安全衛生情報センター
本年1月9日に発生した三重県四日市市の三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を受け、同社が設置し た事故調査委員会から最終報告書が6月12日に公表されました。 また、危険物保安技術協会で開催された「危険物施設の保守・点検時の事故防止に係る検討会」におい ても、今回の事故の分析及び同種事故防止対策の検討が行われ、6月20日に最終報告が取りまとめられた ところです。これらにより、クロロシランポリマー類(シリコン原子2個以上が結合している分子の化合物、 又は、これらが何種類か混在したものの総称。)及びその加水分解生成物(以下「クロロシランポリマー類 等」という。)の危険性や、取り扱う物質の危険性やその反応過程が十分に把握されていない場合の問題 が明らかになりました。 今般、下記のとおり、今回の事故の直接の原因となった物質に係る留意事項を取りまとめるとともに、 非定常作業時等に予期せぬ危険な反応等により災害の発生のおそれがある場合の留意事項を取りまとめま した。つきましては、下記事項について、貴団体傘下の事業者等に対し周知徹底することにより、石油コ ンビナート等における事故防止に向けた取組を進めるようお願いします。
1 クロロシランポリマー類等が堆積する工程がある場合の留意事項 クロロシランポリマー類は、可燃性ではあるが、爆発威力は小さい。一方、低温での加水分解により 生成していたクロロシランポリマー類の加水分解生成物の発火・爆発危険性は、クロロシランポリマー 類と比較して、摩擦感度及び静電気火花感度は低いが、熱感度や打撃感度が高く、爆発威力はきわめて 大きいという性状を有していることが明らかになった。このため、これらの取扱いに当たっては、以下 の措置を講ずることが必要である。 (1) 十分なリスクアセスメントによる安全対策 クロロシランポリマー類等の取扱いについては、定常作業、非定常作業のいずれにおいても、構 成機器、作業内容、発火・爆発等の危険性等を総合的に勘案し、三菱マテリアル(株)四日市工場の 爆発火災事故や、別表、1の事故事例等も参考とした上で、適切に危険を抽出することにより十分に リスクアセスメントを行い、実態に合った適切な安全対策を講じること。 (2) 設計段階における安全対策 設計段階における安全対策としては、以下の対策が考えられる。 ア クロロシランポリマー類等が装置や配管に堆積しにくい設計とすること。 イ クロロシランポリマー類等が装置や配管に堆積する構造であっても、容易かつ安全に堆積物が 除去できる設計とすること。 ウ クロロシランポリマー類等の堆積状況等を計測装置等により客観的に判断できるようにしてお くこと。 (3) 非定常作業時のリスクアセスメント及び対策 クロロシランポリマー類等が堆積した装置、配管等を開放する等の非定常作業に係るリスクアセ スメントを十分に行うとともに、その結果に基づき、特に堆積したクロロシランポリマー類等の危 険性及び発生し得るリスクに備えた作業手順書を作成すること。 (4) 安全対策の周知・教育 クロロシランポリマー類等の危険性、リスクアセスメントの結果、得られた安全対策の内容につ いて、従業者への周知・教育を徹底すること。 (5) ヒヤリハット事例の共有 クロロシランポリマー類等の事故やヒヤリハット等の事例については、事業者間で積極的に情報 共有を行い、リスクアセスメントや従業者教育等に活用すること。 2 非定常作業時等に予期せぬ危険な反応等により事故の発生のおそれがある場合の留意事項 クロロシランポリマー類等以外の物質の取扱いにおいても、今回の事故に見られるように、副生成物 等の危険性やその反応過程が十分に把握されていない場合、当該副生成物を取り扱う非定常作業等に伴 うリスクを適切に評価することができなくなり、事故が発生する可能性がある。この種の事故を防止す るため、以下の事項に留意することが必要である。 (1) 反応、精製過程等において未反応物や副生成物等が残渣として付着した装置や配管等を取り扱う 作業における事故の防止 ア 残渣を洗浄するための機器の解体・取り外し作業、開放作業等の非定常作業 イ 活性が残った物質が触媒に付着している状況での、廃棄までの保管作業等では、残渣や活性が 残った物質の危険性やその反応過程が十分に把握されていない場合、安全対策が不十分なものと なり、思わぬ事故が発生するおそれがある。そのため、具体的には、以下のような安全対策や安 全管理が有効であること。 ①必要に応じて分析等により危険性を調査した上でのリスクアセスメントの実施、及びその結果 に基づく安全対策の実施 ②作業前ミーティング等における当日の作業計画に関する従業者間での情報共有 ③作業を行う従業者への十分な教育の実施 ④統括的に現場の安全を管理する者による安全管理体制の確保 (2) ヒヤリハット事例等の分析、共有による事故の防止 ヒヤリハット事例等を継続的に分析し、発火・爆発等の危険性が疑われる場合、どのような危険 性があるのか調査し、対策を講じていくことが必要であること。その際、火災・爆発等に関する性 状が明確でない物質については、分析を行う、又は専門家の判断を仰ぐ等により確認すること。そ の危険性及び対策については、協力会社の従業者も含め、周知徹底・情報共有を図ることが必要で あるが、可能な場合には、関係業界、他社等に幅広く、適切かつ積極的に情報提供を行うこと。 (3) その他 別表、2の事故事例も参考に、危険な反応等により事故の発生のおそれがある物質を取り扱う場合 における危険性については、十分なリスクアセスメントを行い、適切な安全対策を講じること。 ※ 総務省消防庁の2室長については公印省略。厚生労働省の課長及び経済産業省の課長・室長に ついては公印がないため押印なし。 別記 石油化学工業協会会長 石油連盟会長 電気事業連合会会長 日本LPガス協会会長 一般社団法人日本化学工業協会会長 一般社団法人日本ガス協会会長 日本タンクターミナル協会会長 一般社団法人日本鉄鋼連盟会長別表(PDF:157KB)