安全衛生情報センター
職場におけるメンタルヘルス対策については、平成26年6月に、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。 以下「法」という。)が改正され、法第66条の10の規定により、事業者に労働者の心理的な負担の程度を 把握するための検査(ストレスチェック)、医師による面接指導の実施及び事後措置の実施(以下「ストレ スチェック制度」という。)等を義務付け、平成27年12月1日から施行されたところである。また、第13次 労働災害防止計画においては「仕事上の不安、悩み又はストレスについて、職場に事業場外資源を含めた 相談先がある労働者の割合を90%以上とする」「メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80 %以上とする」「ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上とす る」との目標を定め、メンタルヘルス対策を重点的に推進しているところである。 さらに、社会問題となっている過労死等(業務における強い心理的負荷による精神障害を含む。)を防止 するため、議員立法として制定された過労死等防止対策推進法(平成26年法律第100号)が、平成26年11月 1日から施行され、同法に基づく「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(令和3年7月30日閣議決定) においては、労働行政機関等における対策、調査研究、啓発、相談体制の整備等及び民間団体の活動に対 する支援の五つの対策を重点的に実施していくことが示されている。 以上を踏まえ、当面のメンタルヘルス対策の進め方を下記のとおり定め、これに基づきメンタルヘルス 対策を的確に推進されたい。 なお、本通達により平成21年3月26日付け基発第0326002号「当面のメンタルヘルス対策の具体的推進 について」を廃止する。
第1 基本方針等 1 メンタルヘルス対策を取り巻く状況 厚生労働省実施の令和2年労働安全衛生調査(以下「2年調査」という。)によると、職業生活等にお いて強い不安、ストレス等を感じる労働者は5割を超えており、また、メンタルヘルス不調により連 続1か月以上休業した労働者がいた事業場は7.8%、退職した労働者がいた事業場は3.7%という結果 となっている。このような状況を背景に、令和2年度において、精神障害による労災支給決定件数は 増加傾向にあり、608件、脳・心臓疾患による労災支給決定件数は減少傾向にあるものの194件となっ ている。 一方、メンタルヘルス対策(メンタルヘルスケア)に取り組んでいる事業場の割合は、2年調査によ ると61.4%であり、第13次労働災害防止計画に掲げる80%の目標達成に向けてより一層の取組が必要 である。また、パワーハラスメント対策に取り組んでいる事業場の割合についても、令和2年雇用均 等基本調査によると79.5%であり、より一層の取組が必要である。 さらに、平成27年12月1日に施行された法第66条の10の規定に基づくストレスチェック制度の周知 徹底及び法令に基づく適切な実施を徹底していく必要がある。 2 基本方針 メンタルヘルス対策は、一次予防(メンタルヘルス不調の未然防止)、二次予防(メンタルヘルス不 調の早期発見・早期治療)、三次予防(メンタルヘルス不調者の職場復帰支援)を総合的に進めるべき ものであるが、上記1の状況を踏まえ、当面は、ストレスチェック制度の履行確保をメンタルヘルス 対策の最重点課題として位置付け、同制度の導入を契機として、事業場におけるメンタルヘルス対策 が加速的に進むよう、計画的に取り組むこととする。 また、メンタルヘルス対策に取り組んでいない事業場のその主な理由として「専門スタッフがいな い」及び「取り組み方が分からない」が挙げられていることを踏まえ、事業者に対する取組に当たっ ては、産業保健活動総合支援事業を始めとする各種支援事業の積極的な活用を図ることとする。 第2 実施事項 1 事業場に対する周知及び指導の実施等 (1) あらゆる機会を捉えたストレスチェック制度の周知の実施 平成27年12月1日に法第66条の10の規定に基づくストレスチェック制度が施行され、常時50人以 上の労働者を使用する事業場に対してストレスチェック制度の実施が義務付けられたところである が、引き続きあらゆる機会を捉えて、同制度の周知を図るとともに、下記3に掲げる国の支援事業 についても情報提供を行うこと。 特に、ストレスチェックの結果を踏まえた就業上の措置の実施又は職場環境の改善として、必要 に応じて事業主がパワーハラスメント対策を行う際に参考とすることができるよう、令和3年4月9 日付け基発0409第2号、職発0409第3号、雇均発0409第2号「都道府県労働局における雇用環境・均 等部(室)と労働基準部との連携及び雇用環境・均等部(室)と職業安定部等との連携について」(以 下「連携通達」という。)記の第3の1に基づき、ハラスメント対策パンフレット等を活用して、併 せて周知を行うことが望ましいこと。 (2) ストレスチェック制度に関する指導の実施 ア 集団指導及び個別指導 ストレスチェック制度の内容や実施方法に関する集団指導や個別指導を実施すること。 これらの指導の際には、ストレスチェック制度の実施に困難を生じている事業場等に対して、 具体的な進め方に関し、「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに 面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成27年心理的な負担の程度を把 握するための検査等指針公示第1号)に基づき助言・指導を行うこと。その際には、事業場の実態 やニーズを踏まえて、ストレスチェック制度を含めたメンタルヘルス対策の全般的な取組方法に ついて、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年健康保持増進のための指針公 示第3号)に基づき助言・指導を行うこと。 イ 監督指導 監督指導において、ストレスチェック制度の実施の有無等について確認し、必要な指導等を行 うこと。 (3) 精神障害等による業務上の疾病等が発生した場合の再発防止対策等の指導の実施 監督指導又は個別指導において、精神障害又は脳・心臓疾患(以下「精神障害等」という。)によ る業務上の疾病が発生した事業場に対して、再発防止の措置を行うよう必要な指導を行うこと。 再発防止の措置に当たっては、衛生委員会又は安全衛生委員会において法第18条第1項第3号の規 定に基づき、「労働災害の原因及び再発防止対策」について調査審議を行わせること。 なお、監督指導又は個別指導において、精神障害等による複数業務要因災害として支給決定がな された、被災労働者を使用していた各事業場に対しては、「副業・兼業の促進に関するガイドライ ン」(平成30年1月策定、令和2年9月改定)等を活用し、副業・兼業を行う者の必要な健康確保措置 の実施について周知啓発を行うとともに、メンタルヘルス対策の取組が不十分である場合には、必 要な指導を行うこと。 (4) 衛生管理特別指導事業場に対する指導の実施 衛生管理特別指導事業場に対する指導については、平成29年3月31日付け基発0331第76号「今後 における安全衛生改善計画の運用について」により行うこと。 (5) メンタルヘルス対策のモデル事業場の育成・把握 都道府県労働局、労働基準監督署において、メンタルヘルス対策の取り組みを積極的に行い他の 模範となる事業場(モデル事業場)を育成し、又は把握し、関係者に対して広く周知すること。 なお、モデル事業場の育成に関しては、上記(4)の衛生管理特別指導事業場に対する指導のしく みを活用することが可能であること。 2 業界団体等の自主的活動等の促進 (1) 業界団体等における自主的活動の促進 業界団体・地域団体・労働団体・労働災害防止団体等に対して、例えばメンタルヘルス対策に関 する教育研修の合同実施や、ストレスチェック制度の好事例の収集・共有など自主的な活動を行う よう働きかけを行うとともに、これら団体の各種会議、行事、広報紙等の機会又は媒体を活用し、 周知を行うこと。 また、精神障害等による労災請求事案が多い医療・福祉、運輸業、建設業、卸売業・小売業、情 報通信業等の業種を重点として、業界団体に対し自主的な取組を行うよう指導すること。 (2) 啓発活動の促進 ストレスチェック制度を中心とするメンタルヘルス対策への取組についての社会的機運の醸成を 図るため、地方労働審議会や労働災害防止に関する協議会等地域の関係労使等の代表者が参集する 機会を活用する等により、ストレスチェック制度の趣旨・目的や、事業者・労働者にとっての意義 などを含めたメンタルヘルス対策の重要性等について説明を行い、例えばキャンペーンや合同宣言 を行う等連携した取組への働きかけを行うこと。 3 支援事業の活用等 (1) 支援事業の活用促進 ストレスチェック制度を含めたメンタルヘルス対策やパワーハラスメント対策について、以下の 国の支援事業を実施しているので、事業場に対する指導等に当たっては、事業場の取り組むべき課 題に対応した支援事業を教示し、これらの活用を促すこと。 ア メンタルヘルス対策に関する専門のポータルサイト「こころの耳」やパンフレットの配布等に よるメンタルヘルス対策に関する情報の提供及び電話・電子メール・SNSによる相談対応 イ 独立行政法人労働者健康安全機構及び都道府県に設置されている産業保健総合支援センターに よる各種事業(下記(2)参照) ウ 連携通達記の第3の1に基づき、ハラスメント対策に関する専門のポータルサイト「あかるい職 場応援団」やハラスメント対策パンフレット等の配布による情報の提供のほか、必要に応じてパ ワーハラスメント対策を所管する雇用環境・均等部(室)の教示 エ 副業・兼業を行う者がいる場合には、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1 月策定、令和2年9月改定)等の配布による副業・兼業を行う者の適切な健康確保措置に関する情 報の提供及び労働者が自ら本業及び副業・兼業の労働時間や健康状態を管理できるアプリ「マル チジョブ健康管理ツール」の周知 (2) 産業保健総合支援センターとの連携 ア 独立行政法人労働者健康安全機構及び産業保健総合支援センター・地域窓口(地域産業保健セ ンター)においては、次に掲げるメンタルヘルスに関する各種支援を実施し、地域におけるメン タルヘルス対策を支援するための中核的役割を担っている。 ① 産業保健スタッフ等関係者に対する研修の実施(産業保健総合支援センター) ② 事業場に対するメンタルヘルス対策の周知や情報の提供(産業保健総合支援センター) ③ 事業場からのメンタルヘルス対策・職場復帰支援に関する相談対応(産業保健総合支援セン ター) ④ 事業場のメンタルヘルス対策への取組に対する訪問支援(産業保健総合支援センター) ⑤ 事業場に対し上記(1)の支援事業及び平成20年6月19日付け基安労発第0619001号「メンタル ヘルス対策における事業場外資源との連携の促進について」に基づく登録相談機関やその他の 事業場外資源の紹介・教示(産業保健総合支援センター) ⑥ 小規模事業場における労働者のメンタルヘルスに関する相談・指導の実施(地域産業保健セ ンター) ⑦ 小規模事業場の長時間労働者及び高ストレス者に対する面接指導の実施(地域産業保健セン ター) ⑧ 小規模事業場におけるストレスチェック制度の実施、事業場におけるストレスチェック実施 後の集団分析結果を踏まえた職場環境改善の実施、事業場における「心の健康づくり計画」の 策定、副業・兼業を行う労働者に対する健康診断の実施等の促進のための助成金の支給(労働 者健康安全機構本部) ⑨ 関係行政機関等とのネットワーク形成・連携(産業保健総合支援センター) イ 独立行政法人労働者健康安全機構及び産業保健総合支援センターとの連携においては、以下に 留意すること。 ① 文書要請、説明会の開催等によるメンタルヘルス対策の周知に当たっては、産業保健総合支 援センターと連携を図ること。 ② 事業場がメンタルヘルス対策・職場復帰支援に取り組むに当たっての相談先として、産業保 健総合支援センターの周知等を行うこと。 ③ 事業場に対する指導等に当たっては、産業保健総合支援センターによる事業場への支援を受 けるよう勧奨等を行うこと。 4 関係行政機関等との連携 (1) 関係行政機関との連携 自殺予防を含むメンタルヘルス対策については、職域のみの取組では解決されないこと及び家族 を含む地域での取組も重要であることから、その一体的推進を図るため、地方公共団体の地域保健 主管課、自殺対策主管課、保健所、精神保健福祉センター等と連携した取組を行うこと。 (2) 関係機関との連携 上記(1)の行政機関はもとより、産業保健総合支援センター(地域産業保健センターを含む。)、 各医師会、労災病院(勤労者メンタルヘルスセンター、治療就労両立支援センターを含む。)、その 他医療機関や相談の専門機関等の事業場外資源とのネットワークづくりを行い、連携した取組を行 うこと。 第3 関連通達の改正 平成18年3月17日付け基発第0317008号「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」を 別添の新旧対照表のとおり改正する。別添(PDF:184KB)