その他の精神神経疲労に関する症状
(ニ) 眼科学的検査
a 5m視力の検査
b 近点距離の測定
c その他医師が必要と認める検査
(ホ) 筋骨格系に関する他覚的検査
a 視診
b 握力検査
c その他医師が必要と認める検査
ハ 健康診断結果に基づく事後措置
配置前又は定期の健康診断によって早期に発見した健康阻害要因を詳細に分析し、有所見者に対
して次に掲げる保健指導等の適切な措置を講じるとともに、予防対策の確立を図ること。
(イ) 業務歴の調査、他覚症状等から愁訴の主因を明らかにし、健康管理を進めるとともに、職場
内のみならず職場外に要因が認められる場合についても必要な保健指導を行うこと。
(ロ) 視力矯正が不適切な者、特に強度の近視、遠視又は乱視の者には、適正視力でVDT作業が
できるように、必要な保健指導を行うこと。
(ハ) VDT作業を続けることが適当でないと判断される者又はVDT作業に従事する時間の短縮
を要すると認められる者等については健康保持のための適切な措置を講じること。
ニ 健康相談
VDT作業従事者が気軽に健康について相談し、適切なアドバイスを受けられるように、健康相
談の機会を設けるよう努めること。その際、中高年齢者のほかパートタイム労働者も相談しやす
い環境を整備するなど特別の配慮を行うことが望ましい。
ホ 職場体操
VDT作業常時従事者については、就業の前後又は就業中に体操を行わせることが望ましい。
7 労働衛生教育
労働衛生管理のための諸対策の目的と方法をVDT作業従事者に周知することにより、職場における
作業環境・作業方法の改善、適正な健康管理を円滑に行うため及びVDT作業による心身への負担の軽
減を図ることができるよう、必要な労働衛生教育及びVDT作業の習得訓練を行うこと。
(1) VDT作業従事者に対して、次の事項について教育を行うこと。また、当該作業者が自主的に健
康を維持管理し、かつ、増進していくために必要な知識についても教育を行うことが望ましい。
イ VDT作業の健康への影響
ロ 照明、採光及びグレアの防止
ハ 作業時間等
ニ 作業姿勢
ホ VDT機器等及び作業環境の維持管理
ヘ 健康診断とその結果に基づく事後措置
ト 健康相談
チ 職場体操
リ その他VDT作業に係る労働衛生上留意すべき事項
(2) 必要に応じ、VDT作業従事者を直接管理監督する者に対して、次の事項について教育を行うこ
と。
イ 管理者の役割と心構え
ロ VDT作業従事者に対する教育の方法
ハ 労働衛生管理の概論
ニ VDT作業の健康への影響
ホ 照明、採光及びグレアの防止
ヘ 作業時間等
ト 作業姿勢
チ VDT機器等及び作業環境の維持管理
リ 健康診断とその結果に基づく事後措置
ヌ 健康相談
ル 職場体操
ヲ その他VDT作業に係る労働衛生上留意すべき事項
(3) VDT作業に新たに従事する労働者に対して、VDT作業の習得及びVDT作業の習熟に必要な
訓練を行うこと。
(解説)
本解説は、「VDT作業のための労働衛生上の指針」の趣旨、実施上の留意点、内容の説明を記したも
のである。
作業形態の区分ごとのVDT作業の労働衛生管理の目安及び代表的なVDT作業の特徴を本解説末尾に
示すもので、参考にされたい。
「1 はじめに」について
(1) 労働衛生管理に関する組織体制と活動
VDT作業に関する労働衛生管理が適正に行われるためには、各事業場において労働衛生管理体
制を整備し、本指針に基づいて定めたVDT作業に係る労働衛生管理基準を適切に実施することが
必要である。
実際の労働衛生管理活動は、衛生委員会等の組織を有する事業場においては、総括安全衛生管理
者、衛生管理者、産業医、作業環境測定士等を中心に、その他の事業場においては、事業者や職場
の責任者が主体となって進められることとなるが、いずれの事業場においても、必要に応じ、労働
衛生コンサルタント、保健婦・看護婦その他労働衛生業務に携わる者との連携を強化することによ
って、より効果的に運営されることが望まれる。
また、関係労働者は、その趣旨を理解し、基準の実施に積極的に協力することが必要である。
(2) 試 行
労働者には個人差があるので、一定の基準を全てのVDT作業従事者に画一的に適用するのは適
当でなく、特にワークステーションをはじめとする作業環境ないし作業方法に関する基準について
は弾力性が必要である。
従って、VDT作業に関する労働衛生管理基準を新たに設けたりこれを変更する場合には、当該
基準が個々の労働者に適合するかどうかを衛生委員会等でよく確認し、このような検討に基づいて
より適切なものを見いだしていくという試行が大切である。
「2 本指針の対象」について
本指針は、現在最も多く使用されているCRTディスプレイを備えたVDT機器を使用する場合の労働
衛生管理を対象としているが、他のディスプレイを備えた機器を使用する場合にも本指針に準じて労働衛
生管理を行うことが望ましい。
CRTディスプレイのほかに、コンピュータの画面表示装置としては、液晶ディスプレイ・エレクトロ・
ルミネッセンス・ディスプレイ、プラズマ・ディスプレイ、蛍光表示管ディスプレイ、発光ダイオード・
ディスプレイなどがある。
「3 作業環境管理」について
(1) 照明及び採光
イ 室内の照明及び採光については、明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせない方法
によらなければならない。(事務所衛生基準規則第10条第2項参照)
ロ 我が国では、写真のネガや黒板に書いた文字のように暗い背景に明るい文字などが表示されるも
のを陰画表示、普通の印刷物のように明るい背景に暗い文字などが表示されるものを陽画表示とよ
んでいるが、欧米では、国際照明学会方式の様に、陽画、陰画がそれぞれ我が国と逆のものをさし
ていることがあるので、注意を要する。
ハ 昭和59年2月のガイドラインでは、目安として「鉛直面照度は500ルクス以下」、「水平面照度
は300ルクスからおおむね700ルクス」としていたが、必ずしも正確に理解されていない場合もあっ
たので、本指針では表現方法を次のように変えたものである。
(イ) 「ディスプレイ画面における照度」とは、画面から発する光の明るさのことではなく、ディ
スプレイ画面にあたる光の明るさをいう。
(ロ) 「キーボード面における照度」とは、書類やキーボード面にあたる光の明るさをいう。
なお、「キーボード面における照度(水平面照度)」を「300ルクスからおおむね1000ルク
ス」と上限を広げたのは、輝度・コントラストの調整やグレアの防止等が適切になされている
場合には、1000ルクス程度まで明るくしても支障が生じないことによる。
ニ 「CRTディスプレイの画面の明るさ、書類及びキーボード面における明るさと周辺の明るさと
の差はなるべく小さくすること。」とは、瞳孔は明るさに応じてその大きさを調節しており、CR
Tディスプレイ画面や書類・キーボード面と周辺の明るさの差が大きいと、明暗順応による負担が
大きくなるので、なるべく明るさの差を小さくすべきであるという趣旨である。
(2) グレアの防止
イ グレアとは、光源から直接又は間接に受けるギラギラしたまぶしさのことである。VDT作業従
事者の視野内に高輝度の照明器具・窓・壁面や点滅する光源があると、まぶしさを感じたり、ディ
スプレイに表示される文字や図形が見にくくなり、眼疲労の原因となる。また、これらがディスプ
レイ画面上に映り込む場合も同様である。従って、CRTディスプレイを置く場所を工夫して、グ
レアが生じないようにする必要がある。
ロ 映り込みがある場合には、CRTディスプレイ画面の傾きを調整することなどにより、映り込み
を少なくすることが必要である。
ハ フィルタやフードを取り付けることにより、映り込みの影響を減少させる方法があるが、この方
法には次に掲げるような問題点があるので、フィルタやフードは他の方法で十分映り込みをなくす
ことができない場合に限って使用すべきである。
(イ) フィルタを取り付けると、解像力が低下したりコントラストが大きくなりすぎたり、フィル
タ自身の表面が反射を起こすことがある。
(ロ) フードは、上方向や横方向からくる光をカットすることはできるが、VDT作業従事者の斜
め後方からくる光に対してはその効果がなく、また、CRTディスプレイ画面上に明暗の差が
生じることもある。
ニ このほか、映り込みを減少させる方法として、反射防止型CRTディスプレイを使用する方法も
ある。これには、表面につや消し処理を行って散乱性をもたせたものと、多層薄膜コーティングに
より反射そのものを減らすものとに大別されるが、前者は外光が明るすぎると、画面全体が光るよ
うになったり、後者は、汚れやすいという欠点があるので、注意を要する。
ホ その他、グレアを防止する方法として、グレア分類がGI又はG2の照明器具や間接照明が推奨
されている。
(3) 騒音伝ぱの防止
イ プリンターによる印字は、今までのタイプライターによる印字の原理とは異なり、また、印字の
速度が極めて速いため、機種によっては金属音的な高周波音を発生し、不快と感じられるものがあ
る。このような騒音を防止するためには、しゃ音及び吸音の機能をもつつい立てで取り囲む、プリ
ンターそのものを消音ボックスに収納する、床にカーペットを敷く、低騒音型プリンターを使用す
るなどの方法もある。
ロ VDT作業を行う場所付近で、騒音を発するタイプライターその他の事務用機器を使用する場合
には、必要に応じ、騒音伝ぱの防止措置を講じること。(事務所衛生基準規則第11条及び第12条参
照)
(4) その他
事務所の換気、温度、空気調和(空調)については、事務所衛生基準規則第3条から第5条まで
を参照されたい。
「4 作業管理」について
VDT作業には多くの種類があり、それぞれ作業形態や作業内容が異なっており、また、VDT作業が
健康に及ぼす影響は非常に個人差が大きいので、画一的な作業管理を行うことは好ましくない。従って、
各事業場においては、個々の労働者の特性に応じたVDT機器等や環境を整備するほか、VDT作業の実
態に基づいて作業負担の少ない業務計画(Jobdesign)を策定すること等、こまかく配慮することが望ま
しい。
(1) 作業時間等
イ 一日の作業時間
(イ) 一日の作業時間については、これまでの経験から、職場においてVDT作業に関して適切な
労働衛生管理を行うとともに、各人が自らの健康の維持管理に努めれば、大多数の労働者の健
康を保持できることが明らかになっており、他方、各事業場におけるVDT作業の態様が様々
で労働者への負荷が一様でなく、また、VDT作業が健康に及ぼす影響は非常に大きいことも
あり、本指針では上限を設けていない。
(ロ) 一日のVDT作業時間が短くなるように、作業仕組みやローテーションについて工夫するな
どの配慮をすべき労働者は、別紙「作業形態の区分」の作業形態Aに該当する者である。
ロ 作業休止時間
(イ) 作業休止時間は、CRTディスプレイ画面の注視、キー操作又は一定の姿勢を長時間持続す
ることによって生じる眼又は手腕系等への負担による疲労を防止することを目的とするもので
ある。連続作業後、いったんVDT作業を中止し、リラックスして遠くの景色を眺めたり、あ
るいは作業中ほとんど使用しなかった身体の各部を適度に動かすなどの運動を行うための時間
であり、単なる休憩時間ではない。
(ロ) 小休止とは、連続作業の途中でとる1〜2分程度の作業休止のことである。時間を定めない
で、作業者が自由にとれるようにすること。
(2) VDT機器等
イ CRTディスプレイ及びキーボード
機器の詳細については、通商産業省に設けられた機械安全化・無公害化委員会VDT分科会の報
告書を参照されたい。
ロ 椅 子
複数のVDT作業従事者が同一の椅子を使用する場合、通常の事務用椅子は高さの調整が面倒で
あることから、実際には調整されていないことが多い。VDT作業従事者一人一人が自分の体形に
合った高さに調整するためには、ワンタッチ式など調整が容易なものがよい。
床からの座面の高さは、少なくとも35cm〜45cmの範囲以上で調整できることとしたのは、大多数
のVDT作業従事者が適切な作業姿勢をとることができるようにするためである。
(現在市販されているものは、37〜45cmのものが多い。)
ハ 机又は台
椅子と同様に、VDT作業従事者ごとに体形に合った高さのものを使用することが望ましいとい
う趣旨であるが、机又は台の高さは、
(イ) 高さの調整ができない机又は台を使用する場合、床からの高さは65cm以上70cm以下のもの。
(ロ) 高さの調整が可能な机又は台を使用する場合、床からの高さが60cm〜75cmの範囲で調整でき
ること。
としたのは、椅子の高さと同様に、大多数のVDT作業従事者が適切な作業姿勢をとることができ
るようにするためである。
(3) 調 整
イ 本指針(3)のイにおいて、必要に応じ、足台や書見台を備えることとしたのは、次の理由による。
(イ) 足台は、足を疲れさせないだけでなく、背中や腰の疲れを防ぐ効果ももつ。
(ロ) 書見台は、CRTディスプレイ画面と原稿が同じ高さになるように用いると、首や眼の負担
が軽くなる。
ロ 本指針(3)のニにおいて、CRTディスプレイ画面と眼の位置の関係を示したのは、次の理由に
よる。
(イ) CRTディスプレイ画面の上端の高さを眼の位置より低くするのは、首や眼の負担を少な
くする姿勢を保つためである。なお、上端と眼を結ぶ線と画面上端の水平線との角度は、標
準的なVDT作業において、おおむね10°以内とすること。
(ロ) 視距離(おおむね40cm以上)は、眼に負担をかけないで画面を明視することができ、か
つ、眼とキーボードや書類との距離の間に極端な差が生じないようにするためである。(下
記ハの項参照)
なお、従来のガイドラインでは視距離の目安を「40〜60cm」としていたが、60cmを超える
場合でも画面を見やすい場合があるので、おおむね40cm以上とし、作業者の好みに応じ、60
cmを超えることがあっても支障がない趣旨である。
ハ 本指針(3)のホにおいて、画面と原稿・キーボードを眼からほぼ等しい距離にすることとしたの
は、VDT作業における眼球運動から生じる眼疲労(視線を移動させるたびにいちいち焦点調節を
行っていると眼疲労を招く。)を軽減するためである。
「5 VDT機器等及び作業環境の維持管理」について
(1) VDT機器等及び作業環境を良好に維持管理するには、VDT作業従事者とその管理監督者ごと
に実施項目を定め、両者の連携を図る必要があるので、本指針でこの趣旨を明確にしたものである。
(2) 点検・調整・清掃は、従来あまり重要視されていなかったが、労働衛生管理を行う上で重要であ
る。留意事項を次に掲げるので、参考にされたい。
イ 照明、採光やグレア防止措置などの基準が適切に設定されていても、電球又は静電気防止用アー
ス等が切れたままであったり、作業場所の変更などにより、当初の条件が満たされなくなることが
あるので、基準に適合しているか否かの点検を行う際、留意すること。
ロ CRTディスプレイ画面やフィルタには、ほこりや手あかが付着して、画面が見えにくくなった
り、室内の湿度が低下すると静電気発生の原因となることもあるので、VDT作業従事者の日常業
務の一環として、湿った布等で画面をきれいに拭かせること。
ハ CRTディスプレイの前後傾斜や高さの調整機構に支障が生じ、容易に調整できなくなることも
あり、そのまま放置すること、VDT作業従事者が面倒がって無意識のうちに不適切な作業姿勢で
作業を行うことにもなる。従って、このような問題点の的確な把握、改善のためにもVDT作業従
事者と管理監督者との連絡体制を整えておくこと。
ニ 日常の清掃を行う際に、常にVDT機器や机又は台、さらには作業場所の整理整頓に努めるとと
もに、これらを清潔な状態に保持することができるような職場慣行を確立すること。
「6 健康管理」について
従来のガイドラインにおいては、「一日の労働時間を通じて、連続的に、キー操作又はCRTディスプ
レイ画面からのデータ等の読み取りを行うVDT作業(いわゆる連続型VDT作業)に常時従事する作業
者」を「VDT作業常時従事者」とし、この者について、健康診断等の健康管理を行うこととしていたが、
本指針においては、連続VDT作業常時従事者に限定しないで「VDT作業に常時従事する労働者」につ
いて健康管理を行うこととした。
VDT作業に常時従事する労働者とは、別紙「VDT作業形態の区分」の作業形態A及び作業形態Bの
者をいう。
(1) 健康診断
イ 配置前健康診断
(イ) 業務歴の調査
既往歴及び自覚症状の有無の調査を行う前に調査し、問診時の評価ができるようにすること
が必要である。
(ロ) 既往歴及び自覚症状の有無の調査
業務歴の調査の結果を参考にしながら、問診により行う。
自覚症状の有無の調査は、VDT作業による視覚負担、上肢の動的又は静的筋労作等心身に
与える影響に着目して行う必要がある。
問診にあたっては、問診票を用いる。
なお、眼疲労等の著しい者については、眼科医による精密検査を受けるように指導すること。
(ハ) 眼科学的検査
a 視力検査
(a) 5m視力の検査
VDT作業に適正な視力(おおむね両眼とも1.0以上、少なくとも0.6以上)が保持
されているかどうかを調べる。
文部省視力研究班の基準装置(又はこれに準ずる照明付き視力検査装置)及び判定基
準を用いて、左右の眼の裸眼及び矯正視力を検査する。
なお、両眼視力も検査することが望ましい。
(b) 近方視力の検査
一般に、近方視力は、遠視、老視等により低下するが、特に遠視は、乱視とともに近
業時に眼疲労を生じやすいことに留意して、近方視力の低下の有無を調べる。
石原式近距離視力表等を用いて30cm視力を測定する。(現在50cmの視力表は作られて
いないが、測定可能な事業場においては50cm視力を併せて測定することが望ましい。)
b 眼位検査
眼位の異常があると近業時に眼疲労を生じやすいので、眼位の異常の有無を調べる。
両眼交互のカバーテスト(Alternate Cover Test)により、斜位の有無と程度を判定する。
外斜位が著しいとき又は内斜位、上下斜位があるときには、眼科医に受信させることが望
ましい。
c 調節機能検査
視力検査表による調節機能検査が静的な調節力を調べる検査であるのに対し、本検査は、
動的な調節力を調べるものである。動的調節力の良否は、眼疲労や作業能率に大きく影響す
るとともに、VDT作業によって最も影響を受けやすく、屈折異常の発生との関係も深い他
覚的検査項目である。
現状では、次の(a)又は(b)の検査法のいずれかを選択して行う。
いずれも測定と評価が難しいので、専門的な知識・技術を習得した産業医又は眼科医が実
施することが望ましい。(このほか、調節機能の専門的検査法として微動調節周波数分析法
がある。)
(a) 近点距離の測定
近点距離の延長の有無を調べる。
近点距離の延長を調べることにより、眼疲労による調節異常を検出するものであるが、
遠視又は老視があると、より顕著な近点距離の延長が見られる。
近点距離計(例えば石原式近点距離計、アコモドポリレコーダ)を用いて左右の眼に
ついて別々に近点距離を測定する(眼鏡等の装着者は装着した状態で測定する。)。消
失域を3回測定し平均値を求める。延長、短縮の著しい者については、その数値を記録
し、チェックしておくこと。
(b) 調節時間の測定
調節衰弱のある者には、緊張時間、弛暖時間のいずれもが延長傾向を示す。
調節時間を反復測定することにより、調節衰弱の有無を調べる。
アコモドポリレコーダを用いて測定、評価する。
d 眼圧検査
緑内障又は著しい高眼圧の有無を調べる専門的検査である。Non Contact Tonometerを用
いて測定することが望ましい(眼圧が18mmHg以上の者は、一般に、眼科医による精密検査を
必要とする。なお、本方法では正常値は17mmHg以下とされているが、緑内障検査では20mmHg
以下を正常範囲として取り扱っている。)。
ただし、VDT作業常時従事者全員に対して上記検査法を実施することが困難な場合には、
問診票によるスクリーニング(緑内障の既往歴・家族歴、高眼圧の疑いのある症状を訴える
者の抽出)によって代替しても差し支えない。
e その他医師が必要と認める検査
前記a〜d以外の眼科学的専門的検査の例としては次表に掲げるようなものがある。
(表)
(ニ) 筋骨格系に関する他覚的検査
この検査項目は、上肢に過度の負担がかかる作業態様に起因する頚肩腕症候群あるいはその
類以疾病の症状の有無について検査するためのものである。具体的な検査の方法・評価等につ
いては、昭和48年12月22日付け基発第717号「金銭登録作業に従事する労働者に係る特殊健康
診断について」によられたい。
ただし、タッピングテストについては、作業の内容等により、医師の判断で省略して差し支
えない。
また、VDT作業従業者の疲労等の自覚症状の自己チェックにより、健康障害にいたらない
うちに健康に関する問題点を把握し、改善することができるようにすることが望ましい。
ロ 定期健康診断
(イ) 業務歴の調査
従事したVDT作業の概要のほか、必要に応じ、作業環境及び業務への適応性についても調
べること。
なお、前記配置前健康診断に関する解説を参照のこと。
(ロ) 既往歴の調査
配置前健康診断実施後1年以内に受診する者については、医師の判断で省略して差し支えな
い。
(ハ) 自覚症状の有無の調査
配置前健康診断の問診における訴えの項目や内容の変化をチェックし悪化の見られる者は精
密検査の対象とする。
なお、問診票は前記配置前健康診断で用いるものと同一のもので差し支えない。
(ニ) 眼科学的検査
近点距離の測定は、問診において、しゅう明、視蒙(かすみ)、視力低下、眼・頭痛等の症
状を訴える者以外の者については、医師の判断で省略して差し支えない。
なお、具体的検査の方法・評価等については、前記配置前健康診断に関する解説を参照のこ
と。
(ホ) 筋骨格系に関する他覚的検査
前記配置前健康診断に関する解説を参照のこと。
ハ 健康診断結果に基づく事後措置
(イ) 健康診断の職場外要因としては、次のものがある。
a 疲労要因
不適切な照明のもとで長時間テレビを見たり、読書をする等の直接的な眼疲労の原因とな
るもののほかに、飲酒、栄養、悩みごと等間接的な疲労要因がある。
b 基礎疾患等
視覚異常のほかに、三叉神経痛等の眼精疲労類似症状や脊椎の変形、末梢循環機能障害等
の頚肩腕症候群類似症状を呈する異常や疾患がある。
(ロ) 「適正視力」とは、おおむね両眼とも1.0以上、少なくとも0.6以上の視力をいう。
なお、作業に適した矯正眼鏡等の処方は眼科医が行うことが望ましい。
(ハ) 「健康保持のための適切な措置」には、受診指導が含まれる。
「7 労働衛生教育」について
VDT作業に係る労働衛生教育の実効性をもたせるためには、各事業場において定めたVDT作業に関
する労働衛生管理基準が職場に適用できるような条件整備に努めるとともに、次に掲げる事項を参考にし
て、関係労働者の教育訓練を実施することが重要である。また、手法及び実施時期を考慮のうえ、効果的
な実施方法を考える必要がある。
なお、従来のガイドラインにおいては、「一日の労働時間を通じて、連続的にキー操作又はCRTディ
スプレイ画面からのデータ等の読み取りを行うVDT作業(いわゆる連続型VDT作業)に常時従事する
作業者」を「VDT作業常時従事者」とし、この者については、適正輝度とCRTディスプレイの輝度調
整方法等について労働衛生教育を行うこととしていたが、本指針においては、VDT作業に従事する者全
般を対象に労働衛生教育を行うこととした。
(1) 基本的な考え方
イ 各事業場における職場の労働衛生上の問題点を把握するため、VDT導入前若しくは機器・作業
環境の変更前におけるアセスメント又は日常・定期の点検を実施し、確認された問題点を迅速かつ
適切に処理しうるシステムを樹立し、関係労働者にこのシステムを活用できる知識を付与する。
ロ それぞれの作業特性に応じてVDT機器等や作業環境を調整するほか、各人が作業負担の少ない
業務計画づくりに参加できるように配慮する。
ハ 教育内容は、信頼度の高い情報に基づいて定めるとともに、具体的かつ簡明なものとし、知識を
日常業務に含めて体得させるべきものとそれ以外とに類別するなど、実施方法について工夫する。
(2) 教育及び訓練の時期
VDT機器及び情報処理技術が日進月歩であることに鑑み、VDT機器の導入時、機器又は作業
環境の変更時のほか、定期的に教育を実施することが望ましい。また、新たにVDT作業に従事す
る労働者に対しては、配置前に、作業の不慣れによる心身への負担の軽減を図るため、その難易度
に応じ、作業の習得及び習熟に必要な訓練を行う。
(3) その他の留意事項
イ 教育及び訓練を効率よく実施するため、必要に応じ、VDT作業従事者及びその管理監督者ごと
に行うことを考慮することが望ましい。前者の教育・指導を行う者(例えば、衛生管理者、VDT
作業従事者を直接管理監督する者)には、安全衛生団体等が行うインストラクター講習を修了した
者による講習を受けさせることが望ましい。
ロ VDT作業が過度の負担となって眼精疲労等の健康障害が生じるおそれのある者、中高年齢者、
パートタイム労働者等には、教育を実施するうえで特別の配慮を要する。
参考 1
VDT作業における労働衛生管理の目安 (表)
参考 2
VDT作業の種類及びその特性 (表)