安全衛生情報センター
職場での熱中症予防対策については、平成21年6月19日付け基発第0619001号「職場における熱中症の予 防について」(以下、「基本対策」という。)により示しているところであるが、平成23年の職場での熱中 症による死亡者数は18人であった。死亡者数は、記録的な猛暑となった平成22年の47人からは激減したが、 依然多くの方が亡くなっていることから、熱中症予防対策の的確な実施が必要である。 さらに、平成24年の暖候期(6〜8月)には、平年より高い気温となることが暖候期予報で予想されている (解説1参照)ほか、夏の電力需給の逼迫が見込まれることから、屋内の熱中症の発生も懸念されるところ である。 以上を踏まえ、平成24年の職場での熱中症予防対策については、業種として建設業及び建設現場に付随 して行う警備業(以下、「建設業等」という。)並びに製造業に対して、基本対策のうち、特に下記の事項 を重点的に実施することとするので、関係事業場等に対する的確な指導等に遺漏なきを期されたい。 なお、平成23年の職場での熱中症による死亡災害の発生状況について、別紙1のとおり取りまとめたの で、業務の参考とされたい。 おって、関係団体に対しては別添のとおり要請を行ったので、了知されたい。
1 建設業等での熱中症予防対策について (1) 建設業等での熱中症発生状況等 建設業等は、業態として、炎天下の高温多湿作業場所で作業することが避けられず、WBGT値(暑さ 指数)の低減対策が困難であることが多い。 また、平成23年の死亡災害においては、WBGT値を測定していなかった割合が約9割、熱への順化期 間(熱に慣れ環境に適応する期間)が設定されていなかった割合が約7割、自覚症状にかかわらず水分 及び塩分の定期的な摂取を指導していなかった割合が約8割、休憩場所が整備されていなかった割合 が約7割、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛法」という。)に基づく健康診断の実施 が適切に行われていなかった割合が約6割となっている。また、熱中症の症状が出始めているのに作 業を続け重症化したり、単独作業のため倒れた後に迅速に処理がされず死亡した事例がみられること から、建設業等での熱中症予防対策については、次の(2)を重点事項として、(3)のその他の具体的な 実施事項と併せて取り組むこと。 (2) 建設業等での熱中症予防対策の重点事項 建設業等では、次の4項目を重点事項として、熱中症予防対策に取り組むこと。 ア 事前にWBGT予報値、熱中症情報等を確認し、作業中に身体作業強度に応じたWBGT基準値(解説1 参照)を超えることが予想される場合には、直射日光や照り返しを遮る簡易な屋根の設置やスポッ トクーラー又は大型扇風機を使用し、単独作業を行わないようにするとともに、連続作業時間を 短縮し、長目の休憩時間を設ける等の作業時間の見直しを行うこと。 作業時間については、特に、7、8月の14時から17時の炎天下等でWBGT値が基準を大幅に超える 場合には、原則作業を行わないこととすることも含めて見直しを図ること。 イ 作業者が睡眠不足、体調不良、前日に飲酒、朝食が未摂取、感冒等による発熱、下痢等による 脱水等の場合、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることから、作業者に対して日常の健康 管理について指導するほか、朝礼の際にその状態が顕著にみられる作業者については、作業場所 の変更や作業転換等を行うこと。 ウ 水分及び塩分の摂取確認表を作成する、朝礼等の際に注意喚起を行う、頻繁に巡視を行い確認 する等により、作業者に、自覚症状の有無に関わらず水分及び塩分(解説2参照)を定期的に摂取 させること。 エ 高温多湿作業場所で初めて作業する作業者については、熱への順化期間を設ける等配慮するこ と。熱への順化期間については、7日以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くすることを目安 とすること。 (3) 建設業等でのその他の具体的な実施事項 ア 作業環境管理 作業場所又はその近傍に、臥床することができる冷房を備えた休憩所、又は日陰等の涼しい 休憩場所を確保し、水分及び塩分の補給を定期的かつ容易に行うことができるよう、また、冷 たいおしぼり、水風呂、シャワー等体を適度に冷やすことのできるよう物品及び設備を設ける こと。 イ 作業管理 (ア) 作業中は、作業者の様子に異常がないかを確認するため、管理・監督者が頻繁に巡視を行 うほか、複数の作業者がいる場合には、作業者同士で声を掛け合う等、相互の健康状態に留 意させること。 (イ) 透湿性・通気性の良い服装(クールジャケット、クールスーツ等)を着用させること。また、 直射日光下では通気性の良い帽子やヘルメット(クールヘルメット等)を着用させるほか、後 部に日避けのたれ布を取り付けて輻射熱を遮ること。 ウ 健康管理 (ア) 安衛法第66条の4及び第66条の5に基づき、健康診断で異常所見があると診断された場合に は、医師等の意見を聴き、必要に応じて、作業場所の変更や作業転換等を行うこと。 (イ) 作業者が糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全、精神・神経関係の疾患、広範囲の皮膚疾患 等の疾患を有する場合、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることから、作業の可否や 作業時の留意事項等について、産業医・主治医の意見を聴き、必要に応じて、作業場所の変 更や作業転換等を行うこと。 エ 労働衛生教育 作業を管理する者や作業者に対して、特に次の点を重点とした労働衛生教育を繰り返し行う こと。また、当該教育内容の実践について、日々の注意喚起を図ること。 ・ 自覚症状に関わらず水分及び塩分を摂取すること ・ 日常の健康管理 ・ 熱中症が疑われる症状 ・ 緊急時の救急処置及び連絡方法 2 製造業での熱中症予防対策について (1) 製造業での熱中症発生状況等 製造業は、工場等屋内作業場での作業が多く、輻射にさらされることは少ないと考えられるが、 今夏も節電の影響により、WBGT値の低減対策が困難となる場合があることが予想される。 また、過去の製造業の死亡災害をみると、水分・塩分を摂取させていないこと、この点に関す る教育が必要であることを踏まえ、製造業での熱中症予防対策については、次の(2)を重点事項と して、(3)のその他の具体的な実施事項と併せて取り組むこと。 (2) 製造業での熱中症予防対策の重点事項 次の2項目を重点事項として、熱中症予防対策に取り組むこと。 ア 事前にWBGT予報値、熱中症情報等を確認し、作業中に身体作業強度に応じたWBGT基準値(解説1 参照)を超えることが予想される場合には、作業計画の見直し等を行うこと。 イ 水分及び塩分の摂取確認表を作成する、朝礼等の際に注意喚起を行う、頻繁に巡視を行い確認 する等により、作業者に、自覚症状の有無に関わらず水分及び塩分(解説2参照)を定期的に摂取 させること。 (3) 製造業でのその他の具体的な実施事項 ア 作業環境管理 (ア) 熱源がある場合には熱を遮る遮蔽物の設置、スポットクーラー又は大型扇風機の使用等、 作業場所のWBGT値の低減化を図ること。 (イ) 作業場所又はその近傍に、臥床することができる風通しの良い等の涼しい休憩場所を確保 すること。 イ 作業管理 (ア) 休憩時間をこまめに設けて連続作業時間を短縮するほか、WBGT値が最も高くなり、熱中症 の発症が多くなり始める14時から16時に長目の休憩時間を設ける等、作業者が高温多湿環境 から受ける負担を軽減すること (イ) 高温多湿作業場所で初めて作業する作業者については、順化期間を設ける等配慮すること。 (ウ) 透湿性・通気性の良い服装(クールジャケット、クールスーツ等)を着用させること。 (エ) 作業中は、作業者の様子に異常がないかどうかを確認するため、管理・監督者が頻繁に巡 視を行うほか、複数の作業者がいる場合には、作業者同士で声を掛け合う等、相互の健康状 態に留意させること。 ウ 健康管理 (ア) 安衛法第66条の4及び第66条の5に基づき、健康診断で異常所見があると診断された場合に は、医師等の意見を聴き、必要に応じて、作業場所の変更や作業転換等を行うこと。 (イ) 作業者が糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全、精神・神経関係の疾患、広範囲の皮膚疾患 等の疾患を有する場合、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることから、作業の可否や 作業時の留意事項等について、産業医・主治医の意見を聴き、必要に応じて、作業場所の変 更や作業転換等を行うこと。 (ウ) 作業者が睡眠不足、体調不良、前日の飲酒、朝食の未摂取、発熱、下痢等の場合、熱中症 の発症に影響を与えるおそれがあることから、作業者に対して日常の健康管理について指導 するほか、その状態が顕著にみられる作業者については、作業場所の変更や作業転換等を検 討すること。 エ 労働衛生教育 作業を管理する者や作業者に対して、特に次の点を重点とした労働衛生教育を繰り返し行う こと。また、当該教育内容の実践について、日々の注意喚起を図ること。 ・ 自覚症状に関わらず水分及び塩分を摂取すること ・ 日常の健康管理 ・ 熱中症が疑われる症状 ・ 緊急時の救急処置及び連絡方法 3 初夏での対応について (1) 初夏での発生状況について 近年の傾向として、7〜8月のみならず、6月にも死亡災害が発生しており、特に平成23年の死亡 災害のうち、約3割が6月下旬に発生している。 (2) 初夏での重点事項 ア 初夏では、熱への順化が十分行われていないこと及び労働者への労働衛生教育が不十分である ことが考えられることから、基本対策を早期に実施すること。特に労働衛生教育のうち、熱中症 が疑われる症状及び熱中症の予防方法については、早期に実施することで労働者の自覚症状が乏 しいことによる重症化を防止すること。 イ 初夏においては、気候の都合により気温の変動が激しく、熱への順化が十分でないことが考え られることから、作業中は、WBGT値を逐次計測するとともに、現にWBGT基準値を超えた場合には、 作業計画の変更等により、連続作業時間が長くならないよう努めること。 ウ 直射日光が当たる屋外の事業場については、太陽照射を避けるため通気性の良い帽子やヘルメ ットを着用させることが望ましいが、梅雨期間中の晴れ間等準備が不十分である場合には、タオ ルを巻く等代替措置を講じること。 (解説) 本解説は、職場での熱中症予防対策を推進する上での留意事項を解説したものである。 1 WBGT値について (1) 環境省において、平成24年6月1日から9月30日までの間、次のウェブサイト上にてWBGT値の予測値 や実況値等について掲載することとしているので、これらの予測値・実況値等を活用すること。 PCサイト:http://www.nies.go.jp/health/HeatStroke/index.html 携帯サイト:http://www.nies.go.jp/health/HeatStroke/kt/index.html また、気象庁において、毎週金曜日に1か月予報が、毎月25日頃に翌月以降の3か月予報が発表され るので逐次活用すること。 PCサイト:http://www.jma.go.jp/jp/longfcst/ WBGT値が測定されていない場合には、別紙2の「WBGT値と気温、相対湿度との関係」(日本生気象学 会「日常生活における熱中症予防指針」Ver.1 2008.4)が参考になること。 (2) WBGT基準値については、別紙3によること。 2 作業中での定期的な水分及び塩分の摂取については、身体作業強度等に応じて必要な摂取量等は異な るが、作業場所のWBGT値がWBGT基準値を超える場合には、少なくとも、0.1%〜0.2%の食塩水、ナトリ ウム40〜80mg/100mlのスポーツドリンク又は経口補水液等を、20〜30分ごとにカップ1〜2杯程度を摂取 することが望ましいこと。 3 平成23年東北地方太平洋沖地震の際に原子力災害が発生した東京電力福島第一原子力発電所において、 緊急作業に従事していた労働者の熱中症対策として、7、8月の14時から17時の炎天下での作業について、 事故収束に向けた工程に配慮しつつ原則として作業を行わないことを含めて実施した。 その結果、熱中症(疑いを含む)は約40件発生したものの、重症者・死亡者は発生しなかった。これに ついては本年も同様の対策を行うこととなったので参考にされたい。 PCサイト:http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001f4ob.html別紙1(PDF:385KB)