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別添

洗浄又は払拭の業務等において事業者が講ずべき化学物質のばく露防止対策の留意事項

 以下の事項は、「洗浄又は払拭の業務等において事業者が講ずべき化学物質のばく露防止対策」(以下
「対策」という。)を技術的に補足し、実務上の留意点等を示すものである。

1 1,2−ジクロロプロパンを取り扱う業務について
 (1) 発散抑制措置(対策の1の(3)のウ関係)
   1,2−ジクロロプロパンの蒸気を発散源において吸引し、外気に排出する等の構造をもつもので
  あること。気中に発散した1,2−ジクロロプロパンを希釈しながら排出する全体換気装置は、発散
  抑制措置としては認められないこと。
 (2) 気中濃度の測定等(対策の1の(3)のエ関係)
   気中濃度の測定は、作業環境測定基準(昭和51年労働省告示第46号)に準じて行い、その結果の評価
  は、作業環境評価基準(昭和63年労働省告示第79号)に準じて行うこと(「「労働安全衛生法第28条第3
  項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するための指針」の周知につ
  いて」(平成23年10月28日付け基発1028第4号)の記の第2の2)。
   なお、10ppm(0.001容量%)は、ACGIH(米国産業衛生専門家会議)が示す1,2−ジクロロプロパン
  についてのTLV-TWA(1日8時間ばく露を前提とした時間荷重平均濃度限度。許容濃度)であるが、「労働
  安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するため
  の指針」(平成24年10月10日付け健康障害を防止するための指針公示第23号。以下「がん原性指針」と
  いう。)において作業環境測定結果を評価するための指標値としており、これを常に下回ることとなる
  よう管理を維持するよう努めること。作業時間が8時間を超える場合は、作業時間の延長によって長く
  なったばく露時間を考慮した許容濃度の調整が必要となること。また、ACGIHの許容濃度は、知見の集
  積等により見直されることがあるほか、例年5月に出される日本産業衛生学会の許容濃度等の勧告の動
  向にも留意すること。
   測定は、6月以内ごとに1回実施するよう努めることとされているが、作業方法等を大幅に変更した
  場合等においては、再度測定を行う必要があること。
 (3) その他
   1,2−ジクロロプロパンは、印刷業で印刷機の洗浄又は払拭の業務で多く用いられてきたほか、
  化学工業で、1,2−ジクロロプロパンを製造又は副生する工程並びに1,2−ジクロロプロパンを
  原料として他の物質を製造する工程でも用いられている。これらの工程では、1,2−ジクロロプロ
  パンは、反応容器などにより密閉されていると考えられるものの、原料の投入、生成物等の取出しや
  設備の維持管理などの際に労働者が高濃度のばく露を生ずることがないよう留意する必要があること。
 
2 屋内作業場において液体の化学物質及びその含有物を用いて行う印刷機又は金属類の洗浄(脱脂を含む。)
 又は払拭の業務について

 (1) 対象業務(対策の2の(1)関係)
   対象業務には、印刷機のローラーやブランケット部分を手作業で洗浄し又は払拭する業務及び印刷
  機に取り付けられた洗浄装置を用いて洗浄する業務だけでなく、メッキの前処理工程としての金属表
  面の脱脂や、金属部品や機械を洗浄槽等で洗浄(脱脂を含む。)する業務も含まれること。
   洗浄又は払拭に用いる液体の化学物質としては、脂肪族塩素化合物のほか、炭素数の少ない石油系
  炭化水素類が多く用いられており、有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号。以下「有機則」
  という。)に規定する有機溶剤に限定せずにばく露防止対策を講ずる必要があること。本通達の対象物
  質としては、その含有量が、有機則に準じて全体の重量の5%を超える物としているが、がん原性指針
  の対象物質については、がん原性指針の規定に基づき、重量の1%を超えて含む含有物は対象に含まれ
  ることに留意すること。常温で液体の溶剤を含まない水系の洗浄剤は対象としないが、エマルション
  系の洗浄剤については、当該溶剤の含有量により判断すること。
 (2) 危険有害性情報に基づく化学物質管理(対策の2の(3)関係)
   労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第576条及び第577条は、有
  害物を取り扱い、蒸気を発散する有害な作業場においては、事業者は、その原因を除去し、屋内作業
  場における蒸気の含有濃度が有害な程度とならないよう必要な措置を講ずることとしており、化学物質
  を取り扱う事業者は、有機則等の特別則による規制対象となっている物質以外の物質であっても、当該
  物質の危険性や有害性を把握した上で、適正な化学物質管理を行うことが求められること。
   労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第57条は、労働者に健康障害を生ずるおそれのある物等約100
  物質及びその含有物を表示対象物質とし、同法第57条の2は、640物質及びその含有物を通知対象物質
  としているが、安衛則の改正により、平成24年4月から、譲渡し、又は提供する者は、通知対象物質以
  外の危険有害性情報を有する全ての化学物質及びその混合物についても、表示や通知をすることが努力
  義務とされている。こうしたことを踏まえ、事業者は、洗浄剤等を購入する際に、含まれる化学物質に
  関する危険有害性情報を入手して確認し、労働者に周知する必要がある。その詳細は、「化学物質等の
  危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針」(平成24年厚生労働省告示第133号)による
  こと。
 (3) 適切な換気の確保(対策の2の(3)のイ関係)
   全体換気装置は、作業場内の汚染された空気を排気口から外部に排出するとともに、新鮮な外気を導
  入して作業場内に発散した揮発性物質の蒸気を混合希釈することにより、作業場内の揮発性物質の蒸気
  の濃度を下げるものである。したがって、排気口からの汚染された空気は、室内に還流させることなく
  外部に直接排出する必要があること。また、全体換気を効果的に行うため、揮発性物質の消費量に応じ
  て希釈に必要な換気量を確保するとともに、排気口を発散源からできるだけ近い位置にし、給気口があ
  るものについては、吹き出す新鮮な外気が部屋全体に行き渡るよう配置するなどの工夫が必要であるこ
  と。
   「空気中の化学物質の含有濃度が有害な程度とならない」ためには、作業場の濃度レベルがACGIH又
  は日本産業衛生学会が定める許容濃度を常に下回る状態にある必要があるが、局所排気装置又はプッシ
  ュプル型換気装置を設けていない作業場では、1日の化学物質の消費量、1日の換気量等から算出した平
  均濃度が目安となること。また、ACGIHでTLV-STEL(短時間ばく露限度)やTLV-C(上限値)が定められて
  いる化学物質については、これらについても超えないようにする必要があること。
 (4) 呼吸用保護具の使用(対策の2の(3)のウ関係)
   洗浄又は払拭の業務は、労働者に高濃度のばく露のおそれがあることから、有機則がん原性指針の
  対象物質かどうかに関わらず、有効な呼吸用保護具を使用すべきであること。有機ガス用防毒マスクに
  ついては、国家検定に合格したものを使用させるのはもちろんのこと、正しい装着と管理によりはじめ
  て所定の効果が得られるものであるので、「防毒マスクの選択、使用等について」(平成17年2月7日付
  け基発第0207007号)に従うこと。なお、脂肪族塩素化合物の中には、試験ガスと比べて、破過時間(吸
  収缶が除毒能力を喪失するまでの時間)が極めて短いものがあるため、吸収缶の交換時期に留意すると
  ともに、休憩中に有機ガス用防毒マスクを作業場に放置することがないよう、保管にも留意すること。
   また、業界団体等においては、(公社)日本保安用品協会の保護具アドバイザーに指導を求めることも
  有効であること。
   「労働者が高濃度の化学物質にばく露するおそれがない」とは、単に化学物質の使用量が少ないだけ
  でなく、高沸点の化学物質のみを使用する場合などに蒸気圧等からばく露濃度を見積もったり、あらか
  じめ気中の化学物質の濃度を測定したりした結果が、ACGIH又は日本産業衛生学会が定める許容濃度等
  を常に下回り、かつ、労働者の呼吸域でのばく露がこれらを超えないと客観的に判断される場合がある
  こと。
 (5) 保護手袋の使用(対策の2の(3)のエ関係)
   洗浄作業において、皮膚からの吸収を防止するために使用する不浸透性の保護手袋については、その
  組成と使用化学物質により浸透が始まる時間が大きく異なることに留意し、適切なものを選定すること。
  特に、市販のポリエチレン、塩化ビニル等の材質の手袋の中には、使用化学物質によって素材が溶出し
  たり、短時間で浸透が始まり皮膚を保護することができないものがあることに留意すること。
 (6) 作業方法等の改善(対策の2の(3)のカ関係)
   全体換気装置による換気が行われている作業場であっても、給気口から送られる新鮮な外気が作業場
  全体に行き渡らない等により、空気中の揮発性物質の蒸気の濃度は、必ずしも均一とはならない。この
  ため、作業に従事する労働者が局所的に高い濃度の蒸気にさらされることにより当該労働者のばく露が
  大きくなることがあることに留意すること。また、洗浄作業を手作業で行う場合には、労働者の呼吸域
  が揮発性化学物質の発散場所からできるだけ離れた作業方法となるよう工夫すること。