金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等の施行について

基発0731第1号
令和2年7月31日
都道府県労働局長 殿
厚生労働省労働基準局長

金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等の施行について

 金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等(令和2年厚
生労働省告示第286号。以下「告示」という。)が、令和2年7月31日に告示され、令和3年4月1日から施行
することとされたところである。その改正の趣旨、内容等については、下記のとおりであるので、関係者
への周知徹底を図るとともに、その運用に遺漏なきを期されたい。
第1 制定の趣旨及び概要等
 1 制定の趣旨
   今般、新たに「溶接ヒューム」について、労働者に神経障害等の健康障害を及ぼすおそれがあるこ
  とが明らかになったことから、労働者へのばく露防止措置や健康管理を推進するため、特定化学物質
  障害予防規則及び作業環境測定法施行規則の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第89号)によ
  り改正された特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特化則」という。)におい
  て、金属をアーク溶接する作業、アークを用いて金属を溶断し、又はガウジングする作業その他の溶
  接ヒュームを製造し、又は取り扱う作業(以下「金属アーク溶接等作業」という。)を継続して行う屋
  内作業場において、新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき等には、厚生労働大
  臣の定めるところにより、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならないこと等が義務付け
  られたところである。
   告示は、特化則第38条の21第2項第6項及び第7項の規定に基づき、空気中の溶接ヒュームの濃度
  の測定、呼吸用保護具の使用及び当該呼吸用保護具が適切に装着されていることの確認について規定
  したものである。

 2 告示の概要
  (1) 溶接ヒュームの濃度の測定関係
    特化則第38条の21第2項に規定する金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において行
   われる空気中の溶接ヒュームの濃度の測定について、試料空気の採取に係る方法及び試料採取機器
   の採取口の装着位置、試料採取機器を装着する労働者の数、試料空気の採取の時間並びに溶接ヒュ
   ームの濃度の測定の方法を規定したこと。
  (2) 呼吸用保護具の使用関係
    特化則第38条の21第6項に規定する呼吸用保護具は、当該呼吸用保護具に係る要求防護係数を上
   回る指定防護係数を有するものでなければならないことを規定するとともに、要求防護係数の計算
   方法及び呼吸用保護具の種類に応じた指定防護係数を規定したこと。
  (3) 呼吸用保護具の装着の確認関係
    特化則第38条の21第7項に規定する、(2)の呼吸用保護具が適切に装着されていることを確認する
   方法は、当該呼吸用保護具を使用する労働者について、日本産業規格T8150(呼吸用保護具の選択、
   使用及び保守管理方法)(以下「JIS T8150」という。)に定める方法又はこれと同等の方法により求
   める当該労働者の顔面と当該呼吸用保護具の面体との密着の程度を示す係数(以下「フィットファ
   クタ」という。)が呼吸用保護具の種類に応じた要求フィットファクタを上回っていることを確認
   する方法とするとともに、フィットファクタの計算方法及び呼吸用保護具の種類に応じた要求フィ
   ットファクタの値を規定したこと。
  (4) 施行日及び経過措置
    告示は、令和3年4月1日から施行すること。ただし、令和4年3月31日までの間は、(2)及び(3)の
   規定は適用しないこと。

第2 細部事項
 1 第1条(溶接ヒュームの濃度の測定)関係
   ア 本条は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場における溶接ヒュームの濃度の測定
    の方法を定めたものであること。
   イ 本条第1号の「労働者の呼吸する空気中の溶接ヒュームの濃度を測定するために最も適切な部
    位」とは、労働者の呼吸域(当該労働者が使用する呼吸用保護具の外側であって、両耳を結んだ
    直線の中央を中心とした、半径30センチメートルの顔の前方に広がった半球の内側をいう。以下
    同じ。)をいうものであること。ただし、呼吸用保護具を使用することにより呼吸域に試料採取
    機器の吸気口を装着できない場合等は、呼吸域にできるだけ近い位置とすること。また、溶接用
    の面体の外側の溶接ヒュームの濃度は、内側と比較して大幅に高いため、試料採取機器の採取口
    が溶接用の面体の内側に位置するように装着すること。
   ウ 本条第2号の「均等ばく露作業」には、溶接方法が同一であり、溶接材料、母材及び溶接作業
    場所の違いが溶接ヒュームの濃度に大きな影響を与えないことが見込まれる作業が含まれること。
   エ 本条第2号の「適切な数(2以上に限る。)の労働者」は、原則として均等ばく露作業に従事する
    全ての労働者であるが、作業内容等の調査結果を踏まえ、均等ばく露作業におけるばく露状況の
    代表性を確保できる方法により抽出した2人以上の労働者を含める趣旨であること。
   オ 本条第3号の「金属アーク溶接等作業に従事する全時間」には、金属アーク溶接等作業の準備
    作業、作業の間に行われる研磨作業、作業後の片付け等の関連作業の時間が一連の作業時間とし
    て含まれること。ただし、金属アーク溶接等作業と関連しない形で行われる組立や塗装作業等の
    時間は含まれないこと。なお、溶接ヒュームの濃度の測定を断続的に行ったために複数の測定値
    がある場合は、測定時間に対する時間加重平均により、金属アーク溶接等作業に従事した全時間
    の溶接ヒュームの濃度を評価すること。
   カ 本条第4号イの「分粒装置」(試料空気中の粉じんの分粒のため、試料採取機器に接続する装置
    をいう。)は、レスピラブル(吸入性)粉じん(分粒特性が4マイクロメートル50%カットである粉
    じん)を適切に分粒できることが製造者又は輸入者により明らかにされているものであること。
   キ 本条第4号に規定する溶接ヒュームの濃度の測定の方法は、定量下限値が呼吸用保護具の要求
    防護係数の計算に際してのマンガンに係る基準値である0.05ミリグラム毎立方メートルの10分の
    1以下となるものである必要があること。
   ク 測定の精度を担保するため、本条各号に規定する試料採取方法及び測定方法の決定並びに試料
    採取機器の選定については、第一種作業環境測定士等十分な知識及び経験を有する者により実施
    されるべきであること。

 2 第2条(呼吸用保護具の使用)及び別表関係
  (1) 第1項関係
    本項は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において当該金属アーク溶接等作業に
   従事する労働者に十分な性能を有する呼吸用保護具を使用させるため、特化則第38条の21第6項に
   規定する「有効な」呼吸用保護具の要件を規定する趣旨であること。
  (2) 第2項関係
   ア 本項は、測定された溶接ヒューム中のマンガンの濃度(C)をマンガンに係るばく露の基準値(0.
    05ミリグラム毎立方メートル)で除したものを要求防護係数として規定する趣旨であること。
   イ アのマンガンに係るばく露の基準値は、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)及び欧州委員会(EC)
    科学委員会の提案理由書及びそれらに引用されている文献等を踏まえて、決定したものであるこ
    と。
  (3) 第3項及び別表関係
   ア 本項本文及び別表第1から第3までは、呼吸用保護具の種類に応じて、指定防護係数の値を規定
    する趣旨であること。指定防護係数は、呼吸用保護具の種類ごとに、実際の作業における測定又
    はそれと同等の測定の結果により得られた防護係数(呼吸用保護具の外側の測定対象物質の濃度
    を当該呼吸用保護具の内側の測定対象物質の濃度で除したもの。以下同じ。)の値の集団を統計
    的に処理し、当該集団の下位5%に当たる値として決定された値であること。
   イ 本項ただし書及び別表第4は、別表第1から第3までに規定する指定防護係数の例外を規定する
    趣旨であること。具体的には、別表第4に掲げる呼吸用保護具の種類のうち、特定の呼吸用保護
    具の防護係数が、別表第4に規定する指定防護係数の値よりも高い値を有することが製造者によ
    り明らかにされているものについては、別表第4に規定する値を指定防護係数とすることを認め
    る趣旨であること。

 3 第3条(呼吸用保護具の装着の確認)関係
  (1) 第1項関係
    ア 本項は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において当該金属アーク溶接等作
     業に従事する労働者が、呼吸用保護具を適切に装着しているかを確認するため、特化則第38条
     の21第7項に規定する確認の方法を規定する趣旨であること。
    イ 本項の「日本産業規格T8150に定める方法」には、改訂予定のJIS T8150に定める「定量的
     フィットテスト」による方法が含まれること。また、本項の「これと同等の方法」には、改訂
     予定のJIS T8150に定める「定性的フィットテスト」(半面形面体を有する呼吸用保護具に対し
     て行うものに限る。)のうち定量的な評価ができる方法が含まれること。
    ウ 本項に規定する呼吸用保護具の適切な装着の確認は、フィットファクタの精度等を確保する
     ため、十分な知識及び経験を有する者が実施すべきであること。
  (2) 第2項関係
    ア 本項の「フィットファクタ」は、呼吸用保護具の外側の測定対象物の濃度が、呼吸用保護具
     の内側の測定対象物の濃度の何倍であるかを示す趣旨であること。
    イ 本項の「測定対象物」には、改訂予定のJIS T8150に定める「定量的フィットテスト」及び
     「定性的フィットテスト」で使用される空気中の粉じん、エアロゾル等が含まれること。
  (3) 第3項関係
    本項の「要求フィットファクタ」の値は、米国労働安全衛生庁(OSHA)の規則等を踏まえて決定し
   たものであること。

 4 関係通達の改正
  (1) 「特殊健康診断指導指針について」(昭和31年5月18日付け基発第308号)のうち「マンガン又はそ
   の化合物を取り扱う業務又はそのガス、蒸気若しくは粉じんを発散する場所における業務」に係る
   部分については、これを削除する。
  (2) 「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行に伴う黒枠帳票の取り扱いについて」(平成2
   3年3月30日付け基安計発0330第1号)のうち別紙2「指導勧奨による特殊健康診断結果報告書」裏面
   別表1のコード03の「マンガン化合物(塩基性酸化マンガンに限る。)を取り扱う業務、又はそのガ
   ス、蒸気若しくは粉じんを発散する場所における業務」を「削除」に改める。なお、この通達によ
   る改正前の同報告書の用紙については、当分の間、これを取り繕って使用することができる。


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