安全衛生情報センター
原子力施設における被ばく線量管理対策等については、平成12年9月19日付け基発第582号「原子力施設 に対する監督指導について」(以下「582号通達」という。)等に基づく監督指導等により、その徹底を図 ってきたところであるが、平成23年3月に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所(以 下「東電福島第一原発」という。)の事故を端緒に、原子力施設における電離放射線障害防止規則(昭和47 年労働省令第41号。以下「電離則」という。)第7条に規定する緊急作業(以下「緊急作業」という。)の実 施時における被ばく線量管理等について、原子力事業者等があらかじめ必要な準備を計画的に実施してお くことの重要性も認識されたところである。 ついては、これらの状況にもかんがみ、今後も、原子力施設における被ばく線量管理対策等を重点とし、 下記により実効ある監督指導及び個別指導(以下「監督指導等」という。)を行うこととしたので、遺漏な きを期されたい。 なお、582号通達は、本通達をもって廃止する。
1 基本的な考え方 原子力施設に対する監督指導等を実施するに当たっては、次に掲げる事項に留意の上、監督担当部署 と安全衛生担当部署が十分に連携しつつ、原子力施設における被ばく線量管理を始めとする安全衛生管 理の徹底及び一般労働条件の確保が図られるよう、総合的かつ継続的な監督指導等を的確に行う必要が ある。 (1) 原子力発電所及び下記2の(2)から(4)までの施設(以下「核燃料施設」をいう。)の一部は、原子炉、 各種設備等の運転及びそれらの定期検査工事等に伴う各種仕事について、原子力施設の事業者(以下 「原子力事業者」という。)又は特定元方事業者を頂点とする系列別重層下請構造をなしており、系列 内事業場は互いに密接な関係にある上に、これらの各系列事業場が同一場所において輻そうして作業 が行われる現場であること。 (2) 放射線障害はその重篤性に加え、発生が遅発的である場合も多く、現に障害の発生が見られなくと も、事業者に対し、不断の被ばく線量管理を行わせる必要があり、電離則に基づく被ばく管理の確実 な履行確保を図ること。 (3) 放射線により人体が受ける線量が電離則で定める基準以下であっても、放射線が人体に影響を及ぼ す可能性を否定できないことから、事業者に対し、被ばく線量管理については、単に電離則による基 準を遵守させるのみでなく、電離則第1条の基本原則に則り、実効線量の低減に努めさせる必要がある こと。 (4) 原子力施設における放射線障害防止については、事業者が自主的に安全衛生管理対策の徹底を図る べきであるが、放射線障害の重大性にかんがみると、定期的に監督指導等を実施することにより、当 該安全衛生管理対策について事業者に緊張感を持たせ、効果的、継続的な実施につなげる必要がある こと。 (5) 原子力施設で作業を行う関係請負人は、事業場規模が小さい事業者が多いこと等にかんがみ、その 所属労働者の被ばく線量管理が適正に行われるよう、原子力事業者及び元方事業者に、関係請負人に 対する指導又は援助を実施させる必要があること。 また、原子力施設に出張して作業する構外事業場所属労働者の被ばく線量管理についても、一次的 には作業が行われる原子力施設における原子力事業者及び元方事業者による適正な被ばく線量管理体 制の下に実施されるべきものであるが、これは、主として当該原子力施設の現場内における作業に着 目した局所的、短期的な管理にとどまりがちであり、労働者に対する総合的、長期的な管理について は、その所属事業場が行うべきであり、このような点にも着目すること。 (6) 東電福島第一原発の事故での教訓を踏まえ、緊急作業の実施時における被ばく線量管理等について、 原子力事業者及び元方事業者があらかじめ必要な準備を計画的に実施させることも重要であること。 特に、緊急作業実施時における被ばく線量管理等については、原子力施設のみならず、原子力事業者 の本社等及び元方事業者がそれぞれの役割を果たす必要があること。 2 監督指導等の対象 監督指導等は、次の原子力施設に対して実施すること。 (1) 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号。以下「炉規法」と いう。)第43条の3の5第2項第5号に規定する発電用原子炉施設(東電福島第一原発を除く。)及び同法第 23条第2項第5号に規定する試験研究用等原子炉施設 (2) 炉規法第13条第2項第2号に規定する加工施設 (3) 炉規法第44条第2項第2号に規定する再処理施設 (4) 炉規法第53条第2号に規定する使用施設等(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律 施行令第41条に規定する核燃料物質の使用施設等に限る。) 3 監督指導等の重点事項 監督指導等の実施に当たっては、①原子力施設における安全衛生管理体制の確立、②適正な被ばく線 量管理等の実施、③安全衛生の確保、④一般労働条件の確保・改善等を重点事項とすること。 なお、監督指導等の際には、東電福島第一原発の事故での教訓を踏まえた緊急時等の対応の準備状況 についても、必要に応じて確認すること。 4 監督指導等において原子力事業者及び定期検査工事の元請工事業者に対して指導すべき事項 (1) 通常時において元方事業者である原子力事業者に対して指導すべき事項 原子力事業者は、作業の一部を関係請負人に行わせることが一般的であるが、この場合、元方事業者 に該当することから、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛法」という。)第29条に基づ く義務を確実に履行させるとともに、平成24年8月10日付け基発0810第1号「原子力施設における放射 線業務及び緊急作業に係る安全衛生管理対策の強化について」(以下「0810第1号通達」という。)記の 第2の事項(以下「元方事業者実施事項」という。)のうち、同条に基づく措置以外の措置について、必 要な措置を講ずるよう指導すること。 なお、原子力事業者が製造業(造船業を除く。)に属する事業の元方事業者の場合、安衛法第30条の2 に基づく義務も確実に履行するよう指導すること。 (2) 定期検査工事時において元請工事業者に対して指導すべき事項 炉規法によって義務付けられている原子力施設における定期検査工事について、原子力事業者が発 注者となって建設工事業者に請け負わせ、当該元請工事業者の下に関係請負人がいる場合、当該元請 工事業者が特定元方事業者に該当することから、作業の混在によって生じる災害等を防止するため、 安衛法第29条、第29条の2、第30条、第31条の3及び第31条の4に基づく義務を確実に履行するよう指 導すること。 また、元方事業者実施事項のうち、上記規定に基づく措置以外の措置についても、当該元請工事業 者に対して、0810第1号通達記の第3の1の(1)から(4)までに掲げる事項に留意し、原子力施設の安全 衛生統括者と連携の上、必要な措置を講ずるよう指導すること。 (3) 定期検査工事時において発注者である原子力事業者に対して指導すべき事項 発注者である原子力事業者に対して、0810第1号通達記の第3の2のとおり、①元方事業者実施事項の うち、同通達記の第2の1の(3)及び(4)、2、3並びに4の(1)、(2)及び(4)について、当該元請工事業者 と連携の上、原子力施設の安全衛生統括者に重ねて実施させる、②当該元請工事業者が作成する作業 規程又は作業計画について、原子力施設の放射線管理担当者に必要な指導又は援助を行わせるよう、 指導すること。 なお、複数の特定元方事業者が同一場所において輻そうして作業を行う場合にあっては、原子力事 業者及び各特定元方事業者による安全衛生協議組織を設置し、必要な連絡及び調整を行うよう指導す ること。 5 措置 監督指導等を実施した結果、労働安全衛生関係法令等違反その他指導すべき事項が認められた場合に は、所要の措置を講ずること。