安全衛生情報センター
特定化学物質障害予防規則の一部を改正する省令(平成29年厚生労働省令第8号。以下「改正省令」とい う。)が平成29年2月16日に公布され、平成29年4月1日から施行することとされたところであるが、その改 正の趣旨、内容等については、下記のとおりであるので、その施行に遺漏なきを期されたい。 併せて、本通達については、別添1により関係事業者等団体の長あて、別添2及び別添3により医療関係 団体の長あて、傘下会員への周知等を依頼したので了知されたい。
1 改正の趣旨 平成28年に3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(以下「MOCA」という。)を取 り扱う事業場で、複数の労働者(退職者含む。)が膀胱(ぼうこう)がんを発症していることが明らかにな り、同事業場に対する災害調査において、労働者がMOCAにばく露していたことが示唆された。 MOCAは、ウレタン樹脂の硬化剤等として使用されている物質であり、従前より、労働安全衛生法施行 令(昭和47年政令第318号。以下「安衛令」という。)において特定化学物質の第二類物質として位置づ けられ、MOCA及びMOCAを1%を超えて含有する製剤その他の物(以下「MOCA等」という。)を製造し、又 は取り扱う業務については、事業者に対し、作業主任者の選任、作業環境測定の実施、特殊健康診断の 実施等が義務付けられている。 このうち特殊健康診断の項目については、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以 下「特化則」という。)別表第3及び別表第4に規定されているところであり、MOCA等については、呼吸 器系の障害(腫瘍等)、消化器系の障害、腎臓の障害等を予防・早期発見するための項目を規定している。 しかし、上記の膀胱がん発症事案や、国際がん研究機関(IARC)等におけるMOCAはヒトに対して尿路系 の障害(腫瘍等)を引き起こす可能性があるとの指摘を踏まえて、健康診断項目について専門家による検 討を行い、今般、特化則において、MOCA等に係る特殊健康診断の項目に膀胱がん等の尿路系の障害(腫 瘍等)を予防・早期発見するための項目を追加する等の改正を行うこととしたものである。 2 改正の内容及び留意事項 (1) 改正の内容 改正後のMOCA等に係る特殊健康診断の項目については、別表に示したとおりであるので、参考とさ れたいこと。 (2) MOCA等に係る特殊健康診断についての留意事項 ア 特化則第39条関係 事業者は、特化則第39条第1項から第3項までの規定に基づき、MOCA等を製造し、又は取り扱う業 務に常時従事する労働者(以下「業務従事労働者」という。)及びこれらの業務に常時従事させたこ とのある労働者で、現に使用しているもの(以下「配置転換後労働者」という。)に対し、特殊健康 診断を実施しなければならないが、このうち、配置転換後労働者は、事業者が過去に当該業務に常 時従事させたことのある労働者で、現に使用しているものをいい、退職者までを含む趣旨ではない ことは、従前のとおりであること。 イ 特化則別表第3及び別表第4関係 (ア) 別表第3(いわゆる「一次健康診断」)関係 ① 「業務の経歴の調査」は、MOCA等を製造し、又は取り扱う業務について聴取するものである こと。なお、本項目は改正省令により、業務従事労働者に対して行う健康診断におけるものに 限ることとしたものであること。 ② 「作業条件の簡易な調査」は、労働者のMOCAへのばく露状況の概要を把握するため、前回の 特殊健康診断以降の作業条件の変化、環境中のMOCAの濃度に関する情報、作業時間、ばく露の 頻度、MOCAの蒸気等の発散源からの距離、保護具の使用状況等について、医師が主に当該労働 者から聴取することにより調査するものであること。このうち、環境中のMOCAの濃度に関する 情報の収集については、当該労働者から聴取する方法のほか、衛生管理者等から作業環境測定 の結果等をあらかじめ聴取する方法があること。 なお、本項目は、業務従事労働者に対して行う健康診断におけるものに限るものであり、改 正省令により追加した項目であること。 ③ 「MOCAによる腹部の異常感、倦(けん)怠感、せき、たん、胸痛、血尿、頻尿、排尿痛等の他 覚症状又は自覚症状の既往歴の有無の検査」は、MOCAにより生じるこれらの症状の既往歴の有 無の検査をいうこと。このうち「既往歴」とは、雇入れの際又は配置替えの際の健康診断にあ ってはその時までの症状を、定期の健康診断にあっては前回の健康診断以降の症状をいうこと。 また、喫煙は尿路系腫瘍の原因の一つであることから、MOCAによる健康影響やばく露状況の 評価の参考とするため、喫煙歴についても聴取することが望ましいこと。 なお、これらの症状のうち、「頻尿」及び「排尿痛」は、改正省令により追加したものであ ること。 ④ 「腹部の異常感、倦(けん)怠感、せき、たん、胸痛、血尿、頻尿、排尿痛等の他覚症状又は 自覚症状の有無の検査」は、MOCAにより生じるこれらの症状の有無の検査をいうこと。 なお、これらの症状のうち、「頻尿」及び「排尿痛」は、改正省令により追加したものであ ること。 ⑤ 「尿中の潜血検査」は、腎臓、尿管、膀胱(ぼうこう)等の尿路系の障害(腫瘍等)を把握する ための検査であり、試験紙法によるものをさすこと。 なお、本項目は、改正省令により追加した項目であること。 ⑥ 「尿中のMOCAの量の測定」は、医師が必要と認める場合に行う、MOCAのばく露状況を把握す るための検査であること。 なお、MOCAは経皮吸収性があり、作業環境測定のみでは労働者のばく露状況の把握が不十分 であることから、本項目についても、作業条件の簡易な調査、他覚症状及び自覚症状の有無の 検査等の結果を踏まえて、できるだけ実施することが望ましいこと。 また、MOCAの体外への排泄速度を考慮すると、尿の採取時期は、連続する作業日のうちの最 終日の作業終了時に行うことが望ましいこと。 さらに、本項目は、業務従事労働者に対して行う健康診断におけるものに限るものであり、 改正省令により追加した項目であること。 ⑦ 「尿沈渣(さ)検鏡の検査」及び「尿沈渣(さ)のパパニコラ法による細胞診の検査」は、いず れも医師が必要と認める場合に行う、尿路系の障害(腫瘍等)を把握するために行う検査である こと。 なお、本項目は改正省令により追加した項目であること。 ⑧ 「肝機能検査」は、肝臓の障害を把握するために行うものであり、血清グルタミックオキサ ロアセチックトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミックピルビックトランスアミナーゼ(GP T)及び血清ガンマ−グルタミルトランスペプチダーゼ(γ−GTP)の検査等があること。 なお、本項目は、これまで一次健康診断の必須項目であったが、改正省令により、一次健康 診断において医師が必要と認める場合に行う項目に変更されたこと。 ⑨ 「腎機能検査」は、腎臓の障害を把握するために行うものであり、尿中蛋白量、尿中糖量、 尿比重、血清クレアチニン量等の検査があること。 なお、本項目は、これまで二次健康診断において医師が必要と認める場合に行う項目であっ たが、改正省令により、一次健康診断において医師が必要と認める場合に行う項目に変更した ものであること。 (イ) 別表第4(いわゆる「二次健康診断」)関係 ① 「作業条件の調査」は、労働者のMOCAへのばく露状況の詳細について、当該労働者、衛生管 理者、作業主任者等の関係者から聴取することにより調査するものであること。 なお、本項目は、改正省令により、業務従事労働者に対して行う健康診断におけるものに限 ることとしたものであること。 ② 「膀胱(ぼうこう)鏡検査」及び「腹部の超音波による検査、尿路造影検査等の画像検査」は、 いずれも医師が必要と認める場合に行う、尿路系腫瘍を把握するための検査であること。 なお、膀胱(ぼうこう)鏡検査は内視鏡検査の一種であり、膀胱(ぼうこう)鏡には軟性のもの と硬性のものが存在するところ、いわゆるファイバースコープは、軟性の膀胱(ぼうこう)鏡を さしており、膀胱(ぼうこう)鏡検査にはファイバースコープによる検査が含まれること。 また、画像検査には、腹部の超音波による検査や尿路造影検査のほか、造影剤を用いない エックス線撮影による検査等があり、さらに、尿路造影検査の撮影方法としては、エックス線 直接撮影やコンピュータ断層撮影(CT)があること。 さらに、本項目は、改正省令により追加した項目であること。 ③ 「胸部のエックス線直接撮影若しくは特殊なエックス線撮影による検査、喀痰の細胞診又は 気管支鏡検査」は、いずれも医師が必要と認める場合に行う、呼吸器系の障害(腫瘍等)を把握 するための検査であること。 また、これらのうち、「特殊なエックス線撮影による検査」は、コンピュータ断層撮影(CT) による検査等をいうこと。 (ウ) 「医師が必要と認める場合」に行う検査項目の実施の要否の判断について MOCAに係る特殊健康診断の項目については、一次健康診断及び二次健康診断のそれぞれにお ける項目に「医師が必要と認める場合」に行う検査項目を規定したが、それぞれの検査項目の 実施の要否は、次により医師が判断すること。また、この場合の「医師」は、健康診断を実施 する医師、事業場の産業医、産業医の選任義務のない労働者数50人未満の事業場において健康 管理を行う医師等があること。 ① 一次健康診断における「医師が必要と認める場合」に行う検査項目 一次健康診断における必須項目(業務の経歴の調査、作業条件の簡易な調査、他覚症状及び 自覚症状の既往歴の有無の検査、他覚症状及び自覚症状の有無の検査等)の結果、前回までの 当該物質に係る健康診断の結果等を踏まえて、当該検査項目の実施の要否を判断すること。 ② 二次健康診断における「医師が必要と認める場合」に行う検査項目 一次健康診断の結果、前回までの当該物質に係る健康診断の結果等を踏まえて、当該検査項 目の実施の要否を判断すること。 (3) 施行期日 改正省令は、平成29年4月1日から施行することとしたこと。