別添3 平成20年5月28日 環自総発第080528003号
環境省自然環境局長 温泉法の一部改正等について 温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害を防止することを目的として、温泉法の一部を 改正する法律(平成19年法律第121号。以下「改正法」という。)が制定され、平成20年10月1日(災害防 止措置を必要としない旨の確認に関する規定については同年8月1日)から施行されることとなった。 また、改正法の施行のため、温泉法施行令の一部を改正する政令(平成20年政令第184号。以下「改正 令」という。)及び温泉法施行規則の一部を改正する省令(平成20年環境省令第5号。以下「改正規則」 という。)が同じく平成20年10月1日(災害防止措置を必要としない旨の確認に関する規定については同 年8月1日)から施行されることとなった。 ついては、下記事項に留意の上、改正法の施行に適正を期されたく、地方自治法(昭和22年法律第67号 )第245条の4第1項の規定に基づく技術的助言として通知する。 なお、下記中「法」とあるのは改正法による改正後の温泉法(昭和23年法律第125号)を、「令」とあ るのは改正令による改正後の温泉法施行令(昭和59年政令第25号)を、「規則」とあるのは改正規則によ る改正後の温泉法施行規則(昭和23年厚生省令第35号)を指すものとする。 記 1.法目的の改正 温泉の保護及び温泉の利用の適正と並ぶ法の直接の目的として、温泉の採取等に伴い発生する可燃性 天然ガスによる災害の防止を追加することとした(法第1条)。 2.掘削等に際しての可燃性天然ガスによる災害の防止 (1)掘削の許可基準の追加 掘削の許可の申請を不許可とできる場合として、掘削のための施設の位置、構造及び設備並びに掘 削の方法が災害防止に関する技術上の基準に適合しない場合を追加することとした(法第4条第1項第 2号)。 また、許可には、可燃性天然ガスによる災害の防止上必要な条件を付し、及びこれを変更すること ができることとした(法第4条第3項)。 (2)技術上の基準の内容 掘削の許可基準のうち、環境省令で定める技術上の基準については、規則第1条の2及び改正規則附 則第2条第1項に規定しているが、運用に当たっては、特に以下の点に留意されたい。 ア.技術上の基準は標準的な安全対策の内容を定めたものであり、必要に応じ条例をもって追加的 な対策を申請者に求めることを否定するものではないこと。 (想定される追加的対策の例) ・掘削予定地周辺に学校、病院その他多数の者が出入りする施設や、石油類、火薬類、高圧ガ ス等の製造、貯蔵、処理又は取扱いを行う施設がある場合における、離隔距離の拡大等 イ.規則第1条の2第2号ロでは、火気を使用する作業が一定の範囲内において禁止されているが、 括弧書の規定に基づきやむを得ない場合の溶接又は溶断の作業が認められている。この括弧書き の規定を適用して許可を行う場合には、安全に関する担当者の指揮・立会いの下での作業の実施、 掘削口周辺への送風による空気の拡散等災害防止上必要な代替措置の実施を条件として付すこと を必要に応じ検討すべきであること。 ウ.規則第1条の2第1号に規定する「可燃性天然ガスの噴出のおそれ」の有無については、地質構 造を示す資料、周辺での過去のガスの発生状況(発生量の情報、噴出事例等)、その他調査研究 資料等から、あらかじめ地域や掘削深度について特定し、これを公表するとともに、適時・適切 に見直しを実施することが望ましいこと。 エ.規則第1条の2第1号に規定する「可燃性天然ガスの噴出のおそれ」がないとの判断の下に掘削の 許可を行った後、掘削の工事の実施中に、可燃性天然ガスの噴出又はその兆候を把握した場合に おいては、直ちに法第9条第2項の規定に基づく措置命令を行うべきであること。したがって、可 燃性天然ガスの噴出のおそれがないとの判断の下に掘削の許可を行う場合には、可燃性天然ガス の噴出又はその兆候を把握した場合には直ちに報告することを必要に応じ条件として付すことを 検討すべきであること。 オ.改正法の施行の際現に温泉井戸が存在する施設と同一の敷地内において、いわゆる代替掘削を 行う場合には、可燃性天然ガスを遮断できる壁を設置することにより、敷地境界線までの距離、 火気使用禁止等の範囲について、迂回水平距離として確保できることとしたこと(改正規則附則 第2条第1項)。 (3)掘削のための施設等の重要な変更をする場合の許可 掘削の許可を受けた者は、掘削のための施設の位置、構造及び設備並びに掘削の方法について災害 の防止上重要な変更をしようとするときは、都道府県知事の許可を受けなければならないこととした (法第7条の2第1項)。 「重要な変更」の内容は、規則第4条の2に定めるとおりである。 この許可の基準及び手続については、法第4条の掘削の許可に関する規定が準用されることとなる。 ただし、この場合、温泉のゆう出量等への影響、公益侵害及び人的欠格要件に関する基準は準用され ない(法第7条の2第2項)。 なお、「重要な変更」に該当しないと解されるものであっても、以下に掲げる変更を実施しようと するときは報告を行うことを掘削の許可の際の条件とすることについて、必要に応じ検討すべきであ る。 ・主要な設備の位置又は構造の変更 ・警報設備の位置の変更 ・掘削時災害防止規程の内容の変更 (4)工事の完了後等の措置命令 都道府県知事は、掘削工事の完了、廃止又は許可の取消しの日から2年間は、工事を完了し、若し くは廃止した者又は許可を取り消された者に対し、掘削を行ったことにより生ずる災害の防止上必要 な措置を命ずることができることとした(法第8条第3項)。 なお、「災害の防止上必要な措置」とは、掘削口から可燃性天然ガスが噴出した場合における埋戻 しの措置等が該当する。 (5)許可の取消し、措置命令をできる場合の追加 都道府県知事は、掘削のための施設等が法第4条第1項第2号の技術上の基準に適合しなくなった場 合には、掘削許可の取消し、災害の防止上必要な措置等の実施を命ずることができることとした(法 第9条)。なお、許可の条件に違反したときにおいても掘削の許可の取消し、災害の防止上必要な措 置の命令を行えることとしており、これら取消し等の事由が発生した場合には、厳正に対処するよう 留意されたい。 (6)緊急措置命令等 都道府県知事は、掘削に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止上緊急の必要があると認め るときは、掘削を行う者に対し、災害の防止上必要な措置の実施等を命ずることができることとした (法第9条の2)。 「災害の防止上緊急の必要があると認めるとき」とは、掘削口から可燃性天然ガスが噴出した場合 や、掘削工事現場の周辺で火災が発生した場合等が該当し、法第4条第1項第2号の技術上の基準に違 反しているとは限らない。したがって、「災害の防止上必要な措置」についても、技術上の基準に適 合させる措置のみならず、状況に応じて災害の防止のために必要な措置はすべて含まれる。 なお、「掘削を行う者」には、法第3条第1項の許可を受けずに掘削を行っている者も含まれる。 (7)増掘への準用 増掘については、掘削と同様に可燃性天然ガスによる災害が発生するおそれがあることから、掘削 に係る技術上の基準等について準用することとした(法第11条第2項)。ただし、改正法の施行の際現 に存在する温泉のゆう出路を増掘しようとするときに可燃性天然ガスを遮断できる壁がある場合は、 敷地境界線までの距離、火気使用禁止等の範囲について、迂回水平距離として確保できることとした (改正規則附則第2条第2項)。 なお、動力の装置については、これらを準用しないこととし、増掘に係る準用規定と書き分けるこ ととした(法第11条第3項)。 3.温泉の採取に際しての可燃性天然ガスによる災害の防止 (1)温泉の採取の許可 温泉の採取を業として行おうとする者(改正法の施行日前から引き続き行おうとする者を含む。以 下同じ。)は、都道府県知事の許可を受けなければならないこととした。ただし、可燃性天然ガスの 濃度が災害防止措置を必要としないものである旨の確認を受けた場合は、許可を受けることを要しな いこととした(法第14条の2第1項)。 なお、「温泉の採取を業として行おうとする」とは、温泉の採取を反復継続的に実施しようとする ものであり、旅館業や公衆浴場業のように公共の浴用・飲用に供しようとする目的で温泉を採取する 場合のほか、自家用利用(マンション等での共同利用を含む。)や、工業利用等の目的で温泉を採取 する場合も含むものである。 許可の基準については、環境省令で定める災害防止に関する技術上の基準のほか、基準に適合した 適切な採取が行われるよう、申請者に関する人的欠格要件を設けることとした(法第14条の2第2項)。 また、採取の許可には、可燃性天然ガスによる災害の防止上必要な条件を付し、及びこれを変更す ることができることとした(法第14条の2第3項)。 (2)技術上の基準の内容 採取の許可基準のうち、環境省令で定める技術上の基準については、規則第6条の3及び改正規則附 則第3条から第5条までに規定しているところであるが、運用に当たっては、特に以下の点に留意され たい。 ア.技術上の基準は標準的な安全対策の内容を定めたものであり、必要に応じ条例をもって追加的 な対策を申請者に求めることを否定するものではないこと。 (想定される追加的対策の例) ・可燃性天然ガスを含む温泉附随ガスが空気より重い場合(温泉に二酸化炭素が多く含まれる 地域である場合等)における、可燃性天然ガスが下方に滞留することを想定した火気使用禁 止範囲の拡大等 ・可燃性天然ガスの発生量が非常に多いと判断される場合における、火気使用禁止範囲の拡大 等 イ.技術上の基準のうち、ただし書等により適用除外となるものについては、許可の際、災害防止 上必要な代替措置の実施を条件として付すことを必要に応じ検討すべきであること。 (想定される条件の例) ・火気を使用する作業が禁止されている範囲において、実施することがやむを得ない溶接又は 溶断の作業を行う場合における、安全に関する担当者の指揮・立会いの下での作業の実施、 作業の実施中における携帯型の可燃性ガス測定器による作業場所周辺の空気中のメタンの濃 度の測定等 なお、規則第6条の3第1項第6号ロ、第3項第7号ロ及び改正規則附則第4条第2項第2号ロでは、 火気を使用する作業が一定の範囲内において禁止されているが、規則第1条の2第2号ロ括弧 書において「以下同じ」と規定されていることにより、実施することがやむを得ない溶接又 は溶断の作業が認められている。 ・規則第6条の3第2項の規定により同条第1項に掲げる技術上の基準を適用しないこととした場 合における、火気使用禁止の掲示や毎日の点検の実施等 ・規則第6条の3第3項第4号ただし書又は第5号ただし書の規定によりガス換気設備の常時運転 又は可燃性ガス警報設備の設置の基準を適用しない場合における、当該適用除外期間の開始 又は終了時の報告等 ・改正規則附則第4条第3項の規定により関係者以外の者の立入制限措置の基準を適用しない場 合における、毎日の点検の実施、温泉井戸へのガス排出口の設置等 ウ.技術上の基準に基づき設置される各種設備等については、採取の事業を廃止するまでの間は、 当然にその性能が維持されるべきであること。 エ.規則第6条の3第1項第2号ただし書に規定する温泉井戸を屋外に設置することが適当でない場合 の「多雪又は寒冷の気象条件」については、「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関 する法律施行規則の規定に基づき容器を屋外に置くことが著しく困難な場合を定める件(平成9年 3月25日通商産業省告示第144号)」に規定されている地域等を参考に判断されたいこと。 オ.屋内に温泉井戸がある場合(改正規則附則第4条第1項に該当するときは「温泉井戸又はガス分 離設備がある場合」)は、当該屋内にあるガス換気設備及び警報設備の設置位置等のほか、屋外 にあるガス排出口の位置、関係者以外の者の立入制限措置等についても都道府県の職員の実地の 確認を受けることが必要であること(規則第6条の3第3項第1号)。 カ.改正法の施行の際現に屋内に温泉井戸又はガス分離設備を設置し、温泉を採取している場合に は、当該温泉井戸及びガス分離設備の屋外設置を定めた規則第6条の3第1項第2号(イ及びロに係 る部分に限る。)の規定は適用除外となり、他方、規則第6条の3第3項の規定を適用すること( 改正規則附則第4条第1項)。 キ.地下ピット(定義は、改正規則附則第4条第2項を参照。)の内部は「屋内」に該当し、災害防 止措置が必要とされた温泉については、改正法の施行日以降、地下ピットの内部に温泉井戸を設 置できないこと(従来密閉していなかった地下の施設が密閉されることにより地下ピットに該当 する場合も同様とする。)。ただし、改正法の施行の際現に地下ピットが設置され温泉を採取し ている場合には、当該地下ピットに対する技術上の基準は規則第6条の3第3項の規定にかかわら ず改正規則附則第4条第2項を適用すること。また、地下ピットに類似した形態の施設で開口部が 屋外に接し密閉されていないものの内部は「屋外」に該当し、今後も温泉井戸の設置は可能であ るが、開口部周囲の立入制限措置等、規則第6条の3第1項の規定を適用すること(ただし、改正 法の施行の際現に存在するものに対しては規則第6条の3第1項第7号の規定は改正規則附則第4条 第3項により適用しないこと。)。 ク.改正規則附則第5条において、改正法の施行の際現に設置されている火気使用設備等及び防爆 性能を有しない電気設備に関する経過措置について規定しているが、本規定は、規則第6条の3第 3項第7号の規定によりこれらの設備の設置が禁じられている部屋(温泉井戸(改正規則附則第4 条第1項に該当するときは、温泉井戸又はガス分離設備)のある部屋)の内部に、これらの設備 が設置されている場合にのみ適用すること。 (3)温泉の採取の許可を受けた者の地位の承継 温泉の採取の許可について、法人の合併・分割又は個人の死亡による相続が生じた場合に、都道府 県知事の承認を受けて許可を受けた者の地位を承継できることとした(法第14条の3及び第14条の4)。 なお、承継の考え方、手続等については、掘削又は利用の許可の場合と同様である。 (4)災害防止措置を必要としない旨の確認 温泉の採取を業として行おうとする者は、可燃性天然ガスの濃度が災害防止措置を必要としないも のである旨の都道府県知事の確認を受けることができることとし(法第14条の5第1項)、この場合に は、許可を受けなくてよいこととした。 この確認の手続については、法第4条第2項の規定(土地の掘削の許可について、不許可とした場合 の申請者への通知方法)が準用されることとなる(法第14条の5第2項)。 また、不正の手段により確認を受けたとき、又は可燃性天然ガスの濃度が災害防止措置を必要とし ないものの基準を超えるに至ったと認めるときは、確認を取り消さなければならないこととした(法 第14条の5第3項)。 可燃性天然ガスの濃度が災害防止措置を必要としないものの基準については、規則第6条の6第1項 の規定に基づき環境省告示により定めることとしているが、運用に当たっては、特に以下の点に留意 されたい。 ア.規則第6条の6第1項の規定によるメタンの濃度の測定については、規則第6条の12の規定により 「登録分析機関又はこれと同等以上の能力を有すると認められる者により行われなければならな い」としているところであるが、「同等以上の能力を有すると認められる者」としては、環境省 等の実施する講習会を受講した者等であって、計量法(平成4年法律第51号)の規定に基づく計 量証明の事業の登録を受けた者、大学その他の研究機関の職員、行政機関の職員等を想定してい ること(規則第6条の3第1項第1号及び第3号に規定する測定についても同様とする。)。 イ.規則第6条の6第2項の規定に基づき災害防止措置を必要としない旨の確認を行おうとする場合 において、温泉の採取の場所における可燃性天然ガスの発生の可能性を示す文献その他の資料が あるときには、十分慎重な検討を行ったうえで、確認に係る基準適合の判断を行う必要があるこ と。 (5)確認を受けた者の地位の承継 温泉の採取の事業の全部の譲渡、法人の合併・分割又は個人の死亡による相続が生じた場合に、災 害防止措置を必要としない旨の確認を受けた者の地位を承継できることとした(法第14条の6第1項)。 また、当該確認については、掘削や採取の許可と異なり、人的欠格要件が設けられていないことか ら都道府県知事の承認は要せず、他方、都道府県知事が報告徴収、立入検査等を行うために確認を受 けた者を把握する必要があることから、都道府県知事への届出を要することとした(法第14条の6第2 項)。 (6)採取のための施設等の重要な変更をする場合の許可 温泉の採取の許可を受けた者は、採取のための施設の位置、構造若しくは設備又は採取の方法につ いて災害の防止上重要な変更をしようとするときは、都道府県知事の許可を受けなければならないこ ととした(法第14条の7第1項)。 「重要な変更」の内容は、規則第6条の9に定めるとおりである。 この許可の基準及び手続については、法第14条の2の採取の許可に関する規定が準用されることと なる。ただし、人的欠格要件に関する基準は準用されない(法第14条の7第2項)。 なお、採取の許可の場合、採取開始前にガス分離設備等の各種設備が既に設置されている状態で許 可申請が行われることとなるが(改正法の施行の際現に温泉を採取している場合はこの限りでない。 )、変更の許可の場合、設備の位置又は構造の変更等の前に申請することが必要となる。したがって、 申請書の添付書類、許可に当たっての審査の方法等の運用面において、採取の許可と異なる取扱いが 必要となることに留意する必要があり、また、変更の許可の際、法第14条の2第2項第1号に規定する 技術上の基準への適合性を確保するため、変更後に以下の資料を提出する等の条件を付すことを検討 すべきである。 ア.ガス分離設備の構造の変更をする場合にあっては、規則第6条の3第1項第1号に規定する測定の 結果 イ.可燃性天然ガス発生設備の構造の変更をし、かつ、変更後のガス排出口が規則第6条の3第1項 第3号イ又はロに掲げる場所にある場合にあっては、同号に規定する測定の結果 なお、「重要な変更」に該当しないと解されるものであっても、以下に掲げる変更等を実施しよう とするときは報告を行うことを採取の許可の際の条件とすることについて、必要に応じ検討すべきで ある。 ・ガス発生設備間の配管の位置又は構造の変更 ・可燃性天然ガス発生設備が設置された部屋への防爆性能を有する電気設備の新設 ・採取時災害防止規程の内容の変更 (7)温泉の採取の廃止の届出等 採取の許可又は災害防止措置を必要としない旨の確認を受けた者は、温泉の採取の事業を廃止した ときは、都道府県知事に届け出なければならないこととした(法第14条の8第1項)。 都道府県知事は、廃止の後も2年間は、温泉の採取の事業を廃止した者に対し、温泉の採取を行っ たことにより生ずる災害の防止上必要な措置を命ずることができることとしており(法第14条の8第3 項)、適時・適切にこれを実施するよう努められたい。 なお、「温泉の採取の事業の廃止」とは、温泉の採取を行っていた場所における一定期間の休止で はなく、将来にわたり当該採取場所での採取を行わない旨の意思をもって温泉の採取を止めることを 指し、法第14条の5第1項に規定する都道府県知事の確認を受けた場合を除き、採取の許可を受けた者 が採取の廃止の届出を行う際には、温泉のゆう出路の埋戻しの状況を表示した図面等の添付を求める こととしている(規則第6条の11第2項)。なお、休止の場合、採取の許可に係る技術上の基準への適 合義務が継続している点に留意する必要がある。 また、「災害の防止上必要な措置」とは、放置された可燃性天然ガス発生設備にガスが充満して爆 発に至る等の危険を防止するための措置であり、温泉のゆう出路の再度の埋戻し、放置されたガス分 離設備の撤去等の措置が該当する。 (8)許可の取消し、措置命令 都道府県知事は、温泉の採取のための施設等が法第14条の2第2項第1号の技術上の基準に適合しな くなった場合、許可の条件に違反した場合等には、採取許可の取消し、災害の防止上必要な措置の命 令ができることとしており(法第14条の9)、厳正に対処するよう留意されたい。 (9)緊急措置命令等 都道府県知事は、温泉の採取に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止上緊急の必要がある と認めるときは、採取を行う者に対し、災害の防止上必要な措置等の実施を命ずることができること とした(法第14条の10)。 なお、「災害の防止上緊急の必要があると認めるとき」は技術上の基準に違反しているとは限られ ないこと、「災害の防止上必要な措置」は技術上の基準に適合させる措置のみに限られないこと、さ らに、「採取を行う者」には、法第14条の2の許可を受けた者、法第14条の5の確認を受けた者及びこ れらの許可又は確認を受けずに採取を行っている者が含まれることに留意されたい。 4.その他の改正事項等 (1)審議会その他の合議制の機関への諮問 都道府県知事が温泉の保護を目的とする許可、命令等の処分を行う際に、合議制の機関の意見を聴 くこととしている(法第32条)が、これは、温泉の保護のためには、地域的な事情を考慮しつつ、目 に見えない地中の影響を予測して総合的に判断した上で許可等をする必要があるからである。今回の 法改正により加わった温泉の採取に関する処分については、ガスの発生による危険性の有無について は測定により明らかにすることが可能であり、また、あらかじめ定められた技術上の基準に適合して いるかどうかの観点から判断することが可能であるため、合議制の機関への諮問の対象には含めない こととした。このことは、利用の許可と同様の考え方によるものである。 また、掘削又は増掘における可燃性天然ガスによる災害の防止に関する技術上の基準に適合してい るかどうかについても、同様に合議制の機関への諮問の対象には含まないこととする。 (2)聴聞の特例 温泉の採取に係る災害の防止上必要な措置の命令(法第14条の9第2項)について、聴聞の対象に加 えることとした(法第33条第1項)。また、温泉の採取の許可の取消し(法第14条の9第1項)につい ても行政手続法(平成5年法律第88号)により聴聞の対象となり、これらの聴聞の期日における審理 は、公開により行わなければならないこととした(法第33条第2項)。 なお、災害防止措置を必要としない旨の確認の取消し(法第14条の5第3項)については、明確な基 準に基づく処分であることから、行政手続法に基づく意見の陳述のための手続は要しないこととした。 (3)報告徴収、立入検査 温泉をゆう出させる目的で土地を掘削する者については可燃性天然ガスの発生状況を、また、温泉 の採取をする者については温泉の採取の実施状況及び可燃性天然ガスの発生状況を、それぞれ報告徴 収の対象として追加した(法第34条)。 また、報告徴収と同様に、温泉の採取の実施状況及び可燃性天然ガスの発生状況について、立入検 査の対象として追加しており(法第35条)、適時・適切にこれらを実施するよう努められたい。 (4)鉱山保安法との関係 規制の円滑かつ確実な実施の観点から、可燃性天然ガスを掘採する鉱山(以下「天然ガス鉱山」と いう。)における掘削及び増掘については、法第4条第1項第2号の規定を「鉱山保安法(昭和24年法 律第70号)第5条の規定に従つた鉱山における人に対する危害の防止のため必要な措置が講じられて いないと認めるとき。」と読み替えて適用するとともに、天然ガス鉱山においては以下の規定を適用 しないこととした(法第35条の2)。 ア.掘削のための施設等の変更(法第7条の2) イ.災害の防止上必要な措置の命令(法第8条第3項) ウ.緊急措置命令等(法第9条の2) エ.温泉の採取に伴う災害の防止(法第3章) なお、可燃性天然ガスの利用に当たっては、営利を目的としないで単に一家の自用に供するときを 除き、鉱業法(昭和25年法律第289号)及び鉱山保安法(昭和24年法律第70号)の適用を受けること となる点に留意されたい。 (5)政令で定める市の長による事務の処理 法第3章(温泉の採取に伴う災害の防止)に関する事務並びに可燃性天然ガスによる災害の防止に 係る報告徴収及び立入検査の事務については、それぞれ、地域保健法(昭和22年法律第101号)の趣 旨に鑑み、保健所を設置する市及び特別区の長が行うことができる事務には含まないこととしている (法第36条、令第2条)。なお、このことは条例により事務の委任を行うことについて否定するもの ではない。 (6)罰則 所要の罰則規定を設けることとした(法第38条〜第43条)。 5.施行期日、経過措置 (1)施行期日 改正法は、公布日から1年以内で政令で定める日から施行することとし(改正法附則第1条)、政令 において、平成20年10月1日から施行することとした(温泉法の一部を改正する法律の施行期日を定 める政令(平成20年政令第183号)(以下「施行期日政令」という。))。 また、改正法の施行日以前から温泉の採取を業として行っている者の多くが、採取の許可の要否に ついて早期に確定していることが望ましいとの観点から、改正法附則第6条の規定(災害防止措置を 必要としない旨の確認を受けることができること)が設けられ、同規定については、施行期日政令に おいて平成20年8月1日から施行することとした。 (2)経過措置 ア.温泉をゆう出させる目的で行う土地の掘削等に関する経過措置 改正法の施行前に行われた土地の掘削等(掘削及び増掘)の許可の申請については、新たに追加 された許可基準に適合していないことを理由に不許可とすることは不適当であるため、従前の例に より許可又は不許可の処分を行うこととした(改正法附則第2条)。 また、改正法の施行前に許可を受けて掘削等をしている者については、重要な変更の許可の規定 を適用せず、また、許可取消し及び措置命令の要件には技術上の基準への不適合を含まないことと した(改正法附則第3条)。 なお、これらの者であって、改正法の施行の際現に掘削等の工事を完了又は廃止していない者に 対する、掘削等の工事の完了又は廃止の後の措置命令及び緊急措置命令については、経過措置を置 かずにそのまま適用することとしている。 一方、改正法の施行前に掘削等の工事を完了又は廃止した者に対しては、さかのぼって完了又は 廃止後の措置命令の対象とはしないこととした(改正法附則第4条)。 イ.温泉の採取に関する経過措置 改正法の施行の際現に温泉の採取を業として行っている者については、改正法の施行の日から6 ヶ月間(平成21年3月31日までの間)は許可を受けずして引き続き温泉の採取を行うことができる こととした。また、改正法の施行の際現に温泉の採取を業として行っている者が、経過措置の期間 中に採取の許可の申請をした場合において、当該経過措置期間を経過したときは、その申請につい て許可又は不許可の処分があるまでの間は、引き続き温泉の採取を行うことができることとした( 改正法附則第5条)。運用に際しては、改正法の施行の際現に温泉の採取を業として行っている者 については、平成21年3月31日までに、災害防止措置を必要としない旨の都道府県知事の確認(法 第14条の5第1項)を受けず、かつ、採取の許可の申請(法第14条の2第1項)を行わなかった場合に は、法第14条の2第1項の規定に違反することとなることに留意しつつ、温泉を採取する者への適切 な指導が行われることが望まれる。 また、改正法の施行の際現に温泉を採取している場合には、以下に示す技術上の基準は、改正法 の施行の日から1年6月間(平成22年3月31日までの間)は適用しないこととした(改正規則附則第3 条)。 (改正法の施行の日から1年6月間は適用しない技術上の基準) (規則第6条の3第1項) ・第1号(ガス分離設備の設置) ・第3号(ガス排出口の位置規制) ・第4号(配管の閉塞防止措置) ・第5号(制御盤等へのガス侵入防止措置) ・第6号イ(火気使用設備等の設置位置規制) ・第7号(関係者以外の者の立入制限措置) (規則第6条の3第3項〈屋内に温泉井戸がある場合〉) ・第1号(第1項第1号、第3号から第5号まで、第6号イ及び第7号に係る部分) ・第2号(温泉井戸等のガス漏出防止構造) ・第3号(ガス換気設備の設置) ・第4号(ガス換気設備の常時運転) ・第5号(ガス警報設備の設置) ・第6号(温泉井戸の停止構造) ・第9号(温泉井戸からのガス排出口の設置) (改正規則附則第4条第2項〈地下ピット〉) ・第1号(温泉井戸の停止構造) ・第2号イ及びハ(火気使用設備、防爆性能を有しない電気設備等の非設置) ・第3号(地下ピットの内部の空気の排出口設置) ・第4号(地下ピットの内部の空気の排出口に係る配管の閉塞防止措置) ・第5号(地下ピットの内部の空気の他の屋内への侵入防止措置) ・第6号(温泉井戸からのガス排出口の設置) ・第7号(温泉井戸からガス排出口までの配管の閉塞防止措置) ・第10号(制御盤等へのガス侵入防止措置) (その他) ・改正規則附則第5条第1項後段 ・改正規則附則第5条第2項後段 なお、これらの基準に適合する設備の設置等を可能な範囲で早期に実施するよう指導することは、 運用上差し支えない。 ウ.温泉の採取に関する経過措置の期間中における許可手続き 改正規則附則第3条の規定により、同条に基づく経過措置の期間中は適用しないこととされてい る災害防止措置に関する基準(以下「経過措置を受ける基準」という。)への適合は以下のとおり 対処されたい。 a.改正法の施行の際現に温泉を採取している者から採取の許可の申請が提出される際、既に経過 措置を受ける基準にも適合している場合は、その後、申請・届出等を当該採取者から提出される 機会はないことから、この機会を捉え、都道府県知事は経過措置を受ける基準への適合について 把握しておく必要がある。 b.改正法の施行の際現に温泉を採取している者から採取の許可の申請が提出される際、経過措置 を受ける基準に適合していない場合は、当該許可後、基準に適合させる工事を行う前に法第14条 の7の規定に基づく変更の許可の申請を当該採取者が行う必要がある(経過措置を受ける基準のう ち、規則第6条の9に規定する「重要な変更」に該当しない基準のみが経過措置期間中に実施され る場合を除く。この場合、基準に適合させる工事を行ったときは報告を行うよう、採取の許可の 際の条件として付すことを必要に応じ検討すべきである。)。この機会を捉え、都道府県知事は 経過措置を受ける基準への適合について把握しておく必要がある。なお、当該採取者は、改正規 則附則第3条の規定に基づき、平成22年3月31日までに基準に適合させる工事を完了しなければな らない。 c.改正法の施行の際現に温泉を採取している者であって、温泉井戸又はガス分離設備が屋内にあ る場合にあっては、経過措置を受ける基準の中に規則第6条の3第3項第1号が含まれていることに 留意する必要がある。すなわち、上記a.の場合にあっては許可を行う際に実地での確認が必要で あること。b.の場合にあっては変更の工事を行った後に実地確認を行うことを、許可を行う際に 申請事業者に告知した上で、工事完了の際、実地での確認が必要であることに留意する必要があ る。 6.その他 今後、温泉利用施設における事故(可燃性天然ガス又は硫化水素ガスによる事故等)であって、人命 に係る被害等重大な被害が発生し、又はそのおそれがあるとの情報を入手した場合には、類似する被害 の拡大防止、風評被害の防止等の観点から、環境省から各都道府県等に対し適切な助言等を実施するこ ととしたいので、速やかに当該情報を当局(自然環境整備担当参事官室)に連絡されるよう協力願いた い。