安全衛生情報センター
職場での熱中症予防対策については、平成21年6月19日付け基発第0619001号「職場における熱中症の予 防について」(以下「基本対策」という。)により示しているところであるが、平成26年の職場における熱 中症による死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者の数(以下合わせて「死傷者数」という。)は423人と、 平成25年よりも107人少なく、死亡者数は12人と、平成25年よりも18人少なくなっている。しかしながら、 近年の熱中症による死傷者数は、猛暑であった平成22年の後も毎年400〜500人台で、高止まりの状態にあ る。 気象庁の暖候期予報によれば、平成27年の暖候期(6〜8月)は、東日本では気温が平年並みか平年より高 くなることが予想されていることから、熱中症による労働災害が多く発生することが懸念されるところで ある。 また、熱中症による労働災害については、平成25年に策定された第12次労働災害防止計画の中で、「平 成20年から平成24年までの5年間と比較して、平成25年から平成29年までの5年間の職場での熱中症による 休業4日以上の死傷者の数(各期間中(5年間)の合計値)を20%以上減少させる」ことを目標に掲げているが、 平成25年及び平成26年の熱中症による死傷者数の年平均は477人であり、平成20年から平成24年までの5年 間の熱中症による死傷者数の年平均である390人を上回っている状況である。 以上を踏まえ、平成27年の職場における熱中症予防対策については、平成26年に死傷災害が多く発生し ている建設業及び建設現場に付随して行う警備業(以下「建設業等」という。)並びに製造業を対象業種と して、基本対策のうち、特に下記の事項2及び3を重点的に実施することとするので、関係事業場等に対す る的確な指導等に遺漏なきを期されたい。また、建設業等及び製造業以外の事業場についても、管内状況 に応じ、必要な啓発・指導を実施されたい。 なお、別途本省において、熱中症予防対策について点検すべき事項をまとめたリーフレットを作成し、 各局へ配布することとしているので、指導等に当たっては、当該リーフレットを活用されたい。 また、職場における熱中症による死傷災害の発生状況について、別紙1のとおり取りまとめているので、 業務の参考とされたい。 おって、関係団体に対しては別添のとおり要請を行ったので、了知されたい。
1 平成26年の熱中症による死傷災害発生の概要 気象庁の発表によると、平成26年は、北・東日本と沖縄・奄美では、気温が平年を上回る日が多く、暑 夏となった。また、7月下旬は東・西日本、8月上旬は北・東日本では、晴れて暑い日が多く、猛暑日とな った所が多かった。 平成26年に熱中症により死傷した423人のうち、182人は7月に、191人は8月に被災している。また、死 亡した12人のうち、6人は7月に、5人は8月に被災している。 死亡した12人に係る災害の発生状況等をみると、WBGT値(暑さ指数)の測定は11人においてなされていな かった。また、熱への順化期間(熱に慣れ、当該環境に適応する期間)の設定は10人においてなされていな かった。さらに、定期的な水分及び塩分の摂取(参考の2参照)は8人、健康診断の実施は7人においてなさ れていなかった。 2 建設業等での熱中症予防対策について (1) 建設業等での熱中症発生状況等 建設業等は、業態として、炎天下の高温多湿作業場所で作業することが避けられず、WBGT値の低減対 策が困難であることが多い。 また、熱中症の症状が出始めているのに作業を続けたため死亡に至ったり、単独作業のため倒れた後 に迅速な救急処置がなされず死亡した事例がみられることから、建設業等での熱中症予防対策について は、次の(2)を重点事項として、(3)のその他の具体的な実施事項と併せて取り組むこと。 (2) 建設業等での熱中症予防対策の重点事項 建設業等では、次の4項目を重点事項として、熱中症予防対策に取り組むこと。 ア 事前にWBGT予測値・実況値や高温注意情報等を確認し、作業中に身体作業強度に応じたWBGT基準 値を超えることが予想される場合には、可能な限りWBGT値の低減を図り、単独作業を行わないよう にする等の作業環境管理の見直しとともに、連続作業時間を短縮し、長めの休憩時間を設ける等の 作業管理の見直しを行うこと。 特に、作業時間については、7、8月の14時から17時の炎天下等であってWBGT値が基準を大幅に超 える場合は、原則作業を行わないこととすることも含めて見直しを図ること。 イ 作業者に睡眠不足、体調不良、前日に飲酒している、朝食が未摂取である等の状況や、感冒等に よる発熱、下痢等による脱水等の症状がみられる場合、熱中症の発症に影響を与えるおそれがある ことから、作業者に対して日常の健康管理について指導するほか、朝礼等の際にその症状等が顕著 にみられる作業者については、作業場所の変更や作業転換等を行うこと。 ウ 水分及び塩分の摂取確認表を作成する、朝礼等の際に注意喚起を行う、頻繁に巡視を行い確認す る等により、作業者に、自覚症状の有無に関わらず水分及び塩分を定期的に摂取させること。 エ 今年初めて高温多湿作業場所で作業する作業者については、熱への順化期間を設ける等配慮する こと。熱への順化期間については、7日以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くすることを目安 とすること。 (3) 建設業等でのその他の具体的な実施事項 ア 作業環境管理 (ア) 作業場については、直射日光や照り返しを遮る簡易な屋根の設置やスポットクーラー又は大 型扇風機を使用し、かつ、当該場所又はその近傍に、臥床することができ、冷房を備えた休憩 所、又は日陰等の涼しい休憩場所を確保すること。 (イ) 水分及び塩分の補給を定期的かつ容易に行うことができるようスポーツドリンクや経口補水 液、塩飴等を用意すること。 (ウ) 冷たいおしぼり、水風呂、シャワー等の体を適度に冷やすことのできる物品及び設備を用意 ・設置すること。 イ 作業管理 (ア) 作業中は、作業者の様子に異常がないかを確認するため、管理・監督者が頻繁に巡視を行う ほか、作業者同士で声を掛け合う等、相互の健康状態に留意させること。 (イ) 透湿性・通気性の良い服装(クールジャケット、クールスーツ等)を着用させること。また、 直射日光下では通気性の良い帽子やヘルメット(クールヘルメット等)を着用させるほか、後部 に日避けのたれ布を取り付けて輻射熱を遮ること。 ウ 健康管理 (ア) 作業者が糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全、精神・神経関係の疾患、広範囲の皮膚疾患等 の疾患を有する場合、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることから、作業の可否や作業 時の留意事項等について、産業医等の意見を聴き、必要に応じて、作業場所の変更や作業転換 等を行うこと。 (イ) 心機能が正常な労働者については、1分間の心拍数が数分間継続して180から年齢を引いた値 を超える場合又は作業強度がピークに達した時点から1分後の心拍数が120を超える場合は、熱 へのばく露を止めることが必要とされている兆候であるので、作業中断も含めた措置を行う等 作業者の健康管理を行うこと。 エ 労働衛生教育 作業を管理する者や作業者に対して、特に次の点を重点とした労働衛生教育を繰り返し行うこと。 また、当該教育内容の実践について、日々の注意喚起を図ること。 ・作業者の自覚症状に関わらない水分及び塩分の摂取 ・日常の健康管理 ・熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候の把握 ・緊急時の救急処置及び連絡方法 オ 救急措置 熱中症を疑わせる症状が現れた場合は、涼しい場所で身体を冷し、水分及び塩分の摂取等を行う こと。また、必要に応じ、救急隊を要請し、又は医師の診察を受けさせること。 3 製造業での熱中症予防対策について (1) 製造業での熱中症発生状況等 製造業は、工場等屋内作業場では、スラブなど特定の高温物の輻射熱にさらされる作業、高温になる 設備等の近くでの作業、風通しの悪い空間での作業等を行う場合や、一時的に屋外作業が生じる場合な ど、体が熱順化していない状態でWBGT値の高い環境において作業を行う場合が少なくない。 また、水分・塩分を定期的に摂取させていない例も多く、これらを踏まえ、製造業では熱中症予防対 策について、次の(2)を重点事項として、(3)のその他の具体的な実施事項と併せて取り組むこと。 (2) 製造業での熱中症予防対策の重点事項 次の2項目を重点事項として、熱中症予防対策に取り組むこと。 ア 事前にWBGT予測値・実況値や高温注意情報等を確認し、作業中に身体作業強度に応じたWBGT基 準値を超えることが予想される場合には、作業計画の見直し等を行うこと。 イ 水分及び塩分の摂取確認表を作成する、朝礼等の際に注意喚起を行う、頻繁に巡視を行い確認す る等により、作業者に、自覚症状の有無に関わらず水分及び塩分を定期的に摂取させること。 (3) 製造業でのその他の具体的な実施事項 ア 作業環境管理 (ア) 熱源がある場合には熱を遮る遮蔽物の設置、スポットクーラー又は大型扇風機の使用等、作 業場所のWBGT値の低減を図ること。 (イ) 作業場所又はその近傍に、臥床することができ、風通しが良い等涼しい休憩場所を確保する こと。 (ウ) 水分及び塩分の補給を定期的かつ容易に行うことができるようスポーツドリンクや経口補水 液、塩飴等を用意すること。 イ 作業管理 (ア) 休憩時間をこまめに設けて連続作業時間を短縮するほか、WBGT値が最も高くなり、熱中症の 発症が多くなり始める14時から16時に長目の休憩時間を設ける等、作業者が高温多湿環境から 受ける負担を軽減すること。 (イ) 高温多湿作業場所で初めて作業する作業者については、順化期間を設ける等配慮すること。 (ウ) 透湿性・通気性の良い服装(クールジャケット、クールスーツ等)を着用させること。 (エ) 作業中は、作業者の様子に異常がないかどうかを確認するため、管理・監督者が頻繁に巡視 を行うほか、作業者同士で声を掛け合う等、相互の健康状態に留意させること。 ウ 健康管理 (ア) 作業者に糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全、精神・神経関係の疾患、広範囲の皮膚疾患等 の疾患を有する場合、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることから、作業の可否や作業 時の留意事項等について、産業医等の意見を聴き、必要に応じて、作業場所の変更や作業転換 等を行うこと。 (イ) 作業者に睡眠不足、体調不良、前日に飲酒している、朝食が未摂取である等の状況や、感冒 等による発熱、下痢等による脱水等の症状がみられる場合、熱中症の発症に影響を与えるおそ れがあることから、作業者に対して日常の健康管理について指導するほか、その症状等が顕著 にみられる作業者については、作業場所の変更や作業転換等を行うこと。 エ 労働衛生教育 作業を管理する者や作業者に対して、特に次の点を重点とした労働衛生教育を繰り返し行うこ と。また、当該教育内容の実践について、日々の注意喚起を図ること。 ・ 作業者の自覚症状に関わらない水分及び塩分の摂取 ・ 日常の健康管理 ・ 熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候の把握 ・ 緊急時の救急処置及び連絡方法 オ 救急措置 熱中症を疑わせる症状が現れた場合は、涼しい場所で身体を冷し、水分及び塩分の摂取等を行 うこと。また、必要に応じ、救急隊を要請し、又は医師の診察を受けさせること。 (参考) 1 WBGT値・気温に関する情報の入手方法について (1) 環境省においては、平成27年5月13日から10月16日までの間を予定して、ウェブサイト「環境省熱 中症予防情報サイト」にて、全国約850地点の2日先までのWBGT値(暑さ指数)の予測値・実況値や熱中 症の予防方法などを情報提供しているほか、住宅街やアスファルトの上等の実生活の場を想定したWB GT値(暑さ指数)の参考値を掲載しているので、屋外にてWBGT値を測定していない場合は、これらの数 値等が参考になること(ただし、あくまで予測や推定であり、実際の値とは若干異なることに留意す ること。)。また、同ウェブサイトでは、サイトの運営と同じ平成27年5月13日から10月16日までの予 定で、民間のメール配信サービスを活用したWBGT値(暑さ指数)の個人向けメール配信サービス(無料) を実施しており、屋外等のウェブサイトを閲覧できない環境ではこうしたサービスも参考になること。 PCサイト:http://www.wbgt.env.go.jp スマートフォンサイト:http://www.wbgt.env.go.jp/sp/ 携帯サイト:http://www.wbgt.env.go.jp/kt (2) WBGT値が測定されていない場合には、別紙2の「WBGT値と気温、相対湿度との関係」(日本生気象 学会「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3)が参考になること。ただし、室内で日射が無い状態 (黒球温度が乾球温度と等しい状態。)の値を示したものであり、屋外等輻射熱が大きい場所では正確 なWBGT値(暑さ指数)と異なる場合もあることに留意すること。 (3) 身体作業強度等に応じたWBGT基準値については、別紙3によること。 (4) 気象庁においては、翌日又は当日の最高気温が概ね35℃以上になることが予想される場合に、「高 温注意情報」を発表し、以下のサイトに掲載するので参考にすること。 PCサイト:http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kurashi/netsu.html また、向こう1週間で最高気温が概ね35℃以上になることが予想される場合に、数日前から「高温 に関する気象情報」を発表し、以下のサイトに掲載するので参考にすること。 PCサイト:http://www.jma.go.jp/jp/kishojoho/ さらに、5日後から14日後にかけての7日間平均気温がかなり高くなることが予想される場合に、以 下のサイトで毎週月・木曜日に高温に関する異常天候早期警戒情報を発表しているので参考にするこ と。 PCサイト:http://www.jma.go.jp/jp/soukei/ さらに、毎週木曜日に1か月予報を、毎月25日頃に翌月以降の3か月予報を発表するので逐次活用す ること。 PCサイト:http://www.jma.go.jp/jp/longfcst/ なお、過去の気候系の特徴は、気候系監視年報でまとめられている。 PCサイト:http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/diag/nenpo/index.html 2 作業中の定期的な水分及び塩分の摂取について 身体作業強度等に応じて必要な摂取量は異なるが、作業場所のWBGT値がWBGT基準値を超える場合には、 少なくとも、0.1%〜0.2%の食塩水、ナトリウム40〜80mg/100mlのスポーツドリンク又は経口補水液 等を、20〜30分ごとにカップ1〜2杯程度摂取することが望ましいこと。別紙1(PDF:501KB)