安全衛生情報センター
【事例1:複数の出来事が関連して生じている場合】 Aさんは、発病前6か月以前に新製品開発・製造・納品の事務局として中心的な役割を担当することとな り、発病まで引き続きこの業務に従事した。納期が短く取引先から厳しい対応が求められる中、上司とは 十分な意思疎通ができず適切な支援・協力がない困難な状況で、他部署との連携を図りつつ開発及び継続 的な納品を行っており、労働時間についても、発病前6か月間は毎月60〜75時間程度の時間外労働が生じ ていた。このことは、「新規事業や、大型プロジェクト(情報システム構築等を含む)などの担当になった」 に該当し、心理的負荷の強度は「中」と評価した。 このような状況の中で、発病約2か月前に、当該新製品に納品規格に適合しないものが生じた。この結 果、納期に間に合わない事態となった上、当該製品は廃棄処分となり、多額の損失が生じた。Aさんは上 司から叱責され、また、期限に追われる中で原因解明、製造工法の見直しをし、再度の製造・納品を行っ た。このことは、「多額の損失を発生させるなど仕事上のミスをした」に該当し、心理的負荷の強度は 「中」と評価した。 これらの出来事は、新製品開発・製造の主担当になったことを契機として生じているものであり、関連 する出来事であって、全体として新規事業の困難性が高く、かつ、その事案の成否に重大な責任のある立 場に就き当該業務に当たったものとして、全体の総合的な評価は「強」とした。 【事例2:複数の出来事が関連せずに生じている場合】 Bさんは、製造会社の材料供給・品質管理責任者であったが、自社製品の大部分に使われる材料を製造 している海外の外注先で異物混入事故が発生し、50億円程度の機会損失回避のため、代替品の手配、外注 先との交渉、材料製造手順の確認、現地での監査など、事態を収束するまで発病前3か月から発病時期に かけて、約3か月間対応した。このことは、「会社で起きた事故、事件について、責任を問われた」に該 当し、心理的負荷の強度は「中」と評価した。 また、Bさんは、発病の6か月前から別の材料外注先の工場移転に伴う諸手続を実施していたが、移転先 でトラブルが生じるなどして移転が遅れ、発病のおおむね3か月前には当該遅れのため自社工場の製造の 一部が滞ることとなった。このため、他の外注先から材料の在庫の保存について苦情・要求を受け、対応 に苦慮していた。在庫の引き取り、保管場所の確保等を求める要求内容自体は妥当なものであったが、温 度等の保存条件や保存期間に制限があること等から切迫した強い要求で、その実現は容易ではなかった。 これについて、外部倉庫の確保や在庫の一部廃棄等の対応を、その費用負担等について対立する社内意見 の板挟みになりつつ調整し、移転が完了する発病時期まで継続して対応した。このことは、「顧客や取引 先から対応が困難な注文や要求等を受けた」に該当し、心理的負荷の強度は「中」と評価した。 これらの出来事は、それぞれ関連せずに生じているところ、互いに近接、重層的に、かつ発病とも近接 して生じており、その内容、程度及び発病に至るまでの経緯等を踏まえ、全体の総合的な評価は「強」と した。