安全衛生情報センター
職場での熱中症予防対策については、平成21年6月19日付け基発第0619001号「職場における熱中症の 予防について」(以下「基本対策」という。)により示しているところであるが、平成25年の職場における 熱中症による死亡者数は30人と例年よりも多く、業種別に見ると、建設業が9人、製造業が7人、警備業が 2人、農業、林業及び運送業が1人等となっており、引き続き基本対策で示している熱中症予防対策の的確 な実施が必要である。 さらに、気象庁の暖候期予報によれば、平成26年の暖候期(6〜8月)は、西日本、沖縄・奄美では気温が 平年並みか平年より高くなることが予想されている(参考の1参照)ことから、熱中症による労働災害が多 く発生することが懸念されるところである。 以上を踏まえ、平成26年の職場における熱中症予防対策については、建設業及び建設現場に付随して行 う警備業(以下「建設業等」という。)並びに製造業を対象業種として、基本対策のうち、特に下記の事項 2及び3を重点的に実施することとするので、関係事業場等に対する的確な指導等に遺漏なきを期されたい。 また、建設業等及び製造業以外の事業場についても、管内状況に応じ、必要な啓発・指導を実施されたい。 なお、平成25年の職場での熱中症による死亡災害の発生状況について、別紙1のとおり取りまとめてい るので、業務の参考とされたい。 おって、関係団体に対しては別添のとおり要請を行ったので、了知されたい。
1 平成25年の熱中症による死亡災害発生の概要 気象庁の発表によると、東・西日本と沖縄・奄美では、8月上旬から8月中旬を中心に晴れて暑い日とな り、暑夏となった。西日本では夏の平均気温の最も高い記録を更新したほか、各地の観測地点で日最高気 温の記録を更新した。また、高温のピークは、7月上旬後半から7月中旬前半、7月下旬中頃、8月上旬前半 及び8月中旬(2回)に見られた。 平成25年に発生した熱中症による死亡災害30件の災害発生時期の内訳は、6月に1件、7月上旬に8件、7 月中旬に6件、8月上旬に7件、8月中旬に5件、8月下旬に2件、12月に1件となっている。このうち、WBGT 値(暑さ指数)を測定していなかった割合は約9割であった。また、熱への順化期間(熱に慣れ、当該環境に 適応する期間)の設定は、全件においてなされていなかった。さらに、定期的な水分及び塩分の摂取(参考 の2参照)を指導していなかった割合は約5割、休憩場所が整備されていなかった割合は約5割であった。 2 建設業等での熱中症予防対策について (1) 建設業等での熱中症発生状況等 建設業等は、業態として、炎天下の高温多湿作業場所で作業することが避けられず、WBGT値の低減 対策が困難であることが多い。 また、熱中症の症状が出始めているのに作業を続けたため死亡に至ったり、単独作業のため倒れた 後に迅速な救急処置がなされず死亡した事例がみられることから、建設業等での熱中症予防対策につ いては、次の(2)を重点事項として、(3)のその他の具体的な実施事項と併せて取り組むこと。 (2) 建設業等での熱中症予防対策の重点事項 建設業等では、次の4項目を重点事項として、熱中症予防対策に取り組むこと。 ア 事前にWBGT予測値・実況値や高温注意情報等を確認し、作業中に身体作業強度に応じたWBGT 基準値を超えることが予想される場合には、可能な限りWBGT値の低減を図り、単独作業を行わ ないようにする等の作業環境管理の見直しとともに、連続作業時間を短縮し、長めの休憩時間 を設ける等の作業管理の見直しを行うこと。 特に、作業時間については、7、8月の14時から17時の炎天下等であってWBGT値が基準を大幅 に超える場合は、原則作業を行わないこととすることも含めて見直しを図ること。 イ 作業者に睡眠不足、体調不良、前日に飲酒している、朝食が未摂取である等の状況や、感冒 等による発熱、下痢等による脱水等の症状がみられる場合、熱中症の発症に影響を与えるおそ れがあることから、作業者に対して日常の健康管理について指導するほか、朝礼等の際にその 症状等が顕著にみられる作業者については、作業場所の変更や作業転換等を行うこと。 ウ 水分及び塩分の摂取確認表を作成する、朝礼等の際に注意喚起を行う、頻繁に巡視を行い確 認する等により、作業者に、自覚症状の有無に関わらず水分及び塩分を定期的に摂取させるこ と。 エ 今年初めて高温多湿作業場所で作業する作業者については、熱への順化期間を設ける等配慮 すること。熱への順化期間については、7日以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くすること を目安とすること。 (3) 建設業等でのその他の具体的な実施事項 ア 作業環境管理 (ア) 作業場については、直射日光や照り返しを遮る簡易な屋根の設置やスポットクーラー又は 大型扇風機を使用し、かつ、当該場所又はその近傍に、臥床することができ、冷房を備え た休憩所、又は日陰等の涼しい休憩場所を確保すること。 (イ) 水分及び塩分の補給を定期的かつ容易に行うことができるようスポーツドリンクや経口補 水液、塩飴等を用意すること。 (ウ) 冷たいおしぼり、水風呂、シャワー等の体を適度に冷やすことのできる物品及び設備を用 意・設置すること。 イ 作業管理 (ア) 作業中は、作業者の様子に異常がないかを確認するため、管理・監督者が頻繁に巡視を行 うほか、複数の作業者がいる場合には、作業者同士で声を掛け合う等、相互の健康状態に 留意させること。 (イ) 透湿性・通気性の良い服装(クールジャケット、クールスーツ等)を着用させること。また、 直射日光下では通気性の良い帽子やヘルメット(クールヘルメット等)を着用させるほか、 後部に日避けのたれ布を取り付けて輻射熱を遮ること。 ウ 健康管理 (ア) 作業者が糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全、精神・神経関係の疾患、広範囲の皮膚疾患 等の疾患を有する場合、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることから、作業の可否 や作業時の留意事項等について、産業医等の意見を聴き、必要に応じて、作業場所の変更 や作業転換等を行うこと。 (イ) 心機能が正常な労働者については、1分間の心拍数が数分間継続して180から年齢を引いた 値を超える場合又は作業強度がピークに達した時点から1分後の心拍数が120を超える場合 は、熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候であるので、作業中断も含めた措 置を行う等作業者の健康管理を行うこと。 エ 労働衛生教育 作業を管理する者や作業者に対して、特に次の点を重点とした労働衛生教育を繰り返し行う こと。また、当該教育内容の実践について、日々の注意喚起を図ること。 ・作業者の自覚症状に関わらない水分及び塩分の摂取 ・日常の健康管理 ・熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候の把握 ・緊急時の救急処置及び連絡方法 3 製造業での熱中症予防対策について (1) 製造業での熱中症発生状況等 製造業は、工場等屋内作業場では、スラブなど特定の高温物の輻射熱にさらされる作業、高温にな る設備等の近くでの作業、風通しの悪い空間での作業等を行う場合や、一時的に屋外作業が生じる場 合など、体が熱順化していない状態でWBGT値の高い環境において作業を行う場合が少なくない。 また、水分・塩分を定期的に摂取させていない例も多く、これらを踏まえ、製造業では熱中症予防 対策について、次の(2)を重点事項として、(3)のその他の具体的な実施事項と併せて取り組むこと。 (2) 製造業での熱中症予防対策の重点事項 次の2項目を重点事項として、熱中症予防対策に取り組むこと。 ア 事前にWBGT予測値・実況値や高温注意情報等を確認し、作業中に身体作業強度に応じたWBGT 基準値を超えることが予想される場合には、作業計画の見直し等を行うこと。 イ 水分及び塩分の摂取確認表を作成する、朝礼等の際に注意喚起を行う、頻繁に巡視を行い確 認する等により、作業者に、自覚症状の有無に関わらず水分及び塩分を定期的に摂取させるこ と。 (3) 製造業でのその他の具体的な実施事項 ア 作業環境管理 (ア) 熱源がある場合には熱を遮る遮蔽物の設置、スポットクーラー又は大型扇風機の使用等、 作業場所のWBGT値の低減を図ること。 (イ) 作業場所又はその近傍に、臥床することができ、風通しが良い等涼しい休憩場所を確保す ること。 (ウ) 水分及び塩分の補給を定期的かつ容易に行うことができるようスポーツドリンクや経口補 水液、塩飴等を用意すること。 イ 作業管理 (ア) 休憩時間をこまめに設けて連続作業時間を短縮するほか、WBGT値が最も高くなり、熱中症 の発症が多くなり始める14時から16時に長目の休憩時間を設ける等、作業者が高温多湿環 境から受ける負担を軽減すること。 (イ) 高温多湿作業場所で初めて作業する作業者については、順化期間を設ける等配慮すること。 (ウ) 透湿性・通気性の良い服装(クールジャケット、クールスーツ等)を着用させること。 (エ) 作業中は、作業者の様子に異常がないかどうかを確認するため、管理・監督者が頻繁に巡 視を行うほか、複数の作業者がいる場合には、作業者同士で声を掛け合う等、相互の健康 状態に留意させること。 ウ 健康管理 (ア) 作業者に糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全、精神・神経関係の疾患、広範囲の皮膚疾患 等の疾患を有する場合、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることから、作業の可否 や作業時の留意事項等について、産業医等の意見を聴き、必要に応じて、作業場所の変更 や作業転換等を行うこと。 (イ) 作業者に睡眠不足、体調不良、前日に飲酒している、朝食が未摂取である等の状況や、感 冒等による発熱、下痢等による脱水等の症状がみられる場合、熱中症の発症に影響を与え るおそれがあることから、作業者に対して日常の健康管理について指導するほか、その症 状等が顕著にみられる作業者については、作業場所の変更や作業転換等を行うこと。 エ 労働衛生教育 作業を管理する者や作業者に対して、特に次の点を重点とした労働衛生教育を繰り返し行う こと。また、当該教育内容の実践について、日々の注意喚起を図ること。 ・作業者の自覚症状に関わらない水分及び塩分の摂取 ・日常の健康管理 ・熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候の把握 ・緊急時の救急処置及び連絡方法 (参考) 1 WBGT値・気温に関する情報の入手方法について (1) 環境省においては、平成26年5月12日から10月17日までの間を予定して、ウェブサイト「環境省 熱中症予防情報サイト」にて、全国約850地点の2日先までのWBGT値(暑さ指数)の予測値・実況値や 熱中症の予防方法などを情報提供しているほか、住宅街やアスファルトの上等の実生活の場を想定 したWBGT値(暑さ指数)の参考値を掲載しているので、屋外にてWBGT値を測定していない場合は、こ れらの数値等が参考になること(ただし、あくまで予測や推定であり、実際の値とは若干異なるこ とに留意すること。)。また、同ウェブサイトでは、サイトの運営と同じ平成26年5月12日から10月 17日までの予定で、民間のメール配信サービスを活用したWBGT値(暑さ指数)の個人向けメール配信 サービス(無料)を実施しており、屋外等のウェブサイトを閲覧できない環境ではこうしたサービス も参考になること。 PCサイト:http://www.wbgt.env.go.jp 携帯サイト:http://www.wbgt.env.go.jp/kt (2) WBGT値が測定されていない場合には、別紙2の「WBGT値と気温、相対湿度との関係」(日本生気象 学会「日常生活における熱中症予防指針」Ver.3)が参考になること。ただし、室内で日射が無い状 態(黒球温度が乾球温度と等しい状態。)の値を示したものであり、屋外等輻射熱が大きい場所では 正確なWBGT値(暑さ指数)と異なる場合もあることに留意すること。 (3) 身体作業強度等に応じたWBGT基準値については、別紙3によること。 (4) 気象庁においては、翌日又は当日の最高気温が概ね35℃以上になることが予想される場合に、 「高温注意情報」を発表し、以下のサイトに掲載するので参考にすること。 PCサイト:http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kurashi/netsu.html また、5日後から14日後にかけての7日間平均気温がかなり高くなることが予想される場合に、以 下のサイトで毎週月・木曜日に高温に関する異常天候早期警戒情報を発表しているので参考にする こと。 PCサイト:http://www.jma.go.jp/jp/soukei/ さらに、毎週木曜日に1か月予報を、毎月25日頃に翌月以降の3か月予報を発表するので逐次活用 すること。 PCサイト:http://www.jma.go.jp/jp/longfcst/ なお、過去の気候系の特徴は、気候系監視年報でまとめられている。 PCサイト:http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/diag/nenpo/index.html 2 作業中の定期的な水分及び塩分の摂取について 身体作業強度等に応じて必要な摂取量は異なるが、作業場所のWBGT値がWBGT基準値を超える場合には、 少なくとも、0.1%〜0.2%の食塩水、ナトリウム40〜80mg/100mlのスポーツドリンク又は経口補水液 等を、20〜30分ごとにカップ1〜2杯程度摂取することが望ましいこと。別紙1(PDF:498KB)