安全衛生情報センター
第1 目的 本ガイドラインは、切羽における異常出水やセグメントの崩壊等による労働災害の発生が懸念される シールドトンネル工事において、近年の災害事例を踏まえ、より充実した安全対策を策定するものであ り、これによりシールドトンネル工事における一層の労働災害防止を図ることを目的とする。 第2 適用範囲 本ガイドラインは、シールドトンネル工事について適用する。 第3 発注者による取組 1. 発注者は、契約書、仕様書等において、専門工事業者の意見を踏まえたリスクアセスメントを設計 者及び元請施工業者に行わせ、その結果を設計図書又は施工計画に反映させるように規定し、これ を行わせること。 2. 上記1.のリスクアセスメントの実施は、工事計画の作成段階のほか、当初の工事計画にはない新た な作業方法・機械設備を採用する場合や労働災害が発生するおそれが予見できた場合等に行うこと。 3. 発注者にシールドトンネルの専門家がいないなど、関係者の中にシールドトンネル建設工事の安全 について十分な知見がある者がいない場合、受注者が示した設計・施工方法について、中立性のあ るシールドトンネルの専門家等による安全性の確認を受けることが望ましいこと。 第4 設計者・施工者による取組 1. 適確なリスクアセスメントを踏まえた設計及び施工計画 (1) シールドトンネルを掘進する地山の地形、地層及び地質の状態が十分明らかでない場合には、掘 進箇所のボーリング調査等の実施を検討し、災害につながる要因の把握に努めるなど、リスクアセ スメントを適確に実施すること。 (2) ボーリング調査等の結果に基づきシールド工法の計画(施工計画を含む。)を定め、また、施工状 況に応じて施工計画等を見直すこと。このとき、必要に応じ設計変更について発注者と協議するこ と。 2. シールドマシン (1) シールドマシンのテールシール(シールドマシン本体の最後部に設けられるシールドマシンとセ グメントとの間の止水部材)は、高圧の地下水、土砂、裏込め材等がシールドマシン内に流入する ことを防止するため、十分な止水性が確保できる構造、段数及び材質とすること。 (2) 地盤が良好ではない状況下で、組立時に自立性が低い構造のセグメントを採用する場合は、組立 直後のセグメントリングの変形を抑制する装置等の設置について検討すること。 (3) スクリューコンベアからの噴発防止対策を講ずること。 (4) シールドトンネル内の電気設備のうち安全上重要なものについては、漏水等の可能性を考慮した 設計とすること。 3. セグメントの設計等 (1) セグメントは、シールドマシンの掘進、ジャッキ操作、セグメントの組み立て、裏込め注入材の 注入等に伴って作用する施工時荷重に対して、安定性及び各部材の安全性を有するものとすること。 また、地盤が良好でない場合には、脆性的な破壊を生じない設計とすること。 (2) セグメントの形状・寸法の決定に当たっては、構造計算のほか、類似工事のセグメントの厚さと 外径の比率、セグメント幅と厚さの比等の実績を勘案し、慎重に検討すること。 (3) セグメントの分割は、組立時にジャッキを抜いた場合のシールドマシンの姿勢に与える影響を考 慮し適切なものとすること。 (4) セグメント、セグメント継手及びリング継手は、地盤が良好ではない場合に水や土砂の流入によ って土圧バランスが崩れる等不測の事態が発生した場合にあっても、リング構造が容易に崩れない ものとすること。 (5) 鉄筋コンクリート製セグメントのセグメント継手の構造又はリング継手の構造としてインサート ボルトタイプを採用する場合は、ボルトボックス及びボルトインサートが容易に抜けることのない よう、かぶり及び配筋が適切になされるよう注意すること。 (6) Kセグメント(セグメントリングを完結するため最後に挿入するセグメント)については、条件に よっては摩擦力が低下することがあることを考慮して、滑動又は抜け出しの可能性を検討し、堅固 な継手の採用、抜け出し防止装置の設置等の必要な対策を講じること。 (7) あらかじめ十分な数のテーパーセグメント(曲線施工のためのセグメントリングを構成するセグ メント)を用意し、必要な時に迅速に対応できるよう管理すること。 (8) 止水シール材(セグメントリング間及びセグメント間の側壁に沿って貼付するゴム等)は適切な材 料及び形状を選定し、組立時に破損又は剥離しないよう留意すること。 4. テールシール用グリース テールシール用グリース(テールブラシの中とテールシール間の隙間に充填する粘性の高いシーリ ング材)の選定に当たっては、使用する裏込め材との接触による固化等の変性、非定常時の溶接によ る火災等について十分考慮すること。 5. 線形管理 (1) 発進する前の測量を適確に行うとともに、発進後もできるだけ早期に掘進方向を確認するため、 測量を行うこと。また、測量は定期的に行うとともに、変動が想定されるため一定時間経過後改め て測定すること。 (2) 掘進管理システムを導入し、リアルタイムでシールドマシンの姿勢、方向等に係るデータを計測 すること。また、適切な頻度で較正すること。 (3) (2)の計測結果とともに、測量、テールクリアランス(シールドマシンの外殻であるスキンプレー トの内側とセグメント外面との間の隙間)測定等により得られた結果を突合し、トンネルの線形管 理に適確に反映させること。この場合、得られたデータを図化するなどにより相互の関連性が容易 に判断できるようにすることが望ましいこと。 (4) 線形管理データは、工事終了後、必要に応じ発注者に提供すること。 6. 掘進管理 (1) シールドマシンによる掘進は、適正な切羽圧力を保持しながら、マシンの姿勢、方向、排土量等 を総合的に管理しながら行うこと。 (2) セグメントの組立て誤差を最小にし、セグメントリングが可能な限り真円に近づくよう組立てる こと。 (3) 掘進線が設計計画線から外れる鉛直方向及び水平方向の偏差について上限値を含めた管理基準値 を設定し、掘進中は常時モニタリングを行うこと。 (4) 掘進線が設計計画線から外れ、許容される偏差の上限値を超過した場合は、直ちに掘進計画を見 直すこと。シールドマシンを設計計画線に戻す場合には、緩やかな曲線によりこれを行うとともに、 テーパーセグメントを使用する等によりセグメントに無理な力を与えないようにすること。 (5) 蛇行修正においては、組み立てられたセグメントに過大な負荷がかからないように、オーバーカ ット(カッターヘッドに内蔵された伸縮ビットによる余掘り)等を適切に行い、必要がある場合はテ ーパーセグメントを使用すること。 (6) 掘進中のジャッキは、できるだけ多くの本数を使用することとし、セグメント組立時に引き抜く ジャッキの本数は最小限にとどめること。 (7) 掘進中は、中央管理室又はシールドマシンにおいて専任管理者が常駐し、掘進管理を行うこと。 また、元請事務所においても掘進管理データを確認できるようにすることが望ましいこと。 (8) テールシールの止水性を保持するため、テールシール用グリースの補充を適切に行うこと。また、 注入は、注入量、注入圧及び注入時期に留意して行い、その記録を残すこと。 (9) テールクリアランスを適切に保持すること。 (10) 裏込め材の注入は、セグメントがテール部を出た後、できるだけ早期に実施すること。また、 注入圧力、注入量、地表面の変状等のモニタリングを行い、適切に管理すること。 (11) 掘進管理データは、工事終了後、必要に応じ発注者に提供すること。 (12) ビデオ撮影を行う場合は、映像を一定期間保存すること。 7.セグメントの組立 (1) セグメントは割れ、欠け等が生じないように取り扱うこと。 (2) ジャッキの押し出し、引き抜きの手順は、セグメントの安定性の維持に留意して定めること。特 にKセグメントの挿入時のジャッキ操作について十分に留意すること。 (3) セグメントに締結力のない継手を採用する場合には、漏水等の原因となるセグメント継手やリン グ継手の目開きや目違いが生じないよう、セグメントリングの形状の保持のため必要な措置を講ず ること。 8. 掘進状況に応じた施工計画の見直し (1) 施工中は掘進線の偏差、漏水、地盤からの有害・可燃性ガスの流入、施工したセグメントの状態 等を継続的にモニタリングを行うこと。 (2) セグメントのひび割れ、継手の損傷、漏水、掘進線の蛇行等の非定常事象が断続的に発生する場 合は、施工計画を見直し、必要な措置を講ずること。 9. 避難、救護の訓練 (1) 落盤、出水、ガス爆発、火災、有害ガスの流入等の発生を想定し、掘進開始後、坑口から切羽ま での距離が100メートルに達する以前のなるべく早期かつ適切な時期に1回、その後6月以内の適切 な期間ごとに1回、避難及び消火の訓練を実施すること。 (2) 落盤、出水等による労働災害の発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、人命確 保を最優先として速やかに労働者を安全な場所まで退避させること。 (3) 労働者の救護に必要な機械等を備え付け、救護に関する技術的事項を管理する者を選任し、救護 についての訓練等を行うこと。