1. ホーム >
  2. 法令・通達(検索) >
  3. 法令・通達
別添

土石流による労働災害防止のためのガイドライン

第1 趣旨
 平成8年12月に長野県と新潟県の県境をなす蒲原沢で発生した土石流災害により、23人が死傷するとい
う重大災害が発生した。労働省では、本災害の重大性にかんがみ設置された「労働省12.6蒲原沢土石流災
害調査団」による提言を踏まえ、労働安全衛生規則の改正を行ったところである(平成10年労働省令第1号)。
 本ガイドラインは、改正労働安全衛生規則と相まって、土石流による労働災害の防止対策のより一層的
確な推進を図るため、改正労働安全衛生規則において規定された事項のほか、事業者が講ずることが望ま
しい事項及び従来の労働安全衛生関係法令において規定されている事項のうち土石流による労働災害防止
のために重要なものを一体的に示すことを目的とするものである。
 事業者は、本ガイドラインに記載された事項を的確に実施することに加え、より現場の実態に即した土
石流に対する安全対策を講ずるよう努めるものとする。

第2 適用等
 1 用語の定義
   本ガイドラインにおける用語の定義は以下のとおりである。
  (1) 土石流
    土砂又は巨れきが水を含み、一体となって流下する現象をいう。
  (2) 河川
    河道及び河岸をいう。
  (3) 24時間雨量
    ある時点の24時間前から当該時点までの降雨量をいう。
  (4) 時間雨量
    ある時点の1時間前から当該時点までの降雨量をいう。
 2 適用
   本ガイドラインは、以下のいずれかに該当する河川(以下「土石流危険河川」という。)において、
  建設工事の作業を行う場合に適用する。ただし、臨時の作業には適用しない。
  (1) 作業場所の上流側(支川を含む。以下同じ。)の流域面積が0.2Km3以上であって、上流側の0.2km
   における平均河床勾配3°以上の河川
  (2) 市町村が「土石流危険渓流」として公表している河川
  (3) 都道府県又は市町村が「崩壊土砂流出危険地区」として公表している地区内の河川

第3 事業者の実施する事項
 1 作業着手前の調査事項
   事業者は、次に掲げるところにより、作業に着手する前にあらかじめ調査を実施すること。
  (1) 地形等の調査
    事業者は、作業場所から上流の河川(支川を含む。以下同じ。)及びその周辺に関して次に掲げる
   事項を調査すること。
   イ 河川の形状、流域面積及び河床勾配
   ロ 河川の周辺における崩壊地の状況
   ハ 河川の周辺における積雪の状況
   ニ 河川及びその周辺における砂防施設、道路施設等の状況
   ホ 河川の周辺における各地方気象台の定める大雨注意報基準等
  (2) 過去の土石流の発生状況
    事業者は、必要に応じ、作業場所から上流の河川の周辺における過去の土石流の発生の有無を調
   査し、土石流の発生が認められた場合には、次に掲げる事項を調査すること。
   イ 土石流の発生原因、流下・堆積状況、推定流下速度等
   ロ 土石流発生推定時点での雨量等の状況
 2 土石流による労働災害防止のための規程の策定
   事業者は、土石流による労働災害を防止するため、あらかじめ、1の調査結果を踏まえ、次に掲げ
  る事項についての規程を定めること。
  (1) 降雨量等の把握の方法
  (2) 降雨又は融雪があった場合に講ずる措置
  (3) 地震が発生した場合に講ずる措置
  (4) 土石流の発生の前兆となる現象を把握した場合に講ずる措置
  (5) 土石流が発生した場合の警報及び避難の方法
  (6) 避難の訓練の内容及び時期
 3 降雨量等の把握の方法
   事業者は、次に掲げる事項について、それぞれその定めるところにより把握すること。
  (1) 降雨量
   イ 事業者は、降雨量が土石流の早期把握等の措置を講ずるための降雨量基準(以下「警戒降雨量
    基準」という。)に達していないことを確認するため、作業の開始又は再開の時に24時間雨量を、
    その後1時間ごとに時間雨量を雨量計による測定等適切な方法により把握すること。
   ロ 事業者は、雨量計を設置して降雨量を把握する場合には、雨量計の選択及びその設置場所の選
    定を適切に行うこと。
  (2) 気温の把握
    事業者は、積雪のあるときは、必要に応じ、温度計による測定等適切な方法により気温を把握す
   ること。
 4 降雨の場合に講ずる措置
   事業者は、降雨に関して次に掲げる事項を実施すること。
  (1) 警戒降雨量基準の設定
    事業者は、土石流の発生に備えるため、次に掲げるところにより、警戒降雨量基準を定めること。
   イ 24時間雨量に係る警戒降雨量基準を定めること。この場合、同基準は各地方気象台の定める24
    時間雨量に係る大雨注意報基準を上回ってはならないこと。
   ロ 必要に応じ、イの24時間雨量に係る警戒降雨量基準に加え、その他の降雨量に関する基準等に
    より警戒降雨量基準を定めること。
  (2) 警戒降雨量基準に達した場合に講ずる措置
    事業者は、降雨量が(1)の警戒降雨量基準に達した場合は、次のイからハのいずれかに掲げる措
   置を講ずること。
   イ 作業中止及び退避
     作業を中止し、速やかに労働者を安全な場所に退避させること。
   ロ 監視人の配置による土石流発生の検知
    (イ) 監視人の配置場所
       監視人の配置場所の選定に当たっては、以下の点に留意すること。
      a 河川の状況に応じ、支川において発生・流下してくる土石流も監視できること
      b 監視人が土石流を発見できる位置から作業場所までの距離を地質・河床勾配等に応じて
       想定される土石流の流下速度(5〜20m/s、以下同じ。)で除して得られる時間内にすべての
       労働者を避難させることができること
    (ロ) 警報用の設備の作動
       監視人が土石流を発見したときに直ちに警報用の設備を作動させることのできる措置を講
      ずること。
    (ハ) 監視人の安全確保
       監視人の安全を確保するための措置を講ずること。
   ハ 土石流検知機器による土石流発生の検知
    (イ) 検知機器の選定
       検知機器の選定に当たっては、各検知機器の種類ごとの特性、地形条件、管理・操作性等
      に十分留意すること。また、誤作動に配慮し、警報装置が作動した際に、実際に土石流が発
      生したかどうかを確認するため、監視カメラの併用等についても検討すること。
    (ロ) 検知機器の設置場所
       検知機器場所の選定に当たっては、以下の点に留意すること。
     a 河川の状況に応じ、支川において発生・流下してくる土石流を監視できること
     b 土石流を検知できる位置から作業場所までの距離を地質・河床勾配等に応じて想定される
      土石流の流下速度で除して得られる時間内にすべての労働者を避難させることができること
    (ハ) 警報用の設備の作動
       検知機器は、土石流を検知した場合に自動的に警報用の設備を作動させる機能を備えたも
      のとすること。
    (ニ) 検知機器の点検
       検知機器については、正常に作動することを確認するため、機器ごとの点検仕様等に定め
      るところにより点検を実施すること。
  (3) (2)に掲げる措置の解除の条件
    事業者は、降雨量が(1)に定める警戒降雨量基準に達した後において、(2)に掲げる措置を解除す
   る場合にあっては、次のイ及びロのいずれにも該当すること。
   イ 降雨量が(1)で定める警戒降雨量基準に達していないこと。
   ロ 降雨量が警戒降雨量基準に達してから連続12時間以上の降雨の中断があること。
 5 融雪又は地震の場合に講ずる措置
   事業者は、融雪又は地震の場合に次に掲げる事項を実施すること。
  (1) 融雪時に講ずる措置
    事業者は、作業場所から上流の河川の周辺に積雪がある場合で、積雪深、気温の変化等により融
   雪を把握した際には、その把握結果に基づき、降雨に融雪が加わることを考慮して、積雪の比重を
   積雪深の減少量に乗じて降水量に換算し降雨量に加算する等適切な措置を講ずること。
  (2) 地震を把握したときに講ずる措置
    事業者は、作業場所において中震以上の地震を把握した際には、いったん作業を中止し、土石流
   の前兆となる現象の有無を確認する等適切な措置を講ずること。
 6 土石流の発生の前兆となる現象を把握した場合に講ずる措置
   事業者は、河川の流水の急激な減少、濁りの発生等の土石流の発生の前兆となる現象を把握した際
  には、いったん作業を中止し、その現象の継続の有無を監視する等適切な措置を講ずること。
 7 警報及び避難の方法等
   事業者は、警報及び避難に関し、次に掲げる事項を実施すること。
  (1) 警報用の設備の設置等
   イ 警報用の設備の設置
     事業者は、土石流の発生による労働災害の発生の危険があることを把握した際に、これを関係
    労働者に速やかに知らせるため、サイレン、非常ベル、一斉通報の可能な放送設備、携帯用拡声
    器、回転灯等の警報用の設備を適切な場所に設置すること。
   ロ 関係労働者への周知
     事業者は、関係労働者に対して、警報用の設備の設置場所、使用方法及び警報の種類を周知さ
    せること。
   ハ 警報用の設備の有効性の保持
     事業者は、警報用の設備を常時有効に作動するように保持しておくこと。
  (2) 避難用の設備の設置等
   イ 避難場所の設定
     事業者は、土石流発生時における安全な避難場所を定め、関係労働者に周知させること。
   ロ 避難用の設備の設置
     事業者は、土石流の発生により労働災害の発生の危険があることを実際に把握した際に、労働
    者を速やかに安全な場所に避難させるために、登り桟橋、はしご等の避難用の設備を設けること。
   ハ 関係労働者への周知
     事業者は、避難用の設備の設置場所及び使用方法を関係労働者に周知させること。
   ニ 避難用の設備の有効性の保持
     事業者は、避難用の設備を常時有効に保持すること。
 8 土石流による労働災害発生の急迫した危険がある際の退避
   事業者は、土石流の発生を把握したとき、土砂崩壊により天然ダムが形成されていることを把握し
  たとき等、土石流による労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を
  安全な場所に退避させること。
 9 避難訓練の内容及び時期
   事業者は、避難訓練に関し、以下に掲げる事項を実施すること。
  (1) 避難訓練の時期及び内容
    事業者は、すべての関係労働者を対象に、次に掲げるところにより避難訓練を実施すること。
   イ 事業者は、避難訓練を工事開始後遅滞なく1回、その後6月以内ごとに1回実施すること。避難
    訓練においては、土石流が発生した際にすべての労働者が安全に避難できることを確認すること。
   ロ 事業者は、工事の進捗に伴い避難設備等の変更を行った場合には必要に応じて避難訓練を実施
    すること。
  (2) 避難訓練の結果の記録及び検討
   イ 事業者は、避難訓練を行ったときは、次に掲げる事項を記録し、これを3年間保存すること。
   (イ) 実施年月日
   (ロ) 訓練を受けた者の氏名
   (ハ) 訓練の内容
   ロ 事業者は、避難訓練の結果を検討し、土石流が発生した際に労働者を安全に避難させるため必
    要な改善を行うこと。
 10 安全衛生教育
   事業者は、次に掲げるところにより安全衛生教育を実施すること。
  (1) 施工計画を作成する者に対する教育
    事業者は、施工計画を作成する者に対し、あらかじめ、次に掲げる事項について教育を行うこと。
   イ 土石流に関する基礎知識
   ロ 事前調査結果の評価方法
   ハ 土石流による労働災害防止のための具体的手法
   ニ 監視人の配置並びに土石流検知機器、警報用の設備及び避難用の設備の種類及び設置場所の
    選定
   ホ 土石流による災害事例
  (2) 現場の安全管理を行う責任者に対する教育
    事業者は、現場の安全管理を行う責任者に対し、あらかじめ、次に掲げる事項について教育を実
   施すること。
   イ 土石流に関する基礎知識
   ロ 警戒降雨量基準の設定及び降雨量等の評価
   ハ 土石流による労働災害防止のための具体的措置
   ニ 監視人の配置並びに土石流検知機器、警報用の設備及び避難用の設備の種類及び設置場所の
    選定
   ホ 土石流による災害事例
  (3) 現場で作業を行う労働者に対する教育
    事業者は、現場で作業を行う労働者に対し、新規入場時及びその他必要な時期に次に掲げる事項
   について教育を行うこと。
   イ 土石流に関する基礎知識
   ロ 土石流による労働災害防止のための具体的措置
   ハ 警報用の設備及び避難用の設備の設置場所及び使用方法
   ニ 土石流による災害事例

第4 元方事業者等の実施する事項
 1 元方事業者の講ずる措置
   元方事業者は、以下に掲げる事項を実施すること。
  (1) 協議会等の設置
    元方事業者は、すべての関係請負人が参加する労働災害防止のための協議会等を設置し、次に掲
   げる事項を協議すること。
   イ 降雨量等の把握方法
   ロ 警戒降雨量基準の設定及びその基準に達した場合に講ずる措置
   ハ 融雪又は地震の場合に講ずる措置
   ニ 土石流の前兆となる現象を把握した場合に講ずる措置
   ホ 避難及び警報に関する事項
   ヘ 避難訓練の内容及び時期
  (2) 警報の統一
   イ 元方事業者は、土石流が発生したとき又は発生するおそれがあるときに行う警報を統一的に定
    め、これを関係請負人に周知させること。
   ロ 元方事業者及び関係請負人は、土石流が発生したとき又は発生するおそれがあるときには、イ
    で統一的に定められた警報を行うこと。
  (3) 避難訓練の統一等
   イ 元方事業者は、関係請負人が実施する避難訓練について、その実施時期及び実施方法を統一的
    に定め、これを関係請負人に周知すること。
   ロ 元方事業者及び関係請負人は、イで統一的に定められた実施時期及び実施方法により避難訓練
    を行うこと。
   ハ 元方事業者は、関係請負人が行う避難訓練に対して、必要な指導及び資料の提供等の援助を行
    うこと。
  (4) 関係請負人に対する技術上の指導等
    元方事業者は、関係請負人が講ずべき措置が適切に実施されるように、技術上の指導その他必要
   な措置を講ずること。
 2 異なる元方事業者が近接して作業を行う際に講ずる措置
   元方事業者は、土石流危険河川において、他の元方事業者と近接して作業を行う場合には、以下に
  掲げる事項を実施すること。
  (1) 複数の元方事業場が同一の土石流により被害の発生するおそれのある場所で同時に工事を施工し
   ている場合には、すべての元方事業者が参加する労働災害防止のための協議会等を設置して統一的
   な安全管理を行うこと。
    この場合、複数の発注機関が近接して工事を発注しているときにあっては、必要に応じ、発注機
   関間の協議結果を反映した統一的な安全管理を行うこと。
  (2) 各元方事業者は協議会で決定された事項を関係請負人に連絡する体制を確立すること。
  (3) 協議会等においては、以下の事項を協議すること。
   イ 降雨量等の把握方法
   ロ 警戒降雨量基準の設定及びその基準に達した場合に講ずる措置
   ハ 融雪又は地震の場合に講ずる措置
   ニ 土石流の前兆となる現象を把握した場合に講ずる措置
   ホ 避難及び警報に関する事項
   ヘ 避難訓練の内容及び時期
                                           (別紙略)