安全衛生情報センター
第1 目的 粉じんにさらされる労働者の健康障害を防止することは、極めて重要である。 本総合対策は、じん肺新規有所見労働者の発生状況、9次にわたる粉じん障害防止対策の推進状況等 を踏まえ、当該対策の重点事項及び労働基準行政が実施する事項を定めるとともに、労働者の安全と健 康を守るため、事業者が講じなければならない措置等のうち、重点事項に基づき今後5年間において事 業者が特に実施すべき措置を、「粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置」(以下 「講ずべき措置」という。)として示す。その上で、その周知及び当該措置の実施の徹底等を図ること により、事業者に対して、粉じん障害防止規則(昭和54年労働省令第18号。以下「粉じん則」という。) 及びじん肺法(昭和35年法律第30号)の各規定に定める措置のほか、より防護係数の高い呼吸用保護具の 使用等といった粉じんによる健康障害を防止するための自主的な取組を適切に実施することを促し、も って粉じん障害防止対策のより一層の推進を図ることを目的とする。 第2 総合対策の推進期間 令和5年度から令和9年度までの5か年とする。 第3 総合対策の重点事項 じん肺所見が認められる労働者数は減少しているものの、じん肺新規有所見労働者は依然として発生 しており、一般的に遅発性疾病であるじん肺に対して厚生労働省が長期的に取り組んでいくことの必要 性を鑑みれば、引き続き粉じんばく露防止対策を推進することが重要である。 このため、まずは、業種や職種を問わず、粉じんばく露の防止に効果的な対策である呼吸用保護具の 適正な選択と使用の徹底並びに粉じんの有害性と対策の必要性について周知及び指導等を、業種や職種 を問わず実施する必要がある。特に、作業環境測定の評価結果が第三管理区分に区分され、その改善が 困難な場合は、個人サンプリング法等による濃度測定結果に基づく有効な呼吸用保護具の使用が義務化 され、令和6年4月から施行されるところであり、その定着に取り組む必要がある。 また、令和3年4月から施行されたずい道内の粉じん濃度の測定結果を踏まえた有効な電動ファン付き 呼吸用保護具の使用も含め、引き続きずい道等建設工事に係る粉じん障害防止対策に取り組む必要があ る。 さらに、粉じん作業に従事する労働者に対して、適切に健康管理措置を進めていくためには、事業者 が行うじん肺健康診断についても着実に実施されるよう取り組む必要がある。 加えて、離職時又は離職後にじん肺所見が認められる労働者の健康管理を引き続き推進する必要があ る。 このほか、地域の実情をみると、引き続き、アーク溶接作業や岩石等の裁断等の作業、金属等の研磨 作業、屋外における岩石・鉱物の研磨作業又はばり取り作業及び屋外における鉱物等の破砕作業に係る 粉じん障害防止対策等の推進を図る必要がある都道府県労働局(以下「局」という。)もみられることか ら、下記4つの重点事項に加え、管内のじん肺新規有所見労働者の発生状況、これまでの局の総合対策 の推進状況等に応じて、上記以外の粉じん障害防止対策を推進する必要がある。 上記を踏まえ、次の事項を重点事項とする。 ① 呼吸用保護具の適正な選択及び使用の徹底 ② ずい道等建設工事における粉じん障害防止対策 ③ じん肺健康診断の着実な実施 ④ 離職後の健康管理の推進 ⑤ その他地域の実情に即した事項 第4 労働基準行政の実施事項 1 局及び労働基準監督署の実施事項 (1) 局における重点事項の設定 局は、上記第3①〜④に掲げた重点事項を基本としつつ、管内の各業種及び作業ごとの事業場の 取組状況、これまでの総合対策の推進状況並びにじん肺有所見労働者の発生状況等に応じ、上記第 3⑤の局独自の重点事項を設定する。 (2) 集団指導、個別指導、監督指導等の実施 集団指導、個別指導、監督指導等の各種行政手法を効率的に組み合わせ、「講ずべき措置」をは じめとして、粉じんの有害性や、粉じん則及びじん肺法の各規定に定める措置の必要な事項につい て、効果的に周知徹底を図る。特に、重点事項である「呼吸用保護具の適正な選択及び使用の徹底」 及び「じん肺健康診断の着実な実施」について重点的に指導を行い、じん肺健康管理実施状況報告 が未提出の事業場に対しては提出するよう指導する。 また、監督指導の結果、重大・悪質な法令違反が認められた場合は、司法処分として送検するこ とを含め、厳正な措置を講じる。 さらに、事業者に対して健康管理手帳制度を周知すること等により、離職するじん肺有所見労働 者に対する健康管理対策の推進を図るとともに、健康管理手帳交付対象者に対して当該手帳交付時 に、健康管理に係る留意事項等を十分指導する。 (3) 計画の届出の徹底及び適正な審査 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第88条に基づく計画の届出の徹底を図り、その適切な審 査を行う。 また、ずい道等建設工事に係る計画の届出がなされた際には、「ずい道等建設工事における粉じ ん対策に関するガイドライン」(以下「ずい道粉じん対策ガイドライン」という。) に沿った計画 となっているか確認する。 (4) 電動ファン付き呼吸用保護具の着用 電動ファン付き呼吸用保護具は、粉じん則等において、特定の作業に労働者を従事させる場合に 着用させることが義務付けられているが、その性能の高さから、当該特定の作業以外においても、 これを活用することが望ましいことに鑑み、上記(2)及び(3)の指導・審査時等において、事業者に 対して電動ファン付き呼吸用保護具の着用について勧奨する。電動ファン付き呼吸用保護具の選択 及び使用に当たっては、電気機械器具の一種であることに鑑み、現場の状況に応じ電気機械器具防 爆構造規格(昭和44年労働省告示第16号)に適合した電動ファン付き呼吸用保護具の選択及び使用を 要請する。 なお、ずい道等建設工事においては、要求防護係数に基づく有効な電動ファン付き呼吸用保護具 の使用及び作業主任者の職務について、必要な指導を行う。 (5) 関係団体等に対する指導等の実施 ア 労働災害防止団体、事業者団体等に対する要請等 労働災害防止団体の都道府県支部、関係事業者団体等に対し、構成事業場に向けて、「講ずべ き措置」をはじめとして、粉じん則及びじん肺法の各規定に定める措置の内容の周知徹底及び健 康管理手帳制度を周知するとともに、構成事業場においても、労働者や関係請負人(一人親方等 を含む。)に対して、粉じん則及びじん肺法の各規定に定める措置の内容を周知することを要請 する。 また、関係事業者団体に対して、「講ずべき措置」の実施状況を確認する自主点検を実施する こと及び当該自主点検結果に基づき、構成事業者に対し必要な粉じん障害防止対策を自主的に実 施することを要請する。 さらに、必要に応じて、労働災害防止団体、関係事業者団体等が行う粉じん作業を有する会員 事業場への普及啓発活動の場を活用して、粉じん対策に関する説明を行う等の連携を図る。 イ 粉じん障害防止総合対策推進強化月間等を通じた啓発活動の実施 (ア) 粉じん障害防止総合対策推進強化月間 粉じん障害防止対策を効果的に推進するためには、粉じんの有害性及び粉じん障害防止対策 等に関する関係者の意識を高揚させ、自主的な粉じん障害防止対策の実施の活性化を図ること が重要である。 このため、全国労働衛生週間準備期間の9月を引き続き「粉じん障害防止総合対策推進強化 月間」とし、関係団体等に対し、構成事業場へのパトロールの実施等、当該月間中における各 種行事の開催を要請する。 (イ) 粉じん対策の日 粉じん作業を有する事業場に対し、呼吸用保護具の点検、局所排気装置等の点検、たい積粉 じん除去のための清掃等を定期的に実施させ、その定着を図るため、毎月特定の日を「粉じん 対策の日」として設定するよう指導する。 (6) 中小規模事業場への支援 中小規模事業場に対しては、都道府県産業保健総合支援センター又はその地域窓口である地域産 業保健センターが行う労働衛生コンサルタント、産業医等の専門家による相談事業(事業場訪問を 含む。)等の活用を図るよう指導する。 また、粉じん対策指導委員等による必要な技術的援助を行う。 (7) じん肺診査における精度確保 じん肺の診査に係る制度の適切な運用には、じん肺診査の体制の維持・強化が必要不可欠である。 診査時のじん肺所見の見落としはあってはならないことから、地方じん肺診査医には、放射線科医 と呼吸器内科医を両方任命するよう極力努める。じん肺診査の体制については、人材の確保が極め て重要であることから、局においても、日頃から機会を捉えて地方じん肺診査医の候補者の情報収 集や人材育成、地域の医療機関との関係構築に努める。 じん肺健康診断に用いる画像はじん肺法第3条でエックス線写真とされているが、この取扱いに 変更はない。なお、CT写真はじん肺健康診断の際に参考資料として閲覧して、特にじん肺所見があ ると総合的に判断する場合に利用して差し支えない。 なお、デジタル画像による診断に関しては、医療用モニターについて、平成23年9月26日基安労 発0926第1号「「じん肺標準エックス線写真集」(平成23年3月)フィルム版及び電子媒体版の取扱 いについて」の別添「「じん肺標準エックス線写真集」電子媒体版について」において具備すべき 条件を示しているところであり、医療用モニターが全局に導入されたことから、今後関係通達の改 正を予定しているところである。 (8) ずい道等建設工事の発注者に対する要請等の実施 ずい道等建設工事における粉じん障害防止対策の実効を期すためには、工事発注者が粉じん障害 防止対策の重要性を理解し、必要な措置を講じることが重要である。このため、国の出先機関及び 地方公共団体等との間の建設工事関係者連絡会議等を通じて、ずい道粉じん対策ガイドラインに基 づく対策を実施するための経費の確保について要請を行うとともに、建設業労働災害防止協会が策 定した「令和2年粉じん障害防止規則等改正対応版ずい道等建設工事における換気技術指針」(令和 3年4月)についても、必要に応じ、参照するよう周知する。 2 本省の実施事項 (1) 事業者団体等に対する要請の実施 令和4年5月の労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号)による改 正において、作業環境測定の評価結果が第三管理区分に区分され、その改善が困難な場所では、厚 生労働大臣の定めるところにより、濃度を測定し、その結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護 具を使用させることや当該呼吸用保護具に係るフィットテストを実施すること等が義務化された (令和6年4月1日施行)ところであり、これらの改正内容の関係団体等への周知等を図る。 (2) じん肺診査体制の強化 中央じん肺診査医会で地方じん肺診査医会の運営状況やじん肺の診査が困難となる場合における 原因を把握するよう努め、必要な技術的支援を行う。また、医療用モニターが全局において導入さ れたことから、今後はじん肺管理区分決定の申請者の利便性の向上や遠隔相談による支援の実現に 向けたオンライン化等について必要な対応を進める。 (3) 各種調査・研究の実施 粉じんばく露の防止に効果的な呼吸用保護具の適正な使用に関する研究を行う。 また、近年、非典型的で急速に進行するじん肺の事案が散見されていることから、それらについ ての調査研究を行う。 さらに、近年における医療の進展や医学的知見の集積、過去の研究成果物及びそれに基づく知見 等を踏まえ、「じん肺標準エックス線写真集」の改訂の必要性を検討するとともに、じん肺健康診 断及びじん肺診査を適切に実施するための「じん肺診査ハンドブック」の精査及び更新あるいはこ れに代わるテキストの作成に関する研究を行う。 (4) その他 所属する事業場が転々と変わるずい道等建設工事に従事する労働者のじん肺関係の健康情報、有 害業務従事歴等の一元管理を行う建設業労働災害防止協会に対して支援を行い、ずい道等建設工事 に従事した労働者の健康管理の充実を図る。