安全衛生情報センター
認定基準別表1に基づく心理的負荷の強度の判断に当たっての留意事項及び旧認定基準からの改正の趣 旨は、次のとおりである。 なお、心理的負荷の強度の評価に当たっては、複数の出来事も含めて、心理的負荷の全体を総合的に評 価することが適切であり、出来事及び出来事後の状況の評価を行う際には、各具体的出来事において示さ れた心理的負荷の総合評価の視点を踏まえてそれぞれ検討し、評価することが必要であるが、これは同一 の状況について二重に評価する趣旨ではないことはこれまでと同様である。 1 特別な出来事 旧認定基準における特別な出来事と同旨であり、特別な出来事に該当しない場合にはそれぞれの関連 項目により評価する。 なお、極度の長時間労働について、旧認定基準において記載されていた「休憩時間は少ないが手待ち 時間が多い場合等、労働密度が特に低い場合を除く」との記載が削除されているが、長時間労働等の心 理的負荷の評価に共通する事項として認定基準第4の2(2)オに同旨が記載されており、趣旨を変更する ものではない。 2 特別な出来事以外 (1) 総合評価の留意事項 旧認定基準における「出来事後の状況の評価に共通の視点」として示されていた事項と一部共通す るものであるが、心理的負荷の総合評価の視点を明確化する観点から、改めて整理され、示されたも のである。本項目に示されている内容は、出来事後の状況の評価に限らず、出来事それ自体の評価に 当たっても留意する。また、著しいもののみを評価する趣旨ではない。 あわせて、出来事それ自体と、当該出来事の継続性や事後対応の状況、職場環境の変化などの出来 事後の状況の双方を十分に検討し、出来事に伴って発生したと認められる状況や、当該出来事が生じ るに至った経緯等も含めて総合的に考慮して、心理的負荷の程度を判断する。 (2) 具体的出来事 ア 項目1「業務により重度の病気やケガをした」等 旧認定基準の項目(以下「旧項目」という。)1「(重度の)病気やケガをした」と同旨である。入 院期間の短期化等の社会情勢の変化等を踏まえ「強」の具体例が一部修正されており、入院期間が 2か月に満たない場合でも、医学意見により長期間の入院と判断する場合もあることが示されたも のである。 また、旧項目1は、「重度の」病気等を前提に平均的な心理的負荷を「V」としつつ、重度とは いえない病気やケガの場合にも本項目に当てはめる趣旨で括弧書きがなされていたが、他の具体的 出来事の表記との整合性、分かりやすさ等の観点から、括弧が削除された。このことは、項目11 「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」及び項目23「同僚等から、暴行又 はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」についても同様である。 イ 項目4「多額の損失を発生させるなど仕事上のミスをした」 旧項目4「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした」については、令和2年度スト レス評価に関する調査研究の結果や、決定事例において重大なミスの事案よりもこれに至らないミ スの事案が多かったこと等を踏まえ、会社の経営に影響するなどの重大なミスに至らないものが具 体的出来事として示されるとともに、平均的な心理的負荷の強度が「U」に変更された。 なお、「強」の具体例は、旧認定基準に準じたものが示されており、旧認定基準において「強」 と判断される事実関係があれば、認定基準においても、「強」と判断されるものである。 また、旧項目6「自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた」に関し、本人のミスによる損失 等について本項目で評価することに変更はなく、その旨も表記の修正により明確にされた。 ウ 項目6「業務に関連し、違法な行為や不適切な行為等を強要された」 旧項目7「業務に関連し、違法行為を強要された」と同旨であるが、違法行為に至らない不適切 な行為等を強要された場合にも本項目で評価することが明確にされた。 エ 項目7「達成困難なノルマが課された・対応した・達成できなかった」 旧項目8「達成困難なノルマが課された」及び旧項目9「ノルマが達成できなかった」が統合され た項目である。ノルマが課された時点が評価期間前であり、評価期間中に達成できなかったことが 確定していない場合であっても、評価期間において当該ノルマの達成のための対応を行っていた場 合にはその心理的負荷を評価することを明らかにする趣旨で、表記が修正された。 オ 項目8「新規事業や、大型プロジェクト(情報システム構築等を含む)などの担当になった」 旧項目10「新規事業の担当になった、会社の立て直しの担当になった」と同旨であるが、社会情 勢の変化等を踏まえて表記が修正された。 カ 項目9「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」 旧項目11「顧客や取引先から無理な注文を受けた」及び旧項目12「顧客や取引先からクレームを 受けた」が統合された項目である。本項目の「対応が困難な注文や要求等」とは、大幅な値下げ、 納期の繰り上げ等の注文や、納品物の不適合の指摘等をいう。対人関係における「著しい迷惑行為」 に該当する場合には、項目27で評価する。 キ 項目10「上司や担当者の不在等により、担当外の業務を行った・責任を負った」 旧項目13「大きな説明会や公式の場での発表を強いられた」及び旧項目14「上司が不在になるこ とにより、その代行を任された」が統合され、あわせて、表記がより一般化され、発表や上司の代 行以外にも担当外の業務・責任を担うことになったことの心理的負荷を評価する項目とされた。 なお、旧項目13「大きな説明会や公式の場での発表を強いられた」について、それが当該労働者 の本来の業務範囲内における業務内容の変化である場合には、項目11で評価する。 ク 項目11「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」 旧項目15「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」と同旨であるが、旧 項目6「自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた」、旧項目13「大きな説明会や公式の場での 発表を強いられた」及び旧項目26「部下が減った」についても、これらの出来事による仕事内容・ 仕事量の変化については本項目として評価することが適切であるとして統合された。 また、心理的負荷の総合評価の視点において、勤務間インターバルの状況等についても考慮要素 となることが明確化されており、これは、項目12、項目13及び項目15においても同様である。 ケ 項目12「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」 旧項目16「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」と同旨であり、長時間労働それ自体を 「出来事」とみなして評価するものである。項目12では、項目11と異なり、労働時間数がそれ以前 と比べて増加している必要はない。 また、旧項目16は他の項目で評価されない場合にのみ評価する(本項目で「強」と判断される場 合を除く。)こととされていたが、より的確な評価を行うため、評価期間において1か月におおむね 80時間以上の時間外労働がみられる場合には、他の項目(項目11の仕事量の変化を除く。)で評価さ れる場合でも、この項目でも評価するよう注が修正された。 なお、「強」の具体例について、「その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであっ た」との記載が削除されているが、長時間労働等の心理的負荷の評価に共通する事項として認定基 準第4の2(2)オに同旨が記載されており、趣旨を変更するものではない。 コ 項目13「2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った」 旧項目17「2週間以上にわたって連続勤務を行った」と同旨であり、業務量が多いこと等から本 来取得できるはずの休日が取得できず、連続勤務を行ったことの心理的負荷を評価するものである。 なお、「中」及び「強」の具体例について、「手待ち時間が多い等の労働密度が特に低い場合を 除く」との記載が削除されているが、認定基準第4の2(2)オ(エ)に同旨が記載されており、趣旨を 変更するものではない。 サ 項目14「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」 社会情勢の変化等を踏まえ、業務による心理的負荷として感じられる出来事として新設された。 新興感染症の感染拡大等に伴い、危険性の高い業務に新たに従事したことの心理的負荷を評価する 項目である。 シ 項目15「勤務形態、作業速度、作業環境等の変化や不規則な勤務があった」 旧項目18「勤務形態に変化があった」及び旧項目19「仕事のペース、活動の変化があった」が統 合され、あわせて、作業環境等の変化や不規則な勤務も評価する項目とされた。 なお、旧認定基準における「出来事後の状況の評価に共通の視点」において示されていた「職場 環境の悪化。具体的には、騒音、照明、温度(暑熱・寒冷)、湿度(多湿)、換気、臭気の悪化等。」 がある場合には、本項目で評価する。 ス 項目16「退職を強要された」 旧項目20「退職を強要された」と同旨であるが、旧項目27「早期退職制度の対象となった」につ いても、退職に関わるものであり、本項目として評価することが適切であるとして統合された。 セ 項目17「転勤・配置転換等があった」 旧項目21「配置転換があった」及び旧項目22「転勤をした」が統合された項目である。出向につ いても、本項目で評価する。 ソ 項目18「複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった」 旧項目23「複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった」と同旨であるが、業務を 一人で担当することによる職場の支援の減少等の心理的負荷を評価する項目であることが明確化さ れた。複数名で担当していた業務を一人で担当することにより業務量が増加した場合には、項目11 でも評価する。 タ 項目19「雇用形態や国籍、性別等を理由に、不利益な処遇等を受けた」 旧項目24「非正規社員であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた」と同旨 であるが、処遇等の理由となった事由をより具体的に記載するとともに、「差別、不利益取扱い」 とまではいえない処遇を受けた場合についても本項目で評価する趣旨で表記が修正された。 なお、旧項目36「同僚等の昇進・昇格があり、昇進で先を越された」について、一般的には項目 28で評価するが、国籍等を理由とした不利益な処遇等に該当する場合には、本項目で評価する。 また、性的指向・性自認に関する事案を含むことが明確化されており、これは、項目22及び項目 23においても同様である。 チ 項目20「自分の昇格・昇進等の立場・地位の変更があった」 旧項目25「自分の昇格・昇進があった」と同旨であるが、表記がより一般化され、昇格・昇進以 外にも立場・地位の変更があったことの心理的負荷を評価する項目とされた。 ツ 項目21「雇用契約期間の満了が迫った」 旧項目28「非正規社員である自分の契約満了が迫った」と同旨である。 テ 項目22「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」 旧項目29「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」と同旨であ り、「パワーハラスメント」とは、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生 活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)及び「事業主が職場における優越的な関係を背景 とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省 告示第5号)」(以下「指針」という。)の定義を踏まえ、「職場において行われる優越的な関係を背 景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就 業環境が害される」ことをいうものである。 なお、「中」及び「強」の具体例については、指針において職場におけるパワーハラスメントの 代表的な言動の類型として掲げられている、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離 し、過大な要求、過小な要求及び個の侵害の6類型すべての例に拡充されている。 また、具体的出来事の当てはめを行うに当たり、「職場におけるパワーハラスメント」に該当す るか否かは、指針に基づき判断することになるが、労災補償においては、業務による出来事につい て、別表1のいずれの「具体的出来事」で評価することが適当かという観点から「具体的出来事」 への当てはめを行い、評価を適切に行うことが重要であり、「パワーハラスメント」に該当するか 否かを厳格に認定することが目的でないことに留意すること。 このため、例えば、調査の結果、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指導や指示で あるか否かが客観的な資料等によって明らかでない場合であっても、当事者等からの聴取等により 被害者の主張がより具体的で合理的である場合等には、職場におけるパワーハラスメントに該当す る事実があったと認定できる場合に当たると考えられることから、適切に評価すること。 あわせて、「職場におけるパワーハラスメント」に該当しないことが明らかであって、上司と部 下の間で、仕事をめぐる方針等において明確な対立が生じたと周囲にも客観的に認識されるような 事態や、その態様等も含めて業務上必要かつ相当な範囲内と評価される指導・叱責などが認められ る場合は、項目24で評価する。 ト 項目23「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」 旧項目30「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」と同旨であるが、顧客や 取引先、施設利用者等からの暴行等については、項目27で評価する。 ナ 項目25「同僚とのトラブルがあった」 裁判例等を踏まえ「強」の具体例が一部修正されており、大きな対立が頻繁に生じ、その後の業 務に大きな支障を来した場合が含まれることが明確化されたものである。項目26「部下とのトラブ ルがあった」についても同様である。 ニ 項目27「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」 社会情勢の変化等を踏まえ、業務による心理的負荷として感じられる出来事として新設された。 顧客や取引先、施設利用者等から、暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等の著しい迷惑行 為を受けたことの心理的負荷を評価する項目である。 ヌ 項目28「上司が替わる等、職場の人間関係に変化があった」 旧項目34「理解してくれていた人の異動があった」、旧項目35「上司が替わった」及び旧項目36 「同僚等の昇進・昇格があり、昇進で先を越された」が統合された項目である。 なお、上司が替わった、同僚等に昇進で先を越された等に伴い、上司・同僚等との関係に問題が 生じたときには、項目22〜25で評価する。 (3) 心理的負荷の総合評価の視点 具体的出来事ごとの心理的負荷の総合評価の視点について、これを明確化する観点から、当該具体 的出来事に特有の視点だけでなく、共通して考慮すべき視点等について改めて整理され、示されたも のである。 (4) 心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例 旧認定基準においては、平均的な心理的負荷の強度に対応した具体例しか示されていない具体的出 来事が多数あったが、認定基準別表1においては、明確化の観点から具体例が拡充され、項目28の 「中」及び「強」の欄を除き、すべての強度に対応した例が示されたものである。 (5) 恒常的長時間労働がある場合に「強」となる具体例 旧認定基準における「恒常的長時間労働が認められる場合の総合評価」として示されていた事項と 同旨であるが、いずれも総合評価を「強」とすることとなるため、「恒常的長時間労働がある場合に 「強」となる具体例」として示されたものである。