下水道工事等における酸素欠乏症及び硫化水素中毒等の防止対策の徹底について |
改正履歴
酸素欠乏危険場所における酸素欠乏症及び硫化水素中毒、自然換気が不十分な場所における内燃機関の
排気ガスによる一酸化炭素中毒、通風が不十分な場所に備える消火設備に用いる炭酸ガスによる酸素欠乏
症(以下「酸素欠乏症等」と総称する。)の防止については、従来からこれらの対策の徹底を指示してき
たところであるが、最近においてこれらの重大災害等が別添1のとおり相次いで発生し、多数の死傷者が
生じており、社会的にも重大な関心が寄せられているところである。
これらの災害は、市街地における下水道整備事業の進展に伴い、下水道工事において多く発生している。
また、その原因を見ると関係事業者及び関係労働者並びに工事の発注者が酸素欠乏危険場所について十分
な認識を有していないこと、酸素欠乏症等の原因及び防止措置等についての理解が十分でないこと等の問
題点が認められるところである。
ついては、例年夏季には酸素欠乏症及び硫化水素中毒が発生しやすいことにも留意のうえ、酸素欠乏症
等防止規則、労働安全衛生規則等に規定している事項等のうち、特に下記事項について、関係事業者その
他の関係者に対し、下水道工事業、清掃業等の業種業態に応じて、監督指導、地方公共団体との連絡協議
の場等あらゆる機会をとらえて、周知徹底を図られたい。
なお、この件に関しては、別添2のとおり、建設業労働災害防止協会に対して建設業者に対する指導等
を依頼してあるので申し添える。
記
1 酸素欠乏危険場所の認識の徹底
災害の発生状況等をみると、当該場所が酸素欠乏症又は硫化水素中毒にかかるおそれのある場所であ
るとの認識に欠けていることが最も大きな問題であると考えられるので、労働安全衛生法施行令別表第
6第3号の3及び第9号に掲げる場所については、当該場所における酸素濃度及び硫化水素濃度の如何
にかかわらず、当該作業場所における作業は、第2種酸素欠乏危険作業であること並びに労働安全衛生
法施行令別表第6第1号、第3号、第4号及び第11号に掲げる場所における作業については、当該場所
における酸素濃度の如何にかかわらず、当該作業場所における作業は、第1種酸素欠乏危険作業である
ことを事業者及び関係労働者に周知徹底させること。
2 自然換気が不十分な場所における内燃機関の使用禁止の徹底
坑、井筒、潜函(かん)、タンク又は船倉の内部その他の場所で、自然換気が不十分なところにおいて、
内燃機関を有する機械を使用することの禁止を徹底させること。
3 不活性ガスを使用する消火設備等に係る措置の徹底
地下室、機関室、船倉その他通風が不十分な場所に備える消火器又は消火設備で炭酸ガス等の不活性
ガスを使用するものにあっては、次の措置を講じさせること。
イ 労働者が誤って接触したことにより、容易に転倒し、又はハンドルが容易に作動することのないよ
うにすること。
ロ みだりに作動させることを禁止し、かつ、その旨を見やすい箇所に表示すること。
ハ 炭酸ガス等の不活性ガスを使用した消火設備等の点検整備作業を行う場合には、次の措置を講ずる
こと。
(イ) 作業の方法及び順序を決定し、あらかじめ、これを作業に従事する労働者に周知すること。
(ロ) 不活性ガスを使用した消火設備等の点検整備について必要な知識を有する者のうちから指揮者
を選任し、その者に当該作業を指揮させること。
(ハ) 消火設備等の配管の系統及び開放すべきバルブ若しくはコック又は閉止すべきバルブ若しくは
コックについて、作業に従事する労働者に周知すること。
(ニ) (ハ)の閉止したバルブ若しくはコックには施錠し、又は開放してはならない旨を見やすい箇所
に表示すること。
(ホ) 万一、不活性ガスが噴出した場合には、直ちに避難することができるように、避難通路を確保
すること。
4 発注者である地方公共団体に対する指導の徹底
近年における下水道の整備の進展に伴い、既設の下水道に隣接して下水道工事等が行われることが多
くなっていることにかんがみ、発注者から工事の状況の把握に務めるとともに、地方公共団体との連絡
協議の場、集団指導等において、工事発注者に対して、上記の対策を含め酸素欠乏症及び硫化水素中毒
防止に係る安全衛生基準の周知徹底を図ること。
別添1
1 下水堰き止め用の角落し作業中に発生した硫化水素中毒
(1) 発生日時 昭和62年度3月30日 午前9時35分頃
(2) 発生場所 東京都
(3) 被災状況 死亡1人 重症5人
(4) 発生状況
事故のあった立坑は、下水道拡張整備工事区間にある4つの立坑のうち、上流から2番目のもの
であるが、本工事は、既に完了しており、No.2立坑まで汚水を通し「角落し」という遮水壁で汚水
の堰き止めがなされていた。災害発生当日の作業は、汚水を堰き止めている角落しを撤去して、下
流の新設ポンプ所まで汚水を到達させることであった
事故発生時、No.2立坑には下請作業者9人、元請職員2人、発注者職員2人、その他1人の14人
が入っていたが、上から3本目の角落しを撤去したところ、角落し越しに汚水が立坑内に落下して、
大量の硫化水素ガス(事故1時間半後の測定で118ppm)が発生した。坑内に入っていた者のうち8
人は脱出したが、6人が坑内に取り残されて被災した。
(5) 発生原因
滞留していた汚水を堰き止めていた角落しを撤去したため、汚水中の硫化水素が発生したため。
(6) 防止対策
イ 酸素及び硫化水素の濃度の測定の実施
ロ 十分な換気の実施
ハ 作業者に対する酸素欠乏症及び硫化水素中毒の防止に関する特別の教育の実施
ニ 酸素欠乏症及び硫化水素中毒の防止に係る作業主任者の選任及びその職務の励行
ホ 作業状況の常時監視等による異常の早期発見及び退避
(図)
2 下水道マンホール浚せつ及び変状調査の作業で発生した硫化水素中毒
(1) 発生日時 昭和62年4月13日 午後2時20分頃
(2) 発生場所 東京都
(3) 被災状況 死亡1人
(4) 発生状況
災害発生当日は、既設の下水道マンホール浚せつ及び変状調査の作業を行うため、まず、下水管
の上流側を「角落し」で堰き止め、さらに、160m下流側の下水管を角落しで堰き止めて、マンホ
ールの中に水中ポンプを入れ、下水を汲み上げ、中が空になってからマンホール内に入り、下水管
内に堆積した土量(汚泥)の調査を行い、バキューム等を使用して、管内の浚せつ及び清掃を行い、
最後に下水管内のクラック、変位等について変状調査を行う予定であった。
汚水汲み上げ作業開始1時間して、被災者が深さ13mの立坑マンホールに入り、深さ11m〜12m
付近で水中ポンプを固定した後マンホール内のステップを上がる途中で、マンホール底部に転落し
被災した。
事故後(約1時間50分後)の測定によれば、マンホール内(地上から深さ8mの地点)の硫化水
素濃度は、35ppmであった
(5) 発生原因
汚水から発生した硫化水素がマンホール内に滞留していたことを知らずその内部で作業をしたた
め。
(6) 防止対策
イ 酸素及び硫化水素の濃度の測定の実施
ロ 十分な換気の実施
ハ 作業者に対して、酸素欠乏症及び硫化水素中毒の防止に関する特別の教育の実施
ニ 酸素欠乏症及び硫化水素中毒の防止に係る作業主任者の選任及びその職務の励行
ホ 作業状況の常時監視等による異常の早期発見及び退避
(図)
3 簡易水道取水槽内にガソリン発動式ポンプを持ち込み、作業中に発生した一酸化炭素中毒
(1) 発生日時 昭和62年5月15日 午後1時20分頃
(2) 発生場所 北海道
(3) 被災状況 死亡3人 重症1人
(4) 発生状況
簡易水道の取水槽(内径3m、深さ4.1mのコンクリート製円筒)の鉄製マンホール部をFR
P製に取り替え、槽内の清掃を行う目的で、槽外に設置した小型水中ポンプで水を予定水位まで排
水した後、槽底部分の水を排水するためにガソリンポンプを槽内に持ち込み始動させて作業を行っ
ていたところ、槽内にいた4人が被災した。
後日再現実験を行う気中ガス濃度測定を行った結果は下表のとおりであった。
なお、一般に、一酸化炭素濃度が0.3%(3000ppm)程度の空気中に人が居た場合には3分程
度で死亡するとされている。
表1
(5) 発生原因
通気の不十分な簡易水道取水槽内で、換気をせずに、ガソリン発動式ポンプを使用したことによ
り一酸化炭素が発生したため。
(6) 防止対策
イ 自然換気が不十分な場所における、内燃機関を有する機械の使用の禁止の徹底
ロ 労働者に対する、内燃機関による一酸化炭素中毒の防止に関する教育の徹底
(図)
4 ビル地下駐車場における消火設備より噴出した二酸化炭素による酸素欠乏症
(1) 発生日時 昭和62年6月9日 午前10時30分頃
(2) 発生場所 東京都
(3) 被災状況 死亡3人 軽傷2人
(4) 発生状況
消火設備の点検整備業者の労働者である2人は、午前9時30頃から、業務発注先のビル地下1階
にある二酸化炭素消火設備の点検作業にとりかかった。点検作業の手順は、[1]起動容器と選択弁
を結ぶコントロールパイプの遮断、[2]選択弁と二酸化炭素ボンベを結ぶコントロールパイプの遮
断、[3]窒素ガスボンベとコントロールパイプを接続し、窒素ガスを放出することで選択弁が確実
に作動するかの点検である。
作業者が持参した窒素ガスボンベとコントロールパイプを接続し、窒素ガスを開放したところ、
コントロール管を通じて窒素ガスの圧力が二酸化炭素ボンベ(45kg)のガス加圧容器弁開放器に加
わり、これらのボンベ22本より、二酸化炭素が噴出したため、上記の2人の作業員の他のガードマ
ン1人の3人が死亡、その他の居合せた2人が被災したものである。
(5) 発生原因
消火設備の点検作業中に配管を誤ったため、ビル地下室内に二酸化炭素が噴出したため。
(6) 防止対策
イ 作業方法及び作業手順の決定及びこれらの関係労働者に対する周知徹底
ロ 不活性ガスを使用した消火設備等の点検整備について十分な知識を有する者の指揮者としての選
任
ハ 二酸化炭素ガスが噴出した時の避難措置の確保
(図)
別添2
昭62.7.6 基発第413号の2
建設業労働災害防止協会長 殿
労働省労働基準局長
下水道工事等における酸素欠乏症及び硫化水素中毒等の防止対策の徹底について
酸素欠乏危険場所における酸素欠乏症及び硫化水素中毒、自然換気が不十分な場所における内燃機関の
排気ガスによる一酸化炭素中毒並びに通風が不十分な場所に備える消火設備に用いる炭酸ガスによる酸素
欠乏症(以下「酸素欠乏症等」と総称する。)の防止については、従来からその防止対策の徹底を図って
きたところでありますが、最近においてこれらの重大災害等が別添のとおり相次いで発生し、多数の死傷
者が生じていることは誠に遺憾に堪えないところであります。
これら災害は、市街地における下水道整備事業の進展に伴い、下水道工事において多く発生しており、ま
た、その原因を見ると、関係事業者及び関係労働者並びに工事の発注者が酸素欠乏危険場所について十分
な認識を有していないこと、酸素欠乏症等の原因及び防止措置等についての理解が十分でないこと等にあ
るものと認められるところであります。
ついては、例年夏季には酸素欠乏症及び硫化水素中毒が発生しやすいことにも留意のうえ、酸素欠乏症等
防止規則、労働安全衛生規則等に規定している事項等のうち、特に下記事項について、貴会傘下の関係事
業者その他の関係者に対し、周知徹底方を要請します。
記
1 酸素欠乏危険場所の認識の徹底
災害の発生状況等をみると、当該場所が酸素欠乏症又は硫化水素中毒にかかるおそれのある場所であ
るとの認識に欠けていることが最も大きな問題であると考えられるので、次の(1)及び(2)に掲げる場
所に該当する場合、当該場所における酸素又は硫化水素の濃度の如何にかかわらず、当該場所における
作業は、各々、第1種酸素欠乏危険作業(酸素欠乏症にかかるおそれがある場所における作業)及び第
2種酸素欠乏危険作業(酸素欠乏症にかかるおそれ及び硫化水素中毒にかかるおそれがある場所におけ
る作業)に該当することを周知徹底させること。
(1) 次の各号に掲げる場所における作業 第1種酸素欠乏危険作業
イ 次の地層に接し、又は通ずる井戸等(井戸、井筒、たて坑、ずい道、潜函(かん)、ピットその他
これらに類するものをいう。)の内部
(イ) 上層に不透水槽がある砂れき層のうち含水若しくは湧(ゆう)水がなく、又は少ない部分
(ロ) 第一鉄塩類又は第一まんがん塩類を含有している地層
(ハ) メタン、エタン又はブタンを含有する地層
(ニ) 炭酸水を湧(ゆう)出しており、又は湧(ゆう)出するおそれのある地層
(ホ) 腐泥層
ロ ケーブル、ガス管その他地下に敷設される物を収容するための暗きょ、マンホール又はピットの
内部
ハ 相当期間密閉されていた鋼製のボイラー、タンク、反応塔、船倉その他その内壁が酸化されやす
い施設(その内壁がステンレス鋼製のもの又はその内壁の酸化を防止するために必要な措置が講ぜ
られているものを除く。)の内部
ニ ヘリウム、アルゴン、窒素、フロン、炭酸ガスその他不活性の気体を入れてあり、又は入れたこ
とのあるボイラー、タンク、反応塔、船倉その他の施設の内部
(2) 次の各号における作業 第2種酸素欠乏危険作業
イ 海水が滞留しており、若しくは滞留したことのある熱交換器、暗きょ、マンホール、溝若しくは
ピット(以下 イ において「熱交換器等」という。)又は海水を相当期間入れてあり、若しくは
入れたことのある熱交換器等の内部
ロ し尿、腐泥、パルプ液その他腐敗し、又は分解しやすい物質を入れてあり、又は入れたことのあ
るタンク、船倉、槽、管、暗きょ、マンホール、溝又はピットの内部
2 酸素欠乏危険場所における酸素欠乏症又は硫化水素中毒の防止対策の徹底
(1) 第1種酸素欠乏危険作業にあっては、次の措置を遵守させること。
イ その日の作業を開始する前に、空気中の酸素の濃度の測定を実施すること。
ロ 空気中の酸素の濃度を18%以上に保つように換気すること。ただし、作業の性質上換気すること
が著しく困難な場合は、作業に従事する労働者に空気呼吸器等(空気呼吸器、酸素呼吸器又は送気
マスクをいう。以下同じ。)を使用させること。
ハ 第1種酸素欠乏危険作業主任者技能講習又は第2種酸素欠乏危険作業主任者技能講習を修了した
者のうちから、作業主任者を選任し、その者に作業方法の決定、酸素の濃度の測定その他作業主任
者としての職務を励行させること。
ニ 作業に係る業務に従事する労働者に対し、あらかじめ第1種酸素欠乏危険作業に係る特別の教育
を実施すること。
(2) 第2種酸素欠乏危険作業にあっては、次の措置を遵守させること。
イ その日の作業を開始する前に、空気中の酸素及び硫化水素の濃度の測定を実施すること。
ロ 空気中の酸素の濃度を18%以上、かつ、硫化水素の濃度を10ppm以下に保つように換気すること。
ただし、作業の性質上換気することが著しく困難な場合は、作業に従事する労働者に空気呼吸器
等を使用させること。
ハ 第2種酸素欠乏危険作業主任者技能講習を修了した者のうちから、作業主任者を選任し、その者
に、作業方法の決定、酸素及び硫化水素の濃度の測定その他作業主任者としての職務を励行させる
こと。
ニ 作業に係る業務に従事する労働者に対し、あらかじめ第2種酸素欠乏危険作業に係る特別の教育
を実施すること。
3 自然換気が不十分な場所における内燃機関の使用禁止の徹底
坑、井筒、潜函(かん)、タンク又は船倉の内部その他の場所に自然換気が不十分なところにおいて、
内燃機関を有する機械の使用禁止を徹底させること。
4 不活性ガスを使用する消火設備等に係る措置の徹底
地下室 、機関室、船倉その他通風が不十分な場所に備える消火器又は消火設備で炭酸ガス等の不活性
ガスを使用するものにあっては、次の措置を講じさせること。
イ 労働者が誤って接触したことにより、容易に転倒し、又はハンドルが容易に作動することのないよ
うにすること。
ロ みだりに作動させることを禁止し、かつ、その旨を見やすい箇所に表示すること。
ハ 炭酸ガス等の不活性ガスを使用した消火設備等の点検整備作業を行う場合には、次の措置を講ずる
こと。
(イ) 作業の方法及び順序を決定し、あらかじめ、これを作業に従事する労働者に周知すること。
(ロ) 不活性ガスを使用した消火設備等の点検整備について必要な知識を有するもののうちから指揮
者を選任し、その者に当該作業を指揮させること。
(ハ) 消火設備等の配管の系統及び開放すべきバルブ若しくはコック又は閉止すべきバルブ若しくは
コックについて、作業に従事する労働者に周知させること。
(ニ) (ハ)の閉止したバルブ若しくはコックには施錠し、又は開放してはならない旨を見やすい箇所
に表示すること。
(ホ) 万一、不活性ガスが噴出した場合には、直ちに避難することができるように、避難通路を確保
すること。
5 発注者である地方公共団体との連絡協議の励行
近年における下水道の整備の進展に伴い、既設の下水道に隣接して下水道工事等が行われることが多
くなっていることにかんがみ、これらの工事を施工する過程における酸素欠乏症等の防止対策に関して、
発注者である地方公共団体との間で、工事の施工方法、換気装置、酸素及び硫化水素の濃度の測定等に
ついて工事着工前に十分な連絡協議を行い、これらの災害の防止を図ること。