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アーク溶接作業において一酸化炭素中毒が発生した事例
【事例I】タンク内の炭酸ガスアーク溶接作業等における災害事例
1 発生年月 平成10年12月
2 発生地 千葉県
3 業種 金属製品製造業
4 被災状況 休業1名
5 発生状況
(1) 客先の事業場に設置されている原料混合機の鋼製タンク内部にさびが発生し製品に影響が出るた
め同タンク(直径2.1m、長さ2.94m、約10m3、横型)内部の上半分を厚さ3mmのステンレス製の板でライ
ニングをすることになった。
(2) 作業方法は、あらかじめ自社工場で厚さ3mmのステンレス製の板を同タンクの側面の直径50cmのマ
ンホールから入る程度の大きさに切断曲げ加工したものを製作し、これを同タンク内に入れて内部で
溶接し取り付けるものである。
(3) 災害発生当日、被災者A、作業者B、C及び工場長Dの4名で作業に取りかかった。
(4) 作業がしやすいようにライニングする部分が下になるようにタンクを180度回転させ、側面の直径
50cmのマンホールと作業時上部に位置していた直径20cmのマンホールとを開放するとともに上部のマ
ンホールからファンで換気を行った。ただし、換気といっても溶接欠陥の発生等の支障のない程度に
溶接時に発生するガス及びヒュームをファンにより排気するもので、新鮮な空気の強制送風は行って
いなかった。
(5) タンクの中には被災者A、作業者B及び工場長Dの3名が入り、被災者Aが炭酸ガスアーク溶接により
下向きに溶接を行い、工場長Dがアルゴンガスアーク溶接(TIG溶接)により残った上部の溶接を行い、
作業者Bは溶接の補助作業を行っていた。なお、作業者Cはタンク外で監視を行っていた。
(6) 朝9時から作業を始め、休憩、昼食をとり午後も作業を続けたが、午後3時頃、被災者Aに軽い頭痛、
胸痛の症状が現れ、午後5時頃、さらに頭痛、胸痛、四肢痛全身倦怠、寒気等の症状が出て作業を続
けられなくなり、作業をやめて帰宅して病院で受診したところ一酸化炭素中毒と診断された。
(7) なお、被災者は、作業に際して手袋及び防じんマスクを着用し、溶接用保護面を使用していた。
6 発生原因
(1) 通風が不十分なタンク内で炭酸ガスアーク溶接作業を行うに際して、換気を十分に行わず、送気
マスク等の自給式呼吸用保護具も使用しなかったこと。
(2) 事業者及び労働者に炭酸ガスアーク溶接作業に際して一酸化炭素が発生するという認識がなかった
こと。
【事例II】ダクト内の被覆アーク溶接作業における災害事例
1 発生年月 平成14年6月
2 発生地 福岡県
3 業種 建設業
4 被災状況 休業1名
5 発生状況
(1) 発電所のボイラー及びタービンの定期検査工事において、被災者は、災害発生当日、午前中から
午後にかけて屋外配管のアーク溶接を行った。溶接方法は被覆アーク溶接であった。
(2) その後、被災者は、夕刻に通風機ダクト(60cm×80cm)内のダンパーシートの溶接の指示を受けて、
1本目を10分程度で終了した後、2本目に取りかかって10分程度経過したときに呼吸が苦しくなり、作
業出入口用のマンホールから自力で脱出して救助を求めた。
(3) 被災者は直ちに病院に搬送され、担当医師により一酸化炭素中毒の疑いありと診断された。
(4) 災害の発生したダクトには、マンホール(45cm×45cm)が3カ所設けられていたが、作業出入口用の
1カ所以外は閉ざされていた。また、ダクト内のダンパーも閉じられていた。気積は約3.8m3であった。
(5) 被災者は、手袋、安全帯、ヘルメット、防じんマスクを着用し、溶接用保護面を使用していた。
(6) 災害発生前に酸素濃度は測定していないが、災害発生直後の酸素濃度測定の結果は21%であった。
(7) 原因究明のため同じ条件で再現実験を行ったところ、作業開始から一酸化炭素濃度は徐々に上昇
し被災者の作業終了の10分経過では146ppmとなった。また、酸素濃度は20.9%で変化はなかった。
6 発生原因
(1) 通風が不十分なダクト内のアーク溶接作業において換気を行わず、送気マスク等の有効な呼吸用
保護具も使用しなかったこと。
(2) 事業者及び労働者にアーク溶接作業に際して一酸化炭素が発生するという認識がなかったこと。
【事例III】通風が不十分な屋内作業場での炭酸ガスアーク溶接作業における災害事例
1 発生年月 平成15年12月
2 発生地 兵庫県
3 業種 金属製品製造業
4 被災状況 休業1名
5 発生状況
(1) 災害は、ステンレス製ジャケット付きタンク(直径2.8m、長さ5.1m)の製造工程で、タンク本体に
ジャケット取付部の部材であるフランジシーラー(板厚35mm、幅84mm)を炭酸ガスアーク溶接(MAG溶
接)により取り付ける作業において発生した。
(2) フランジシーラーの取付作業は、タンクをターニングローラーと呼ばれる回転装置付き台車に横
向きに載せた後、溶接作業者が高さ3.5mの作業架台よりしゃがみ込んだ状態の下向き姿勢で、V型開
先をとったフランジシーラーをタンク本体上部側に11層、下部側に10層すべてMAG溶接の周溶接によ
り取り付けるもので、1周の作業の所要時間は約30分である。
(3) 被災者は、災害発生日の前日午後3時から6時まで、MAG溶接によるフランジシーラーの取付作業を
行った。この日はタンク本体上部側に1層、下部側に4層を取り付けた。
(4) 災害発生日、被災者は午前8時40分より前日のフランジシーラーの取付作業の続きを開始した。
1〜2時間作業をしては15分程度の休憩をとる形で4回作業をし、最後に30分余り時間外作業をして、
この日はタンク本体上部側に6層、下部側に2層を取り付けた。
(5) 後片付けと上司への作業終了報告後に帰宅したが、帰宅後に頭痛等の症状が出始め家族が病院に
搬送したところ、一酸化炭素中毒と診断された。
(6) 作業場は、南北58m、東西32mで、北側に出入口の開口部が2カ所設けられているが、本件作業の場
所は南東端に位置しているため、自然換気は不十分で、全体換気装置が建屋天井に4カ所設けられて
いたが、当日は稼働していなかった。
(7) 被災者は、作業に際しては、防じんマスクを使用していた。
(8) 再現実験では、被災者の呼吸域近傍のアーク発生点から50cmの位置で、57〜182ppmの一酸化炭素
が検出された。
(9) 災者の上司は炭酸ガスアーク溶接作業に際して一酸化炭素が発生することは知っていたが、特に
作業者に一酸化炭素中毒の危険について注意喚起はしていなかった。
6 発生原因
(1) 自然換気が不十分な屋内作業場で炭酸ガスアーク溶接作業を行うに際して、換気を十分に行わず、
送気マスク等の呼吸用保護具も使用しなかったこと。
(2) 事業者、直接監督者及び労働者に炭酸ガスアーク溶接作業に際しての一酸化炭素発生についての
危険・有害性の認識が低く、このための教育もしなかったこと。