安全衛生情報センター
「1 はじめに」について 「1 はじめに」においては、近年、職場における情報機器作業が大きく変化するとともに、情報機器 作業における問題点として、精神的疲労、身体的疲労等を感じている作業者が多数に上るなどの問題点が 指摘される状況にあり、このような作業者の心身の負担を軽減し、情報機器作業を支障なく行うことがで きるようにするためには、事業者が作業環境管理、作業管理、作業者の健康管理等を適正に行い、作業者 を支援していくことが重要であるという情報機器ガイドラインの基本的な考え方について示した。 「2 対象となる作業」について 情報機器ガイドラインは、事務所においてディスプレイ(画面表示装置)を備えた情報機器を使用して作 業を行う場合の労働衛生管理を対象とするものである。事務所とは、建築物又はその一部で事務作業に従 事する作業者が主として使用するものをいう。ディスプレイを備えた情報機器を対象としており、キーボ ードについては必ずしも備えていなくとも対象としている。 ディスプレイとしては、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、有機エレクトロ・ルミネッセンス・デ ィスプレイ(有機EL)、プラズマ・ディスプレイ、蛍光表示管ディスプレイ、発光ダイオード・ディスプレ イなどがある。 情報機器を使用する者については、一般正社員、パートタイマー、派遣労働者、臨時職員等の就業形態 の区別なく、作業者が情報機器を使用する場合は全て情報機器ガイドラインの対象とする。 近年、自営型テレワーカーが自宅等において行う情報機器作業等が増加しつつあるが、これらの場合に ついても、できる限り情報機器ガイドラインに準じて労働衛生管理を行うよう指導等することが望ましい。 なお、自営型テレワークとは、注文者から委託を受け、情報通信機器を活用して主として自宅又は自宅 に準じた自ら選択した場所において、成果物の作成又は役務の提供を行う就労をいう(法人形態により行 っている場合や他人を使用している場合等を除く。)。 情報機器作業における身体的な特徴は「拘束性」という言葉で表される。これは情報機器作業において は、画面からの情報を正確に得るために頭(眼)の位置が限定されること、さらに、特にキーボードからの 入力においては、手の位置も限定されることから、身体の動きが極端に制限されることによる。 また、決められた時間内に処理すべき作業量が多い場合などには精神的な負荷も加わり、心身ともに 「拘束性」が強くなる。 「拘束性」が強いかどうかの判断は容易ではない場合が少なからずある。作業者自身が気付かないこと も多く、また個人差も大きいことから、衛生管理者や産業医等の客観的な観察も必要である。 以下の作業環境管理、作業管理に関する考え方及びその解説は、主に情報機器作業においてディスプレ イを注視し、キー操作(打鍵)等を行う作業者を想定したものである。 「3 対策の検討及び進め方に当たっての留意事項」について 情報機器作業に関する労働衛生管理が適正に行われるためには、事業者は安全衛生に関する基本方針を 明確にするとともに、安全衛生管理体制を確立し、事業者、各級管理者、作業者等の関係者の協力の下、 具体的な安全衛生計画を作成し、労働衛生管理活動を計画的かつ組織的に進めていく必要があることを示 した。 このような労働衛生管理活動は、衛生委員会等の組織を有する事業場においては、衛生委員会等におけ る調査審議の結果に基づき、総括安全衛生管理者、衛生管理者、産業医、各部門の管理者等を中心に、そ の他の事業場においては、事業者、衛生推進者、職場の責任者等が主体となって進められることとなる。 なお、事業場におけるこれらの活動をより効果的に進めるためには、必要に応じ、都道府県産業保健推 進センター、地域産業保健センター、労働衛生コンサルタント等の活用を図ることが望まれる。 また、作業者には身体、心理、技能、経験等の違いにより、個人差があるので、一定の基準を全ての情 報機器作業従事者に画一的に適用するのは適当でなく、ある程度の弾力性が必要である。 したがって、情報機器作業に関する労働衛生管理基準を新たに設け、又はこれを変更する場合には、当 該基準が個々の作業者に適合しているかどうかについて、衛生委員会等において一定期間ごとに評価を実 施し、このような評価結果に基づいて、より適切なものとしていくことが大切である。 さらに、情報機器作業に関する労働衛生管理がより適正に行われるためには、各事業場において労働安 全衛生マネジメントシステムを導入し、安全衛生計画の作成、実施、評価、改善等を順次進めていくこと により、情報機器ガイドラインに基づいて定めた情報機器作業に係る労働衛生管理基準に盛り込まれた措 置が確実に実施されるようにすることが望ましい。 「4 作業環境管理」について 作業環境管理においては、情報機器ガイドラインに掲げる事項のほか、「事業者が講ずべき快適な職場 環境の形成のための措置に関する指針」(平成4年7月1日付け労働省告示第59号)を参照し、作業者が快適 に作業を行うことのできる職場環境の整備を図ることが望ましい。 (1) 照明及び採光 イ 室内の照明及び採光については、明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせない方法 によらなければならない(事務所衛生基準規則第10条第2項参照)。 ロ 「書類上及びキーボード上における照度」とは、書類やキーボードなどに入射する光の明るさを いう。 「ディスプレイ画面の明るさ、書類及びキーボード面における明るさと周辺の明るさとの差はな るべく小さくすること。」とは、瞳孔は明るさに応じてその大きさを調節しており、一般的に、デ ィスプレイ画面や書類・キーボード面と周辺の明るさの差が大きいと眼の負担が大きくなるので、 なるべく明るさの差を小さくすべきであるという趣旨である。 ニ 「グレア」とは、視野内で過度に輝度が高い点や面が見えることによっておきる不快感や見にく さのことで、光源から直接又は間接に受けるギラギラしたまぶしさなどをいう。 ホ 情報機器作業従事者がディスプレイを注視している時に、視野内に高輝度の照明器具・窓・壁面 や点滅する光源があると、まぶしさを感じたり、ディスプレイに表示される文字や図形が見にくく なったりして、眼疲労の原因となる(眼の明るさに対する調整は網膜の順応や瞳孔の大きさによっ て行われるが、強い光に対する調整が優先されるためにグレアがあると比較的暗い画面上の文字等 は見にくくなる。)。 また、これらがディスプレイ画面上に映り込む場合も同様である。したがって、ディスプレイを 置く位置を工夫して、グレアが生じないようにする必要がある。 映り込みがある場合には、ディスプレイ画面の傾きを調整することなどにより、映り込みを少な くすることが必要である。 一般にグレアを防ぐために、近い視野内での輝度比は1:3程度、広い視野内の輝度比は1:10程度 が推奨されている。 その他の映り込みを少なくする方法としては、フィルターを取り付ける等の方法があるが、フィ ルターの性能によっては、表示文字の鮮明度が低下したり、フィルター自身の表面が反射したりす ることがあるため、反射率の低いものを選ぶ等の注意が必要である。 (2) 情報機器等 イ 情報機器の選択 情報機器には、用途に応じ、デスクトップ型、ノート型、タブレット型、携帯情報端末等の様々 な種類があり、その特性等も異なることから、労働者への健康影響を考慮し、作業者が行う作業に 最も適した機器を選択し導入する必要がある。 一般に、デスクトップ型は、一定の作業面の広さが必要であるが、キーボードが大きく、自由に 移動させることができるため、作業姿勢も拘束されにくく、長時間にわたり作業を行う場合等に適 している。 また、ノート型は、キーボードが小さく、自由に移動させることができないため、作業姿勢も拘 束され易いが、作業面の広さは少なくて済むため、作業面の広さが限られている場合等に適してい る。 ただし、作業の内容、作業量等のその他の考慮すべき事項も考えられるため、情報機器の導入に 当たっては、必要に応じ関係作業者等に意見を聞くことが望ましい。 ロ デスクトップ型機器 (イ) ディスプレイ 最近では多くの種類の情報機器用ディスプレイが存在する。通常の情報機器作業においては、 市場における一般的なディスプレイで支障なく作業を遂行することができると思われるが、CAD や定型書式への入力等の特定の作業において、画面が小さい、又は表示容量が低い場合に、情報 機器作業者に過度の負担をもたらす場合があることから、画面サイズは目的とする作業に応じた 適切な大きさのものを用いる必要がある。 反射防止型ディスプレイは、表面につや消し処理を行って散乱性をもたせたものと、多層薄膜 コーティングにより反射そのものを減らすものとに大別されるが、前者は外光が明る過ぎると、 画面全体が光るようになり、後者は、汚れやすいという欠点があるので、注意を要する。 ディスプレイ画面上の輝度又はコントラストの調整方法は、情報機器によって異なるので注意 を要する。 代表的な例として次のような方法がある。 a ディスプレイ本体上のボタンやノブ等による方法 b キーボード上のボタン又はキー操作による方法 c ソフトウェアによる方法 ディスプレイの人間工学上の要求事項の詳細については、ISO 9241-303(Ergonomic requir ements for electronic visual displays)をはじめとする、9241-300シリーズ等を参照さ れたい。 なお、情報機器から発せられる青色光(ブルーライト)は、概日リズムに影響を与えるとの 研究があり、睡眠障害等の懸念が考えられる場合には、その使用に留意する必要がある。 (ロ) 入力機器(キーボード、マウス等) 入力機器としては、キーボード、マウスが代表的であるが、マウス以外のポインティングデバ イス(トラックボール、パッド、スティック等)、音声入力、イメージスキャナー、バーコードリ ーダー等がある。また画面を直接指でタッチするタッチパネル方式の機器も入力機器の一種であ る。 これらの入力機器を利用することによって、情報機器作業を効率化でき、作業者の負担を大き く軽減できる場合もあるので、目的とする情報機器作業に適した入力機器を使用できるようにす る必要がある。 キーボード及びその他の入力機器についての人間工学上の要求事項の詳細については、JIS Z 8514(人間工学−視覚表示装置を用いるオフィス作業−キーボードの要求事項)、JIS Z8519(人 間工学−視覚表示装置を用いるオフィス作業-非キーボードの入力装置の要求事項)等を参照され たい。また、最新の入力装置に関する情報は、ISO 9241-400シリーズ等を参照されたい。 ハ ノート型機器 ノート型機器には、携帯性を重視した設計(画面が小さい、キーストロークが短い、キーピッチ が小さいなど)のものがあり、それらを長時間の情報機器作業に使用する場合には、人間工学上の 配慮が必要となる。 小さいキーボードを、手が大きい作業者が使用する場合には、連続キー入力作業で負担が大きく なることがあり、小型の画面は文字が小さく視距離が短くなりすぎる傾向がある。また、キーボー ドとディスプレイが一体となった構成は、デスクトップ型に比べてディスプレイと頭の位置及びキ ーボード等入力装置と手の位置の関係において自由度が小さくなるため、作業者に特定の拘束姿勢 を強いることや過度の緊張を招くことなどがある。したがって、使用する作業者や目的とする情報 機器作業に適した機器を使用させる必要がある。 多くのノート型機器は外付けのディスプレイ、キーボード、マウス、テンキー入力機器などを接 続し、利用することが可能であり、小型のノート型機器で長時間の情報機器作業を行う場合には、 これらの外付け機器を利用することが望ましい。 ノート型機器の使用時の留意点については、日本人間工学会の「ノートパソコン利用の人間工学 ガイドライン」が参考になる。 ニ タブレット、スマートフォン等 労働形態の多様化とICT(情報通信技術)の進展に伴い、移動中でもタブレットやスマートフォン を用いて仕事をする機会が増している。これらの機器は、小型化と携帯性を重視して設計されてい るため、職場や自営型テレワーク等において長時間にわたり使用するには必ずしも十分とはいえな い。 これらの機器の人間工学上の特徴を踏まえ、ガイドラインでは長時間の情報機器作業に使用する ことはできる限り避けることが望ましいこととした。 タブレット、スマートフォン等はこれらの使用と姿勢との関係において、その「拘束性」はパソ コンでのキーボード入力作業ほど強くはないと考えられるが、使用形態と健康影響に関する知見は 少ない。今後注意深い観察が必要である。 へ ソフトウェア (イ) ソフトウェアは、作業者の作業性及び作業負担に大きく影響するため、目的とする情報機器作 業の内容、利用する作業者の技能、能力等に合ったものを使用することが望ましい。 (ロ) 作業者が作業中に、ヘルプ機能を用いること等により、操作方法等について随時参照できるこ とが望ましい。 (ハ) 作業者が行う作業の内容や作業者の技能の程度、好み等により、作業者が作業を行いやすい文 字等の大きさ、色、行間隔等は異なるので、それらの設定は、作業者が容易に変更可能であるこ とが望ましい。 (ニ) 作業者の操作の誤りにより、それまでに入力した膨大な量のデータが消失し、復元不可能な場 合、作業者に大きな負担を与えることとなるので、一旦入力したデータについては、容易に復元 可能であることが望ましい。 ただし、作業者の特性や情報機器作業の目的に合ったものであるかどうかなどの判断が難しい という面もある。以下に判断の一助となる三つのJISを示すので、参照されたい。 a JIS Z8520(人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業−対話の原則) VDT対話の設計及び評価のための7つの原則が示されており、使用するソフトウェアがそれら に合致しているかの判断に利用できる。 b JIS Z8521(人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業−使用性についての手引)使用性 (ユーザビリティ)の考え方及び測定方法について示されている。使用するソフトウェアは、作 業者に受け入れられる水準以上のユーザビリティが確認されていることが望ましい。 c JIS X25062(システム及びソフトウェア製品の品質要求及び評価(SquaRE)−使用性の試験 報告書のための工業共通様式) 使用性を判断するための試験報告書の共通様式であり、国際規格ISO/IEC 25062の翻訳JIS である。ソフトウェア選定の一助となる。 ト 椅子 個人専用の椅子については、作業者の体形、好み等に合わせて適切に調整できるものがよい。 複数の作業者が交替で同一の椅子を使用する場合は、作業者一人ひとりが自分の体形に合った高 さに容易に調整できるよう、ワンタッチ式など調整が容易なものがよい。 床からの座面の高さの調整範囲は、大部分の作業者の体形に合わせることができるよう、37cm 〜43cm程度の範囲で調整できることが望ましい。 ここでいう床から座面の高さとは、実際に座って、クッション材が2cm〜3cm圧縮された状態の 座面の高さのことである。市販されている椅子の座面高の表示は、クッション材が圧縮されていな い外形表面の高さが一般的であるので注意を要する。 床から座面の高さの調整範囲は、広いほど、多くの作業者に適応できるが、あまりに広い調整範 囲を有する椅子は大型になりがちで適当でないので、ここでは実用的な調整範囲を示した。椅子の 調整範囲で調整できない場合については、フットレストの利用等必要に応じて対応することが望ま しい。 チ 机又は作業台 (ハ)のaで、高さ調整ができない机又は作業台を使用する場合は、床からの高さはおおむね65cm 〜70cm程度のものを用いることが望ましい。65cm及び70cmがそれぞれ女性及び男性が使用する場 合に必要な高さのほぼ平均値となるためである。 (ハ)のbで示した、高さ調整が可能な机又は作業台を使用する場合の調整範囲は、大部分の作業 者の体形に合わせることができるよう、床からの高さは60cm〜72cm程度の範囲で調整できること が望ましい。 床からの高さの調整範囲は、椅子と同様に実用的な調整範囲を示した。 調整範囲で調整できない場合については、椅子の場合と同様、必要に応じて対応することが望ま しい。 高さ調整が可能な机又は作業台を使用する場合には、椅子の高さを最適に調整した後、机の高さ を調整するとよい。 大型ディスプレイを使用する場合は、十分な奥行きの机を使用し、作業者の体にねじれを生じさ せないよう、またディスプレイを見上げないように、ディスプレイを配置すること。また、脚の周 囲の空間に荷物等があり、脚が窮屈な場合は、取り除くこと。 椅子、机又は作業台に関する人間工学上の要求事項の詳細は、JIS Z8515(人間工学−視覚表示 装置を用いるオフィス作業−ワークステーションのレイアウト及び姿勢の要求事項)を参照された い。 情報機器作業においては、機器と作業者の姿勢の関係を優先して机及び椅子を選択及び調整する ことが望ましい。特に、ノート型機器は一般の事務机上で使用することが多く、机・椅子の組み合 わせ及び調整は長時間作業の疲労軽減に重要な因子となりうる。作業者自身が最も作業がしやすい 姿勢をとるために机や椅子の調整を行うことも必要である。 (3) 騒音の低減措置 イ このような騒音の低減を図るためには、遮音及び吸音の機能を有するつい立てで取り囲む、機器 そのものを消音ボックスに収納する、床にカーペットを敷く、低騒音型機器を使用するなどの方法 もある。 ロ 情報機器作業を行う場所付近で、騒音を発する事務用機器を使用する場合には、必要に応じ、騒 音伝ぱの防止措置を講じること(事務所衛生基準規則第11条及び第12条参照)。 (4) その他 事務所の換気、温度、湿度及び空気調和(空調)については、事務所衛生基準規則第3条から第5条ま でを参照されたい。 また、休憩等のための設備については、事務所衛生基準規則第19条から第21条までを参照されたい。 「5 作業管理」について 情報機器作業には多くの種類があり、それぞれ作業形態や作業内容は大きく異なっている。また、情 報機器作業が健康に及ぼす影響は非常に個人差が大きいので、画一的な作業管理を行うことは好ましく ない。 したがって、各事業場においては、個々の作業者の特性に応じた情報機器、関連什器等を整備するほ か、情報機器作業の実態に基づいて作業負担の少ない業務計画を策定すること等、細かく配慮すること が望ましい。 (1) 作業時間等 イ 一日の作業時間 一日の作業時間については、これまでの経験から、職場において情報機器作業に関して適切な労 働衛生管理を行うとともに、各人が自らの健康の維持管理に努めれば、大多数の労働者の健康を保 持できることが明らかになっており、他方、各事業場における情報機器作業の態様が様々で作業者 への負荷が一様でなく、また、情報機器作業が健康に及ぼす影響は非常に個人差が大きいこともあ り、ガイドラインでは上限を設けていない。 しかしながら、管理者は、適切な作業時間管理を行い、情報機器作業が過度に長時間にわたり行 われることのないようにする必要がある。 「相当程度拘束性があると考えられる作業」の情報機器作業については、一般に自由裁量度が少 なく、疲労も大きいため、それ以外の作業を組み込むなどにより、一日の連続情報機器作業時間が 短くなるように配慮する必要がある。 ロ 一連続作業時間及び作業休止時間 (イ) 作業休止時間は、ディスプレイ画面の注視、キー操作又は一定の姿勢を長時間持続することに よって生じる眼、頸、肩、腰背部、上肢等への負担による疲労を防止することを目的とするもの である。連続作業後、一旦情報機器作業を中止し、リラックスして遠くの景色を眺めたり、眼を 閉じたり、身体の各部のストレッチなどの運動を行ったり、他の業務を行ったりするための時間 であり、いわゆる休憩時間ではない。 一連続作業時間の目安として1時間としているのは、パソコン作業がおおよそ1時間以上連続し た場合には誤入力の頻度が増すことやフリッカー値が低下する(フリッカー値とは光の点滅頻度 のことで、この値の低下は覚醒水準の低下に起因する視覚機能の低下を反映していると考えられ る。)、 すなわち大脳の疲労と関連する指標値に変化が見られたという研究結果に基づいている。 (ロ) 小休止とは、一連続作業時間の途中で取る1分〜2分程度の作業休止のことである。時間を定 めないで、作業者が自由に取れるようにすること。 ハ 業務量への配慮 個々の作業者の能力を超えた業務量の作業を指示した場合、作業者は作業を休止したくても休止 することができず、無理な連続作業を行わざるを得ないこととなるため、業務計画を策定するに当 たっては、無理のない適度な業務量となるよう配慮する必要がある。 (2) 調整 情報機器作業は、自然で無理のない姿勢で行うことが重要であるため、極端な前傾姿勢やねじれ姿 勢を長時間継続させないよう、機器の位置を調整させる必要がある。 イ 作業姿勢 デスクトップ型パソコンで好ましいとされている作業姿勢は、ディスプレイの上端が眼の位置よ り下になるようにし、視距離は40cm以上確保すること。上腕と前腕の角度は90度以上で、キーボー ドに自然に手が届くようにする、とされている。また、これまでの調査研究から①首のこりや痛み は頭の前傾が大きくなると増加し、②打鍵の際に腕や手首を乗せる支持台がないと肩のこりや痛み は増加し、③手の側屈(尺側変位)が大きいと腕の疲れや痛みが増加するといわれている。 一方、ディスプレイとキーボードが一体になっているノート型パソコンを一般の事務机上で使用 する際には上述のような姿勢をとることは容易ではないが、上述の「好ましい姿勢」を参考にしな がら個人差も考慮した対応が必要になろう。 (イ)において、必要に応じ、足台を備えることとしたのは、足台は、足を疲れさせないだけでな く、背中や腰の疲れを防ぐ効果も有するためである。 ロ ディスプレイ (イ)において、ディスプレイ画面と眼の視距離をおおむね40cm以上としたのは、眼に負担をか けないで画面を明視することができ、かつ、眼とキーボードや書類との距離の間に極端な差が生じ ないようにするためである。 (ロ)については、ディスプレイが大画面の場合は、画面の上端が眼の位置よりも上になる場合 があるが、ディスプレイをパソコン本体の上に置かないようにすること等により、できる限り眼の 高さよりも高くならないようにすることが望ましいことを示したものである。 (ハ)において、ディスプレイ画面とキーボード又は書類を眼からほぼ等しい距離にすることとし たのは、情報機器作業における眼球運動から生じる眼疲労(視線を移動させるたびにいちいち焦点 調節を行っていると眼疲労を招く)を軽減するためである。 (ニ)の調整では、個々の作業者ごとに好ましい位置、角度、明るさ等が異なることから各自が調 整する必要があることを徹底すべきである。 また、個々の作業者においても、時間帯によって室内の明るさが変化する場合、作業内容の変更 やディスプレイ上の表示情報が変化する場合、慣れや疲れ等によって最適なレベルが変化する場合 等においては、条件の変更が必要となることもあるので、1日に何回でも必要に応じて調整するこ とが望ましい。 (ホ)の文字の大きさは、視距離によって最適な大きさが変動するため、視角(単位は分:1度の60 分の1)でその要求値が決められている。 英数文字の場合には、読みやすさを確保するためには一般に16分以上がよく、20分〜22分が特 に推奨される。また、漢字などを表示する場合には一般に20分以上がよく、25分〜35分程度が特 に推奨される。視距離50cmで、20分が約2.9mmとなることから、ここではおおむね3mm以上とした。 一般に文字の大きさは、作業者が、10ポイント、12ポイントなどと自由に設定できる場合が多い が、そのポイント数はディスプレイのサイズや種々の設定条件によって、必ずしも文字の物理的な 大きさとは一致しないことに留意すること。 なお、高齢者については、10の(1)に示すように、別途配慮が必要である。 ハ 入力機器 多くの情報機器において、マウス等のポインティングデバイスのポインタの速度、ダブルクリッ クのタイミング等を変更することができるので、これを活用し、作業者の技能、好み等に応じた適 切な速度に調整する必要がある。 ニ ソフトウェア 最近の情報機器はソフトウェアによって、種々の条件の設定・調整が可能であるが、それらの方 法が知られていないために、適切でない条件で使用している例が少なくない。 ここに掲げているようなソフトウェアによる設定を徹底することによって、情報機器作業の改善 を図ることが可能であるため、作業者への教育などで周知する必要がある。 「6 情報機器等及び作業環境の維持管理」について (1) 情報機器等及び作業環境を良好に維持管理するには、点検項目を定め、定期的に点検、清掃等を 実施する必要があるので、情報機器ガイドラインでこの趣旨を明確にしたものである。 (2) 点検及び清掃を実施する上での留意事項を次に掲げるので、参考にされたい。 イ 照明、採光、グレア防止措置などが適切に設定されていたとしても、作業場所の変更などにより、 当初の条件が満たされなくなることがあるので、基準に適合しているか否かの点検を行う際、留意 すること。 ロ ディスプレイ画面やフィルターには、ほこりや手あかが付着して、画面が見えにくくなったり、 室内の湿度が低下すると静電気発生の原因となることもあるので、情報機器作業従事者の日常業務 の一環として、湿った布等で画面をきれいにすること。 また、マウスはゴミ等の付着によるカーソル移動の困難をなくすように適切に清掃を行うこと。 ハ 日常の清掃を行う際に、常に情報機器や机又は作業台、さらには作業場所の整理整頓に努めると ともに、これらを適正な状態に保持すること。 「7 健康管理」について (1) 健康診断 イ 配置前健康診断 「作業時間又は作業内容に相当程度拘束性があると考えられるもの(全ての者が健診対象)」(注) に対しては、健康障害防止の観点から健康診断を実施する必要がある。そうでない者で自覚症状を 訴えるものに対しては、情報機器ガイドラインの9の(2)に従って健康診断を実施すること。 a 業務歴の調査 問診票等を用い、過去の情報機器作業業務歴等について把握する。 b 既往歴の調査 問診票等を用い、既往歴について把握する。 c 自覚症状の有無の調査 業務歴及び既往歴の調査の結果を参考にしながら、問診票等を用いて問診により行う。自覚症 状の有無の調査は、情報機器作業による視覚負担、上肢の動的又は静的筋労作等、心身に与える 影響に着目して行う必要がある。 問診項目としては、眼の疲れ・眼の乾き・眼の異物感・遠くが見づらい・近くが見づらい、首 ・肩のこり、頭痛、背中の痛み、腰痛、腕の痛み、手指の痛み、手指のしびれ、手の脱力感、ス トレス症状等の自覚症状の有無等があげられる。また、眼の疲労等に関しては、眼科定期受診、 及び点眼薬など治療薬の継続的な使用の有無も聴取する。軽快のきざしが見えず自覚症状が継続 している場合は、当該症状に応じて、眼科学的検査又は筋骨格系に関する検査を行い、その結果 に基づき、医師の判断により、保健指導、作業指導等を実施し、又は専門医の精密検査等を受け るように指導することとする。 筋骨格系疾患については、自覚症状が検査所見よりも先行することが多いことに留意すること。 ストレス等の症状が認められた場合については、必要に応じて、カウンセリングの実施、精神 科医や心療内科医への受診勧奨等の事後措置を行うこと。なお、健康診断の実施場所における受 診者のプライバシー保護についての配慮を十分に行う必要がある。 d 眼科学的検査 (a) 視力検査 @ 遠見視力の検査 ふだん遠方視時(外を歩くなど)の屈折状態(裸眼、眼鏡、コンタクトレンズ)で検査を行う。 A 近見視力の検査 ふだんの作業時の屈折状態(裸眼、眼鏡、コンタクトレンズ)で検査を行う。通常、50cm視 力を測定するが、普段の情報機器作業距離がより近い場合には30cm視力を測定することが望 ましい。 近見視力の検査はディスプレイの視距離に相当する視力が適正なレベルとなるよう指導する ことが目的であり、近見視力は、片眼視力(裸眼又は矯正)で両眼ともおおむね0.5以上となる ことが望ましい。 (b) 屈折検査 裸眼又は眼鏡装用者は、裸眼での屈折状態をオートレフラクトメータにて測定する。コンタ クトレンズ装用者は、着脱可能な場合は裸眼で、困難な場合はレンズ装用下で測定する。 また、使用眼鏡の度数測定をレンズメーターで行う。コンタクトレンズ装用者は、可能であ れば使用レンズの度数を聴取する。 検査の結果、現在の矯正状態かつ情報機器作業距離で十分な視力が得られていないと判断さ れた場合は、配置前に眼科医の受診を指導すること。 なお、問診において特に異常が認められず、5m視力、近見視力がいずれも、片眼視力(裸眼 又は矯正)で両眼ともおおむね0.5以上が保持されている者については、屈折検査を省略して 差し支えない。 (c) 眼位検査、調節機能検査 眼位検査については、交代遮蔽試験又は眼位検査付き視力計で斜位の有無を検査する。 調節機能検査については、ふだん情報機器作業を行っている矯正状態での近点距離を測定す る。 前記(a)〜(c)以外の高度な眼科学的検査等については、専門医に依頼すること。 また、ドライアイは、情報機器作業により症状が発現する可能性があるため、問診において 眼乾燥感、異物感、痛み、間欠的な見づらさを訴える場合は、程度に応じて専門医の受診を指 導する。ドライアイの悪化要因としては、コンタクトレンズの装用、湿度の低下、眼に直接当 たる通風、ディスプレイ画面が高すぎて上方視することにより、過度にまぶたを開く場合、読 み取りにくい画面の凝視等によるまばたきの減少等が影響するので、これらに留意して、職場 環境の改善、保健指導等を行うこと。 e 筋骨格系に関する検査 この検査項目は、上肢に過度の負担がかかる作業態様に起因する上肢障害、その類似疾病の症 状の有無等について検査するためのものである。 (a) 上肢の運動機能、圧痛点等の検査 @ 指、手、腕等の運動機能の異常、運動痛等の有無 A 筋、腱、関節(肩、肘、手首、指等)、頸部、腕部、背部、腰部等の圧痛、腫脹等の有無 問診において、当該症状に異常が認められない場合には、省略することができる。検査の結 果、上肢障害やその他の整形外科的疾患、神経・筋疾患などが疑われる場合は、専門医への受 診等について指導すること。 ロ 定期健康診断 a、b及びcの調査並びにd及びeの検査の各検査項目については、それぞれの実施日が異なっても 差し支えない。 a 業務歴の調査 従事した情報機器作業の概要のほか、必要に応じ、作業環境及び業務への適応性についても調 べること。 なお、前記配置前健康診断に関する解説を参照のこと。 b 既往歴の調査 前記配置前健康診断に関する解説を参照のこと。 c 自覚症状の有無の調査 具体的検査の方法、判断基準及び措置については、前記配置前健康診断に関する解説を参照の こと。 なお、問診票は前記配置前健康診断で用いるものと同一のもので差し支えない。 d 眼科学的検査 具体的検査の方法、判断基準及び措置については、前記配置前健康診断に関する解説を参照の こと。 e 筋骨格系に関する検査 前記配置前健康診断に関する解説を参照のこと。 問診において、当該症状に異常が認められない場合には、省略することができる。前記配置前 健康診断に関する解説を参照のこと。 ハ 健康診断結果に基づく事後措置 (イ) 各検査項目の解説で示した保健指導、専門医への受診指導等を行うとともに、自他覚症状、各 種検査結果等に応じ、リラクゼーション、ストレッチ等の実施、作業方法の改善、作業環境改善 等について指導を行う。 健康障害や疲労症状の職場外要因としては、家庭における長時間にわたるインターネットの利 用、ゲームを長時間行う等の直接的な眼疲労の原因となるもののほかに、生活習慣、悩みごと等 の間接的な疲労要因が考えられる。 (ロ) 眼科学的検査の解説で示したように、近見視力が、片眼視力でおおむね0.5以上となるよう指 導を行うことが望ましい。 なお、作業に適した矯正眼鏡等の処方については、眼科医が行うことが望ましい。 (ハ) 産業医が作業者の健康を確保するため必要と認める場合は、作業の変更、作業時間の短縮、作 業上の配慮等の健康保持のための適切な措置を講じること。 (2) 健康相談 情報機器作業における健康上の問題は、健康診断時以外の日常で発生することも多いので、作業者 が気軽に健康等について相談し、適切なアドバイスを受けられるように、健康相談の機会を設けるこ とが望ましい。 (3) 職場体操等 静的筋緊張や長時間の拘束姿勢、上肢の反復作業などに伴う疲労やストレスの解消には、アクティ ブ・レストとしての体操やストレッチを適切に行うことが重要である。また、就業中にも背伸び、姿 勢の変化、軽い運動等を行うように指導すること。 「8 労働衛生教育」について 情報機器作業に係る労働衛生教育の実効性をもたせるためには、各事業場において定めた情報機器作 業に関する労働衛生管理基準が職場に適用できるような条件整備に努めるとともに、次に掲げる事項を 参考にして、作業者の教育訓練を実施することが重要である。また、手法及び実施時期を考慮のうえ、 効果的な実施方法を考える必要がある。 (1) 作業者に対する教育内容 イ 情報機器ガイドラインの概要 情報機器ガイドラインの概要について説明する。 ロ 作業管理 情報機器作業に関連する障害の最も大きな原因は「拘束的」な長時間に及ぶ作業であることを認 識させる。また情報機器作業の多様性と作業の方法・姿勢等には個人差が大きいことを認識させ、 自分自身の作業方法に関して客観的な見方ができるようにする。 ハ 作業環境管理 作業環境が作業の効率や健康に及ぼす影響について理解させる。 ニ 健康管理 情報機器作業による健康障害の種類及びその可能性について理解させる。また身体的な症状、精 神的なストレスの症状が懸念された場合、それらへの対処方法についても理解させる。 (2) 管理者に対する教育内容 イ 情報機器ガイドラインの概要(労働災害統計を含む。) 情報機器ガイドラインの概要について説明する。労働者教育に資する労働災害統計等も理解させ る。 ロ 作業管理 情報機器作業に関連する障害の最も大きな原因は「拘束的」な長時間に及ぶ作業であることを認 識させる。また情報機器作業の多様性と作業の方法・姿勢等には個人差が大きいことを認識させ、 管理者として労働者の作業方法や姿勢等を客観的に観察し、指導できるようにする。 ハ 作業環境管理 作業環境(機器の種類、採光、照明、温度・湿度、騒音など)が作業の効率や健康に及ぼす影響に ついて理解させ、管理者として作業環境の改善、維持ができるようにする。 ニ 健康管理 情報機器作業による健康障害の種類及びその可能性について理解させる。また身体的な症状、精 神的なストレスの症状が懸念される労働者がいる場合、管理者として労働者に適切な助言(衛生管 理者や産業医などへの導きなど)ができるようにする。 「10 配慮事項等」について (1) 高齢者に対する配慮事項等 見やすい文字の大きさや作業に必要な照度等は、作業者の年齢により大きく異なる。作業者によっ ては作業の視距離に応じた矯正(眼鏡)が必要になる場合がある。 多くの情報機器作業の場合、文字サイズ、輝度コントラスト等の表示条件は使用する機器の設定に より調整することが可能であり、作業者にとって見やすいように適合させることが望ましい。 照明機器等も、天井に配置した全体照明とは別に必要となる場合は、局所に作業用照明機器を配置 することにより個人の特性に配慮した照度条件を実現することが可能となる。 作業時間、作業密度、教育、訓練等についても、高齢者の特性に適合させる配慮が望まれる。 (2) 障害等を有する作業者に対する配慮事項 情報機器作業は、筋力や視力等に障害があっても、作業できるように、種々の支援対策が準備され ている。このような支援機器や適切な作業環境、作業管理によって、障害を有する場合でも、情報機 器作業を快適に行うような措置を講じることが望ましい。 (3) テレワークを行う労働者に対する配慮事項 労働基準法上の労働者については、テレワークを行う場合においても、労働安全衛生法等の労働基 準関係法令が適用されるため、労働安全衛生法等の関係法令等に基づき健康確保のための措置を講じ る必要がある。 また、テレワークを行う作業場が、自宅等の事業者が業務のために提供している作業場以外である 場合には、事務所衛生基準規則、労働安全衛生規則及び情報機器ガイドラインの衛生基準と同等の作 業環境となるよう、テレワークを行う労働者に助言等を行うことが望ましい。 (4) 自営型テレワーカーに対する配慮事項 情報機器を活用している自営型テレワーカーの場合、作業机、照明環境、作業時間等について、労 働衛生管理面からは必ずしも適切でないことがある。 仕事を自営型テレワーカーに注文する注文者は、情報機器作業を行う自営型テレワーカーの健康を 確保するため、自営型テレワーカーに対して情報機器ガイドラインの内容を提供することが望ましい。 このことにより、自営型テレワーカーは、情報機器作業に係る作業環境管理、作業管理、健康管理、 労働衛生教育等に関する情報を得ることができる。 なお、注文者には、自らの仕事を注文する者だけでなく、他者から業務の委託を受け、当該業務に 関する仕事を自営型テレワーカーに注文する者も含まれる。 (注) 4時間以上の作業 パソコン作業者の調査研究から、1日の作業時間が4〜5時間を超えると中枢神経系の疲れを訴える 作業者が増大し、また、筋骨格系の疲労が蓄積するという調査報告がある。また、疲労測定に関す る別の調査研究からは、点滅光の識別度合いを示すフリッカー値が5%以上の低下を示して疲労を示 す対象者が作業者の25%を超えないことを目標とすると、1日の作業時間は300分が望ましいとされ ている。