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改正履歴
基発第579号の2
平成8年9月18日
交通労働災害は、業務との密接な関係の中で発生するものであり、これを防止するためには、一般の労
働災害と同様に、事業者の責務において、総合的かつ組織的に取り組む必要があります。
このため、労働省においては、事業者が交通労働災害防止のために講ずべき措置を定めた「交通労働災
害防止のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を公表するとともに、関係行政機関、
関係事業者団体等との連携を図るための交通労働災害防止関係機関連絡協議会を設置し、さらに、ガイド
ラインに基づく対策が、事業場において効果的に実施されるようにするため、平成7年度から、陸上貨物
運送事業労働災害防止協会に委託して交通労働災害防止対策推進事業を行っており、本年度からは、同協
会の支部における事業も開始しているところです。
また、労働省では、交通労働災害を発生させた事業場におけるガイドラインに基づく対策の実施状況に
ついて把握するため、平成7年度に交通労働災害に係る災害調査を全国の労働基準監督署を通じて実施し
ましたが、その結果(別紙)をみますと、ガイドラインの定着は不十分であり、それが要因となって、災
害が発生した事例もみられる状況です。
つきましては、これらの状況等を踏まえ、労働省においては、交通労働災害防止対策を下記に示すとこ
ろにより推進することとしましたので、貴団体におかれましても、本対策の趣旨等を御理解いただき、会
員事業場等に対する本対策の周知、指導等について、格別の御協力をお願いいたします。
記
1 基本的な考え方
交通労働災害は、業務との密接な関係の中で発生するものであり、事業者は、自動車運転者に交通法
規の遵守を求めるだけでなく、一般の労働災害と同様に総合的かつ組織的にその防止対策に取り組む必
要があるが、未だに多くの事業場において、積極的な取り組みがなされていない状況にある。
また、交通労働災害は、自動車の運行を主たる業務とする業種のみならず、商業、建設業、製造業等
広範な業種において発生している。
このため、交通労働災害が発生しているこれらの業種に対し、交通労働災害防止が事業者の責務であ
ることについて改めて認識を求めるとともに、ガイドラインの周知徹底を図っていく必要があるが、当
面は、自動車運転業務を主たる業務とする業種等を重点に、事業者の自主的な活動を促進することを基
本に、以下の対策を計画的に推進することとする。
なお、推進に当たっては、交通労働災害防止対策推進事業を有効に活用するとともに、関係行政機関、
関係事業者団体等との連携を図っていくこととする。
2 ガイドラインの周知徹底
(1) 重点対象
ガイドラインの周知徹底は、当面、次の事業場を重点に計画的に実施する。
[1] 陸上貨物運送事業及び交通運輸業に属する事業場
[2] [1]に属さない事業場で、配達、営業等の業務が相当数の自動車を用いて行われる等事業場の
業務遂行上、自動車運転業務が不可欠である事業場
[3] 交通労働災害を発生させた事業場
(2) 指導手法
指導手法としては、集団指導、自主点検等によることとする。
なお、集団指導を行うに当たっては、別紙の平成7年度交通労働災害調査結果(以下「調査結果」
という。)を活用する。
また、重点対象事業場以外の事業場に対するガイドラインの周知徹底については、各種集団指導、
説明会等の機会を利用して行う。
(3) 指導に当たっての重点事項
ガイドラインの周知徹底に当たっては、調査結果等を踏まえ、交通労働災害防止が安全衛生管理
の一環として取り組まれるべきであるという観点から、次の重点事項を徹底することが必要である。
イ 交通労働災害防止担当管理者の選任
交通労働災害防止担当管理者の選任を徹底するとともに、選任に当たっては、その職務を遂行
できる立場の者を選任し、必要な権限を与えること。
なお、交通労働災害防止担当管理者は、貨物自動車運送事業法又は道路運送法に基づく運行管
理者、道路交通法に基づく安全運転管理者が併任することとして差し支えないものであること。
ロ 安全委員会等における調査審議
安全委員会等において、次の事項を調査審議させること。
[1] 適正な労働時間の管理、走行計画の策定等交通労働災害防止のための基本となる対策に関
すること。
[2] 交通労働災害防止規程、交通労働災害防止推進計画等の作成に関すること。
[3] 交通労働災害の原因及び再発防止対策に関すること。
なお、事故対策委員会等の別組織が設置されている場合は、安全委員会等の内部組織にす
る等により、安全委員会等と一体的に運営されるようにすること。
ハ 適正な労働時間等の管理
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準に基づき適正に労働時間等の管理を行うこと。
ニ 走行計画の策定
道路の状況、所要時間、制限速度等を総合的に考慮し、無理のない走行計画を策定すること。
なお、自動車運転業務が、不定期で、不特定の場所を目的地としている等の理由から、走行計
画の策定が困難な場合もあるが、可能な範囲で策定すること。
ホ 雇入れ時等の教育の実施
雇入れ時における交通労働災害防止教育は、労働安全衛生法第59条第1項の規定に基づく雇入
れ時の教育の中で確実に実施すること。
また、作業内容の一部変更により、新たに自動車運転業務につくこととなった者に対しては、
作業内容変更時の教育として、交通労働災害防止教育を実施すること。
ヘ 労働者の送迎の際の交通労働災害の防止
製造業、建設業等については、労働者の送迎の際に交通労働災害が発生することが多いことか
ら、当該送迎の業務を実施している場合、その運転者には、十分な技能を有する適格者を指名す
る等の措置を講ずること。
ト 乗務記録等による適正な走行管理
建設業、商業等については、走行計画の策定等の走行管理が困難な場合があることから、乗務
記録等による乗務実態の把握等が行われていないことがあるが、運転者の自動車運転業務に対す
る安全意識を保持させるためにも、可能な限り乗務実態を把握し、その結果に基づき、適正な走
行管理を行うこと。
チ 異常気象等の際の措置
陸上貨物運送事業の長距離走行等については、異常な気象等が発生する場合があるので、事前
の気象情報の収集、安全な運転の確保のための指示、運転者との連絡体制の整備等の措置を講ず
ること。
3 交通労働災害防止対策推進事業の推進
交通労働災害防止対策推進事業については、平成7年度から、陸上貨物運送事業労働災害防止協会に
委託して実施しているが、本年度からは、事業場の自動車運転業務に即した個別指導、地域における交
通労働災害事例集の作成等を行うこととしているので、必要な協力、援助を行う。
なお、個別指導の集約結果、作成された交通労働災害事例集等については、交通労働災害防止関係機
関連絡協議会等を通じ、広く周知、活用を図る。
4 交通労働災害防止担当管理者教育の推進
交通労働災害防止担当管理者教育は、交通労働災害防止担当管理者に対し、その職務について教育を
行うことにより管理能力を向上させ、事業場における自主的な交通労働災害防止対策の促進を図るもの
であるので、運行管理者又は安全運転管理者と併任されている交通労働災害防止担当管理者も含めて本
教育を積極的に推進する。
なお、本教育については、カリキュラム等を別途示すこととしているが、陸上貨物運送事業労働災害
防止協会が都道府県単位で実施する予定であるので、指導、援助を行う。
5 交通労働災害防止関係機関連絡協議会の運営等
交通労働災害防止関係機関連絡協議会において、本通達に示す交通労働災害防止の各種施策について
の必要な周知、協議、連携等を行う。
また、行政対象の把握、集団指導の実施等に当たっては、必要に応じ関係行政機関、関係事業者団体
等との連携を図る。
6 広報の実施
関係行政機関、地方公共団体、労働基準協会その他関係事業者団体等の広報紙はもとより、テレビ、
ラジオ、新聞等の各種広報手段の活用により、交通労働災害の発生状況等に応じた効果的な広報活動を
行い、交通労働災害防止の気運の醸成を図る。
特に、春・秋の全国交通安全運動、全国安全週間等においては、必要に応じ、創意工夫をこらした広
報活動を実施する。
別紙
平成7年度交通労働災害調査結果
T 調査の概要
平成7年度に交通事故による死亡災害又は重大災害(一度に3人以上が被災する災害をいう。)が発
生した事業場に対し、全国の労働基準監督署が実施する災害調査において、交通労働災害防止のための
ガイドラインに基づく対策の実施状況について調査を行った。
○ 災害調査対象事業場数
死亡災害発生事業場252事業場、重大災害発生事業場89事業場の合計341事業場である。
業種別では、陸上貨物運送事業118事業場、製造業42事業場、建設業77事業場、商業46事業場、
その他58事業場である。
U 調査結果の概要
1 骨子 (表)
2 調査結果の概要
(1) 交通労働災害防止のためのガイドラインに定める対策の実施状況(表1、図1)
[1] 全般的状況
「走行経路の決定」(62.2%)、「走行前点呼の実施」(60.1%)、「運転者の乗務実態の把握」
(54.8%)等の走行管理に係る対策の実施率は相対的に高いが、「交通労働災害防止規程の作成」
(19.4%)、「運転適性検査の実施」(22.3%)、「安全衛生委員会等における交通労働災害防止
対策の審議」(24.0%)等の交通労働災害防止管理体制の確立等に係る対策は、十分実施されて
いない状況である。
[2] 陸上貨物運送事業における状況
陸上貨物運送事業においては、「運転者の乗務実態の把握」(94.9%)、「走行経路の決定」
(82.2%)、「走行前点呼の実施」(78.8%)、「交通労働災害防止担当管理者の選任」(77.1%)
をはじめとして、9項目中7項目の対策が5割以上の事業場で実施されており、他業種に比べて
対策の実施率は高い状況である。
しかしながら、これらの対策は、自動車運転業務を適確に実施する上でも必要な措置であり、
自動車運転業務を主たる業務とする陸上貨物運送事業としては、必ずしも実施率が高いとは言い
難い面がある。
また、事業者の理解を含めた組織的な対応が必要な「交通労働災害防止規程の作成」(32.2%)、
「安全衛生委員会等における交通労働災害防止対策の審議」(38.1%)の2項目については、不
十分な状況である。
[3] 陸上貨物運送事業以外の業種における状況
陸上貨物運送事業以外の業種においては、「運転適性検査の実施」(6.7%)、「交通労働災
害防止規程の作成」(12.6%)、「安全衛生委員会等における交通労働災害防止対策の審議」
(16.6%)の順に実施率が低い。また、「交通労働災害防止担当管理者の選任」(38.1%)につ
いても、実施率は高くない。
このうち、「交通労働災害防止規程の作成」、「安全衛生委員会等における交通労働災害防
止対策の審議」及び「交通労働災害防止担当管理者の選任」については、交通労働災害防止管
理体制の確立に係る対策であるが、ほとんど取り組まれていない状況である。
また、「走行計画の作成」(30.9%)、「雇入れ時教育における交通労働災害防止教育の実
施」(30.9%)及び「運転者の乗務実態の把握」(33.6%)についても実施率は5割以下であり、
交通労働災害防止管理体制の確立のもと実施されるべき走行管理及び教育についても、あまり
取り組まれていない状況である。
図1
表1
(2) 労働時間管理に係る法令違反の状況(表2、図2)
陸上貨物運送事業における労働基準法又は改善基準に違反している事業場の割合は55.9%で、過
半数の事業場で何らかの労働時間に係る法令違反が認められる状況である。
違反事業場における違反内容別の割合は、労働基準法では時間外労働違反(第32条)(57.6%)、
改善基準では1日の拘束時間違反(第4条第1項第2号)(47.0%)、連続運転時間違反(同第5
号)(43.9%)が高くなっている。
図2
表2
(3) 労務管理及び安全衛生管理に関し問題が認められた事例
労務管理及び安全衛生管理に関する問題として、次のようなものが認められる。
[1] 改善基準に関する違反が認められるもの(表)
[2] 労働時間管理が不十分なもの(表)
[3] 走行計画が不備又は不適切なもの(表)
[4] 送迎用車両の運転者に適格者を配置していないもの(表)
[5] 点呼等による運転者の体調のチェック等が実施されていないもの(表)
[6] 異常気象等の際の安全な運転の確保のための指示等適切な措置がとられていないもの(表)