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改正履歴
爆発火災による労働災害の防止については、かねてからその徹底を図ってきたところであるが、本年7
月3日日新製鋼(株)呉製鉄所において、熱風炉燃料ガス管内で爆発が起こり、燃料ガスが大量漏えいし、
同ガスに含まれる一酸化炭素により死亡者4名を含む計34名の労働者が被災するという重大災害が発生し
たところである。
当局では、本件災害を重大視し、特別調査団を設置し、災害原因の究明と再発防止対策の検討を行って
きたところであるが、今般、この調査結果がまとまり(別添参照)、同種災害の再発防止対策の徹底を図
るため、別紙により(社)日本鉄鋼連盟に対し要請を行ったところである。
ついては、貴局においても、関係事業者に対して本要請の趣旨を徹底し労働災害防止対策の一層の推進
を図られたい。
別添
日新製鋼(株)呉製鉄所重大災害に関する調査結果(概要)
1. 調査の経緯
本年7月3日午前1時35分頃、日新製鋼(株)呉製鉄所(広島県呉市昭和町11番1号 労働者数2,364
人)において、同所第2高炉熱風炉燃料ガス管内で爆発が起こり、燃料ガスが大量漏えいしたため同ガ
スに含まれていた一酸化炭素の中毒により死亡者4名を含む計34名の労働者が被災するという重大災害
が発生した。(災害の概要は別紙1。)
労働省では本件災害を重大視し、原因究明と同種災害の再発防止対策を検討するため特別調査団(団
長、平野敏右 東京大学工学部教授)を設置し、現地調査を含め検討を行ってきた。(調査団の概要は
別紙2。)
2. 検討結果の概要
(1) 調査検討の要点
イ 災害発生原因
(イ) 爆発が発生した場所及び爆発したガス
(ロ) 爆発性混合気の形成
(ハ) 着火源
ロ 被害の拡大をもたらした要因
ハ 再発防止対策
(2) 災害発生原因
イ 災害発生後の現場検証等から、次の事実が確認された。
(イ) 熱風炉(施設等の概要は別紙3。)の燃料ガス本管及び支管流路にある弁等が次のように
(図1)損傷を受けており、これらの結果から、爆発は、燃料ガス本管の圧力調節弁、各熱風
炉燃料ガス支管のガス流調節弁及び閉止板で囲まれた空間内(約366m3)において発生したと
推定された。
(ロ) 熱風炉で扱うガスのうち爆発の危険性を有するものは、燃料ガス(高炉ガスと転炉ガスの混
合ガス。成分の概要は別紙4。)と燃焼補助用及びパイロットバーナー用のLPGである。
このうちLPGについては、災害発生時に大量のLPGが流れたことが熱風炉の運転チャー
トに記録されていたため、当初は、爆発原因がこのLPGによるものと疑われたが、調査の結
果、LPGを燃料ガス管へ供給する流路にあるLPG遮断弁は閉じられており、LPGは燃料
ガス管へは流れていなかったことが判明した。また、LPGの大流量が記録されたのは、LP
Gの遮断弁手前のLPG流量検出用オリフィスの差圧導管が爆発時の衝撃により折損し、LP
Gが大気へ放出されたためと判明した。
従って、爆発の原因となった可燃性ガスは燃料ガスと推定された。図2
(ハ) 燃料ガス支管内の水分等を抜くためのドレン管が、燃焼炉と燃料ガス支管との間をバイパス
する構造となっていた。また、この時の運転操作ではドレン抜きON−OFF弁は「閉」とな
っていたが、事故後の調査の際、「閉」の状態で弁が完全に閉じておらず弁体と弁シートのす
きま(約1.9mm)から空気が漏えいすることが確認された。弁のすきまは弁の摩耗による作動
不良と推定される。
災害発生前の第7号熱風炉は、0.4〜0.85kg/cm2の圧力で約9時間13分(高炉の立上げ時の
操業のため、通常運転時は約1時間)にわたって送風を行っており、燃料ガスの圧力が 0.05〜
0.055kg/cm2であることから、差圧により熱風炉内にある送風用空気がドレン管を介して燃料
ガス管内に流入、燃料ガスと混合し、その結果、爆発性混合気を形成していたものと推定される。
図3
(ニ) 着火源については、燃料ガス管付近には火源となるようなものはなく、燃焼炉内のセラミッ
クバーナーの赤熱部が火源であると推定された。
ロ 以上の事実等から災害発生原因は次のとおりと推定された。
(イ) 第7号熱風炉の送風中に、燃焼炉側からドレン管を介して燃料ガス支管及び本管側へ送風用
空気が漏れ流入し、同管内において燃料ガスと空気が混合、爆発性混合気を形成した。
(ロ) 第7号熱風炉を送風から燃焼へ切り替える際、バーナーG弁及びガス遮断弁が「開」、ガス
流調弁がわずかに「開」となった時に、この混合気が燃焼炉に入りセラミックバーナーの赤熱
部で着火、これがガス管内を逆火、ガス流調弁のすきまからほぼ閉囲空間となっている同管内
に入り爆発した。
(ハ) この爆発で発生した圧力により、燃料ガス本管終端の閉止板が、ボルトの破断により脱落し、
燃料ガスが同開口部から大量漏えい、同ガスに含まれていた一酸化炭素の中毒により周辺にい
た労働者が被災した。
(3) 被害の拡大をもたらした要因
本災害では、死亡者4名を含む計34名という多数の労働者が被災したものであるが、この背景に
は被害を大きくさせた以下の要因があった。
イ 災害発生当日は、第2高炉の火入れからの立上げの段階の操業であったため、監視体制の強化、
出銑作業等の作業増等から同高炉付近には協力会社の労働者も含め通常より多い約100名が作業に
従事していた。(通常運転時は約40名。)
ロ 爆発発生後における燃料ガス遮断の措置が遅れ、燃料ガスの大量漏えいにつながった。
燃料ガスの遮断は、高炉ガス本管及び転炉ガス管にある水封弁の操作により行うが、高炉ガス本
管の水封弁は計器室から離れた位置にあるため、関係者の証言によれば操作にかかるまで約10分、
水封が完了するまで約20分を要した。さらに、転炉ガス管の水封弁の操作はこの後に行われ、なお
約10分を要した。この間の作業時間を含めると約50分間ガスが流出したことになる。
ハ ガス漏えい後の漏えい箇所の特定が遅れ、避難、救助等の対応が不十分であった。
また、呼吸用保護具の備付けの数が、作業者数に比べ少なかった。
ニ 脱落した閉止板の取付け位置が、第2高炉の真向かいにあたる場所であったため、漏えいしたガ
スが炉前にいた作業者を直撃した。死亡したのはこれらの作業者であった。
(4) 再発防止対策
本災害は、直接的には第2高炉第7号熱風炉に付設されたドレン抜きON−OFF弁の作動不良
を原因とするものであるが、熱風炉そのものが、高炉ガス等の燃料ガスと空気を扱うことの危険性
と当該ガスに含まれる一酸化炭素による有害性の両方を本来的に内在する施設であることに十分留
意して、今後の安全衛生管理に万全を期す必要がある。
また、本災害は、高炉の立上り時という通常と異なる操業下で発生しており、これが災害の発生
と被害の拡大の大きな要因となっている。こうした非定常の操業においては、安全衛生管理体制の
強化、作業の標準化、施設の点検・整備等その操業形態に応じた安全管理を、通常にも増して徹底
しなければならない。
災害原因等の調査検討を通じて明らかとなった問題点はこれまで述べてきたとおりであるが、今
後、この種の災害の再発防止を図るためには次の対策を講じる必要がある。
イ 設備関係
高炉ガス等の燃料ガスと送風等に用いる空気との混合の可能性を排除すること。具体的には次に
よること。
(イ) 熱風炉燃料ガス管に付設するドレン管は各々独立のものとし、空気が漏れた場合においても
燃料ガスと混合しない構造とすること。また、ドレン弁は定期に異常の有無を点検し、整備で
きるものとすること。
(ロ) 燃料ガス管に付設するバーナーG弁及びガス遮断弁は、閉止時における気密性を確保し、こ
れを継続して維持すること。
(ハ) 燃料ガス管内の酸素濃度を常時監視できるようにすること。
(ニ) 燃料ガス管の閉止板等燃料ガスが漏えいするおそれのある部分は、燃料ガスの圧力に対して
十分な強度と気密性を確保し、燃料ガスが漏えいした場合に早期に漏えいの有無を確認できる
ものとすること。
ロ 作業規程関係
(イ) 手動運転及び半自動運転時の運転・操作に係る作業規程を整備すること。
(ロ) 燃料ガス管内の酸素濃度及び一酸化炭素を含有するガスの漏えいの有無については、総合計
器室等において集中監視できるようにし、これらの異常時の運転・操作に係る作業規程を整備
すること。
(ハ) 緊急時における対処基準を明確にすること。特に、燃料ガスの緊急時の遮断は総合計器室等
において遠隔操作できること等早期に対応できるものとすること。
ハ 安全衛生管理体制
(イ) 高炉の立上がり時等非定常の操業時における安全衛生管理体制異常時及び緊急時の指示連絡
体制を強化すること。
(ロ) 設備の点検・整備基準を明確にするとともに、実施体制を整備すること。
(ハ) 協力会社を含めた総合的な安全衛生管理体制を一層強化すること。
ニ その他
(イ) 関係労働者に対して一酸化炭素中毒の予防等に関する安全衛生教育を徹底すること。
(ロ) 一酸化炭素に対して有効な呼吸用保護具を、緊急時に作業者が使用できるよう必要数を常時
現場に備え付けるとともに、常時有効かつ清潔に保持すること。
(ハ) 緊急時に対応した関係者の避難訓練を励行すること。また、救護組織を整備すること。
別紙2
「日新製鋼(株)呉製鉄所重大災害特別調査団」の構成と検討経過
1.構 成
団長 平野 敏右 東京大学工学部 教授
団長 田村 昌三 東京大学工学部 助教授
〃 林 年宏 労働省 産業安全研究所 主任研究官
〃 松井 英憲 労働省 産業安全研究所 主任研究官
〃 橘内 良雄 労働省 産業安全研究所 主任研究官
〃 桑原 幸夫 広島労働基準局 地方産業安全専門官
2.検討経過
昭和63年 7月8日 特別調査団の設置
7月12日 現地調査及び第1回検討会
7月21日 第2回検討会
9月16日 第3回検討会
9月28日 関係者からのヒアリング
10月12日 第4回検討会(最終)
別紙3
第2高炉関係熱風炉の施設等の概要
1.構 造
(1) 熱風炉は、鉄鋼石の還元・溶融に際して、コークス等の燃料比を減少させ、高炉を安定して操業
するための施設で、送風機から送り込まれた空気を高温(約1,200℃)に加熱し、高炉の羽口を通
して高炉内に熱風を送風するとともに、空気を高温に加熱するため、高炉ガス等の燃料ガスを用い
て燃焼、蓄熱する施設である。
(2) 熱風炉は、燃焼炉、蓄熱炉及びミキシングチャンバーを主要構成部分とし、それらに燃料ガス、
送風用空気、燃料用空気及び燃料補助用LPGを送る配管等から構成されている。各部の構造の概
要は次のとおりである。
イ 燃焼炉
燃焼時に、燃料ガスを燃焼させる部屋。
炉内下部に、燃焼ガスと燃焼用空気を混合し燃焼するバーナーを有している。このバーナーは、
セラミックバーナーと呼ばれ、燃料ガスと燃焼用空気を各々別配管により導入し、レンガでそれぞ
れ別々に仕切られたノズル内を上昇させ、バーナーポートを出たところでガスと空気が混合、高温
部のレンガと接触し燃焼する構造となっている。
また、炉内温度が低い場合等には、燃焼を補助するLPGを燃料とするパイロットバーナーが設
置されている。
ロ 蓄熱炉
燃焼時の熱を効率よく蓄熱し、送風時には高炉に送る風に熱を伝える部屋。
効率よく熱交換が行われるようチェッカーレンガと称されるレンガが炉内にハチの巣状に積まれ
ている。
2.操 業
(1) 熱風炉の操業は、通常は、
[1]「燃焼」(1時間45分)→[2]「炉替え」(休止)(15分)→[3]「送風」(1時間) →[4]([2]
に同じ) →[1]
を標準的なサイクルとして運転している。
イ 「燃焼」では、高炉ガスと転炉ガスを混合した燃焼ガスを高炉及び転炉側から燃料ガス本管・
支管を通じて燃焼炉に送り、燃焼炉において燃焼用空気と混合・燃焼し、燃焼ガスの熱を蓄熱炉
に伝える。排ガスは煙道から排出される。
ロ 「送風」では、送風用空気が送風機から送風され、燃料ガスとは別の配管により送風本管及び
支管を経て蓄熱炉へ送られ加熱される。加熱された空気は、さらに燃焼炉を経てミキシングチャ
ンバーに送られ、冷風との混合により温度制御され熱風炉本管を通して高炉に送風される。
ハ 「炉替え」は燃焼から送風、送風から燃焼へ切り替えるための、一時的な炉の休止状態をいう。
(2) 第2高炉には、3基の熱風炉(第5、第6及び第7号)が設置されており、この3基が交互に高
炉に熱風を送っている。3基でみると常時1基送風、2基燃焼の状態にある。災害が発生したのは、
熱風炉の燃料ガス本管内である。
(3) これらの運転は、総合計器室において、通常は自動モードで行われている。
(図) 5-7号燃焼炉の時系列運転パターン(標準パターン)
(図) 第2高炉と熱風炉の模式的関係
(図) 熱風炉各部の名称
別紙4 燃料ガス等の成分
別紙5
高炉熱風炉の爆発防止対策の徹底について
社団法人 日本鉄鋼連盟
会 長 武 田 豊 殿
昭63.10.19 基発第677号
労働災害の防止については、平素よりその徹底について、御尽力いただき御礼申し上げます。
さて、既にご承知のとおり、本年7月3日、日新製鋼(株)呉製鉄所において、熱風炉燃料ガス管内にお
ける爆発により、一酸化炭素を含む同燃料ガスが大量漏えいし、死亡者4名を含む合計34名の労働者が一
酸化炭素中毒により被災するという重大災害が発生しました。
労働省では、本件災害の重大性を鑑み、特別調査団(団長、平野敏右 東京大学工学部教授)を設置し、
現地調査をはじめとして災害原因の究明と同種災害の再発防止対策を検討してまいりましたが、今般、こ
の調査結果を別添のとおりまとめたところであります。
つきましては、貴連盟におかれましては、下記の点に留意のうえ、各事業場の実態に応じた適切な防止
対策を講ずるよう傘下の事業者に対し周知指導方、徹底されたく要請致します。
記
1.設備の安全化
(1) 熱風炉の燃料ガス管の弁類は、閉止時における気密性を確保するとともに、同管に付設するドレ
ン管は各々独立のものとし、空気が漏れた場合においても燃料ガスと混合しない構造とすること等
燃料ガスと空気の混合の可能性を排除すること。
また、これらの弁類は定期に異常の有無を点検し、整備できるものとすること。
(2) 燃料ガス管の閉止板等燃料ガスが漏えいするおそれのある部分は、燃料ガスの圧力に対して十分
な強度と気密性を確保し、燃料ガスが漏えいした場合に早期に漏えいの有無を確認できるものとす
ること。
(3) 燃料ガス管内の酸素濃度を常時監視できるようにすること。
2.作業規程の整備
(1) 手動運転時及び半自動運転時の運転・操作に係る作業規程を整備すること。
(2) 燃料ガス管内の酸素濃度及び一酸化炭素を含有するガスの漏えいの有無については、総合計器室
等において集中監視できるようにし、これら異常時の運転・操作に係る作業規程を整備すること。
(3) 緊急時における対処基準を明確にすること。特に、燃料ガスの緊急時の遮断は総合計器室等にお
いて遠隔操作できること等早期に対応できるものとすること。
3.安全衛生管理体制の充実
(1) 非定常の操業時における安全衛生管理体制、異常時及び緊急時の指示連絡体制を強化すること。
(2) 設備の点検、整備基準を明確にするとともに、実施体制を整備すること。
(3) 協力会社を含めた総合的な安全衛生管理体制を一層強化すること。
4.その他
(1) 関係労働者に対して一酸化炭素中毒の予防等に関する安全衛生教育を徹底すること。
(2) 一酸化炭素に対して有効な呼吸用保護具を、緊急時に作業者が使用できるよう必要数を常時現場
に備え付けるとともに、常時有効かつ清潔に保持すること。
(3) 緊急時に対応した関係者の避難訓練を励行すること。また、救護組織を整備すること。