|
|
改正履歴
最近、林業労働においても機械化が進展し、伐木造材作業にチェンソー等が導入され、手持機械の普及
にはめざましいものがあるが、一方においてチェンソー等を使用する者のなかにレイノー現象等の振動障
害(いわゆる白ろう病)を発症するものがみられ、逐年増加の傾向にある。
しかしながら、振動障害の予防については、未だ適確な手段が確立されておらず、抜本的な施策を講ず
るためには今後さらに検討を要するところである。このため、労働省に局所振動障害予防対策委員会を設
け、技術面医学面等の専門的な角度から検討を加えているところであるが、問題の重要性に鑑み、当面各
局の実情に即して、下記事項について関係業界及び関係事業場に対して適切な指導の徹底を図られたい。
なお、刈払機オーガについても本通達に準じて取り扱われたい。
記
1 チェンソーの選定について
チェンソーは、作業条件に合致したバーの長さのもので、軽量で、振動の少ない機種を選定すること。
現在、使用中のチェンソーで防振装置が取り付けられていないもの(無振動エンジン、完全バランス
エンジン、ロータリエンジン、電気モーター等につけた振動のきわめて少ないものは除く。)について
は、すみやかに防振装置を取り付けること。
2 チェンソーの整備等について
チェンソー使用に伴う振動障害を予防するためには、チェンソーの適切な整備、チェンソーの正しい
取扱いが必要である。(このため、チェンソーの取扱要領については別添を、チェンソーの取扱要領に
ついては、昭和42年10月5日付け安発第38号通達別添3(略)を参考として、特に機械の整備、チ
ェンソーの目立て、チェンの張り等を重点として、これらの正しい取扱いを徹底させること。)
3 チェンソーの操作について
チェンソーを操作するときには、チェンソーの重量および振動が直接立木、伐倒木等に伝わるように
し肘を曲げ切断位置に体を近づけるようにし、左右ほぼ同じ重さになるようにチェンソーを保持して膝
を曲げた無理のない姿勢で操作するよう努めさせること。
4 チェンソーの操作時間について
機械の振動が安全な段階に達していないチェンソーではその選定、整備及び操作に適正を期してもな
お局所振動障害を予防するためには、チェンソーの操作時間を1日2時間以内に規制するとともに、作
業の過程にチェンソーを操作しない作業を組み入れ、チェンソーの連続的操作を避ける等チェンソーを
間けつ的に操作させるよう措置すること。
5 健康診断について
チェンソーを使用する労働者に対して、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及び6月以内ごとに
1回、定期に次の項目について健康診断を行うこと。
(1) 第1次健康診断
イ 職歴調査
ロ 自覚症状調査
ハ 視診、触診
爪の変化、指の変形、皮膚の異常、骨・関節の変形及び異常、上肢の運動機能の異常及び運動痛、
筋萎縮、筋・神経そうの圧痛等、触覚の異常、腱反射の異常など
ニ 筋力、筋運動検査
瞬発握力及び5回法による維持握力
ホ 血圧検査
ヘ 末梢循環機能検査
常温における手指の爪圧迫テスト及び皮膚温
ト 末梢神経機能検査
常温における手指等の痛覚及び振動覚
(2) 第2次健康診断
第1次健康診断の結果、振動によると思われる症状が認められ、かつ、医師が必要と認める者に
ついて行なうこと。(なお第1次健康診断に引き続いて実施することが望ましいこと。)
イ 末梢循環機能検査
常温及び冷却負荷における手指の爪圧迫テスト及び皮膚温
ロ 末梢神経機能検査
常温及び冷却負荷における手指の痛覚及び振動覚
ハ 筋力、筋運動検査
(イ) 60%法による維持圧握力
(ロ) 把(つま)み力
(ハ) タッピング
(3) 健康診断の結果、医師が特に必要と認めた者については、次の項目のうち医師の必要と認める事
項を行なうこと。
イ 末梢循環機能検査
常温又は冷却負荷における指尖容積脈波
ロ 末梢神経機能検査
常温又は冷却負荷における手背等の温痛覚及び冷痛覚
ハ 心電図又は負荷心電図
ニ エックス線検査
(イ) 実施時期 原則としてチエンソーを使用する作業に就業の際及び3年ごとに1回
(ロ) 部 位 両手関節及び両肘関節
(特に必要と認めるときは、これらの動態又は斜位および頚椎、胸椎又は腰椎)
ホ オージオメトリーによる聴力検査
6 休憩施設の整備について
寒冷期間にはチェンソーを使用する労働者が休憩時に利用できる暖炉等を備えた休憩小屋等の施設を
設けること。
なお、休憩時間中に休憩小屋を利用することが困難な場合には、寒風を防ぐための天幕等を使用させ
ること。
7 保護具の使用等について
チェンソーを使用する労働者の寒冷期間における身体への寒冷感を防止するため又は局所振動の身体
への伝達を軽減するための防寒服、防振、防寒用手袋等を使用させること。
なお、騒音による障害を防止するため、耳あるいは耳覆の使用を徹底させること。
別 添
チェンソー取扱要領
第1 目的
この取扱要領は、チェンソーを常に良好な状態で運転することを目的として定めたものである。
第2 燃料及び潤滑油の取扱い
1 チェンソーに使う燃料と潤滑油との混合比が不適当であると次のような悪影響がある。
(1) 混合比が小さすぎるとチェンソーエンジンは十分な潤滑ができないため、ピストン、シリンダ
ーおよびエンジン各部ならびにベアリングの焼付けを起こす。
(2) また、混合比が大きすぎると、オイルの不完全燃焼による有害カーボン、ワニスなどがエンジ
ン各部に堆積し、次のような悪影響を及ぼす。
ア カーボンなどがピストンリング溝内に堆積し、リングの働きをさまたげ、圧縮洩れを起こして
出力の低下を招く。
イ 燃焼室壁面およびピストンの上面に堆積した多量のカーボンなどが、一部脱落してピストンと
シリンダーとの間に入り、摩擦面を傷つける。
ウ 排気孔にカーボンなどの堆積物が多くなり、出力が低下したり、火災の原因となる火の粉が排
出される。また、掃除中にシリンダーおよびピストンを傷つけることが多くなる。
エ プラグにもカーボンなどが急速につくため、エンジンの始動が悪くなり、また、プラグの寿命
が短かくなる。
2 上記1の悪影響を防ぐため、チェンソーに使う燃料および潤滑油については次の事項を守ること。
(1) 混合比は、次の表によること。
(表)
(2) ガソリンは、市販の自動車用ガソリンを用いること。
(3) ガソリンに混合するオイルは、良質の2サイクル専用オイルを用い、自動車オイル、再生モー
ターオイルなどは用いないこと。
(4) 混合するにあたっては、燃料タンクに入れる前に、別の容器で十分かきまぜながら混合するこ
と。
(5) 混合油を購入する場合は、前記(1)〜(3)の条件に適合しているものであることを確認するこ
と。
(6) 燃料は、混合後できるだけ早く使用すること。また、ごみ、水分などが混入しないように密栓
できる安全な容器で保管すること。
3 チェンソーのソー・チェンは、バーのレール上を高速度でまわるので、チェンソーの使用中にチェ
ンに十分油を与えることは、チェンの働きをスムーズにし、バーとチェンとの摩擦を軽減して、過度
の摩耗を防ぐためにきわめて大切なことである。これらの目的を果すには、オイルの浸透性と粘度が
重要な因子であるから、廃油や再生油は潤滑油として適さないばかりか、給油系統の故障の原因とも
なるので、絶対に使用してはならない。したがって、チェン・オイルの使用にあたっては次の事項を
守ること。
(1) チェン・オイルは、良質の新しいオイルを使用すること。
(2) チェン・オイルは5℃以下ではSAE10番、その他の附近常温ではSAE30番程度の粘度のオイル
を使用すること。厳寒にはさらに灯油または軽油を若干混合し、粘度を低くして使用すること。
(3) 樹脂の多い材を切断する場合には、標準より粘度の低いオイルを使用すること。
第3 のこ部の取付け
(1) チェンを取付ける前にSAE30番オイルをバー溝に給油すること。
(2) チェンがバーの上をスムーズに走るように、バー溝は、常に清潔にしておくこと。
(3) ローラーノーズ(先端滑車)があるものは、ベアリング用グリスを1日2回以上十分注入するこ
と。
(4) バーにまくれができた場合は、ヤスリですり落すこと。
(5) チェン・スプロケットとチェンのピッチを確かめること。スプロケットがとくに摩耗している場
合は、スプロケットを交換すること。
(6) チェンとバーは、各機種の取扱説明書にしたがい正確に取り付けること。
第4 始動
(1) 正しい混合比の燃料がタンクに入っていることを確認すること。
(2) チェン・オイルがオイルタンクに入っていることを確認すること。
(3) バーの締めつけを確認すること。
(4) チェンの張りを確認すること。
(5) 燃料コックを開くこと。
(6) 点火スイッチ式のものは、スイッチを入れること。
(7) エンジンが冷えている場合には、プライマーのついたチェンソーは、指先に抵抗を感ずるまでプ
ライマーボタンを押し、チョークのついたチェンソーはチョークすること。
(8) スロットル引金をいっぱい引くこと。スロットルロックのあるものは、スロットル引金を引いて
ロックすること。
(9) スターターロープをゆっくりと引き、圧縮を感じた位置から滑らかに素早く引くこと。
(10) スターターロープを戻すときは、ロープのハンドルを握ったまま元に戻すこと。
(11) 始動したら回転が安定するまでプライマーを押すか、またはチョークすること。この場合、エン
ジンの始動と同時にチェンが回転することがあるので注意すること。
(12) 始動が困難なときには、むやみにスターターロープを引かないで原因をたしかめること。
第5 運転
(1) エンジンを始動した後2〜3分間低速で運転すること。
(2) 無負荷でスロットル引金をいっぱい引いて高速にしないこと。
(3) エンジンの調子が悪いときには、そのまま運転を続けないこと。エンジンを停止して原因を追求
し、正しい処置をとること。
(4) 動いているチェンに手を触れたり、空転して止っているからといってチェンに触れないこと。
(5) 空転の状態でチェンが動くときには、エンジンを止め、クラッチ部分を点検すること。
(6) エンジンが新しいときには、2日間ぐらい混合比の規定値よりオイルの量が20%ぐらい多い燃料
を使用すること。
第6 切断
(1) 常に正しく目立てされたチェンを使用し、チェンの張りの強さ、オイルの給油の具合などに注意
すること。
(2) チェンソーは、両手で持ちスロットル引金をいっぱいに引いて使用すること。
(3) チェンソーには、最もよく切れ、しかも手に対する振動が少ない速度があるので、負荷を調節し
ながら切断すること。
(4) チェンソーの自重を利用して切断を行うこと。チェンソーを材に無理に押しつけて切断しないこ
と。
(5) チェンソーを材に押しつけなければ切れないのは、チェンの目立てが正しく行われていないか、
または刃先が丸くなっているためであるから、この場合は正しい目立てをしてから使用すること。
(6) チェンが材で締めつけられたら無理にスロットル引金を引いてエンジンを回転させないこと。こ
のような場合には、バーをテコのようにせず、くさびなどを用いて処理すること。
(7) 切断の始めに曲って切り込んだ場合には、途中から無理に直さずに必らず切り直すようにするこ
と。
(8) 運転中は、チェンが絶えず湿る程度にチェン・オイルを与えること。
(9) チェン・オイルの給油量は、切断された材の種類や作業の状態によって異なり、長いバーをつけ
ての作業、硬い材または樹脂の多い材の切断には余分に給油すること。
また、突込み切りなどの激しい使い方をするときは、最も多く給油しなければならないこと。
この場合、自動給油装置のついたチェンソーでは、装置を調節してオイルの量を多くするか、ま
たは手動でこれを行うこと。
(10) エアクリーナーやマフラーを取りはずして切断しないこと。
第7 故障の排除
1 各機種の取扱説明書をよく読んで、業務上の注意事項を正しく守り、次に定める点検・手入れを必
ず実行すること。
(1) 毎日の点検・手入れ
毎日の点検・手入れは、おもに外部について、次のことを行い、異常がある場合は適切に処置
すること。
ア 清掃
(ア) 外部の汚れ
(イ) エアークリーナー
(ウ) キャブレーターの周囲
(エ) ファンカバーの周囲
(オ) バー溝および給油口
(カ) スプロケットドラムの周囲
(キ) チェン
イ 確認
(ア) ネジ類のゆるみおよび脱落がないこと。
(イ) 破損部品がないこと。
(ウ) ギヤドライブのチェンソーでは、ギヤオイルが基準線まで入っていること。
(エ) チェン・オイルが正常に出ること。
(2) 毎週の点検・手入れ
毎週の点検・手入れは、作業現場で簡覚に点検・手入れできる内部について、次のことを行い、
異常がある場合は適切に処置すること。
ア 清掃
(ア) シリンダーの冷却ファン、油カス、木屑などをきれいに落すこと。
(イ) スパークプラグ 電極と内部のカーボンを落すこと。
(ウ) 燃料フィルター ガソリンで洗い、水分を含んでいる場合は、十分乾かすこと。
イ 確認
(ア) バーの変形摩耗がないこと。
(イ) スパークプラグの電極間げきがゲージによって正しく調整されていること。
(3) 毎月の点検・手入れ
毎月の点検・手入れは、機体内部の重要な箇所について、次のことを指定された場所で行うこ
と。
ア 清掃
(ア) マフラー……カーボンを落すこと。
(イ) 燃料タンクの内部……燃料を用いて洗うこと。
(ウ) スターター
(エ) 冷却ファンのファンケース
(オ) ガバナーの風圧板
(カ) スプロケットドラムの内部
(キ) 電気系統……この場合油類は使用しないこと。
イ 確認
(ア) ブレーカーポイントの間げきが正しく調整され、その表面が焼損していないこと。
(イ) スプロケット・ベアリングにグラスまたはオイルが塗られていること。
(ウ) スターターのスプリングおよびベアリング部にグリスが薄く塗られていること。
(エ) クラッチシューが摩耗していないこと。また、クラッチスプリングが損傷していないこと。
(オ) 電気系統の配線に異常がないこと。
(4) その他の点検・手入れ
定期に行う点検・手入れ以外にも、必要に応じて次の点検・手入れを行うこと。
ア カーボンの清掃
マフラーをはずして、シリンダーの排気孔付近に多量のカーボンが付着している場合には、ま
ずピストンを上死点まで上げ、排気孔をふさぎ、シリンダー内にカーボンが入らないよう十分注
意して竹ベラなどでかき落すこと。
シリンダーヘッドのカーボン落しは、事業場主任の指示を受けること。
イ 燃料系統
燃料タンク内のフィルターなどの汚れがひどい場合には、フィルターの清掃はもちろんのこと、
フィルターからキャブレーターへのストレーナーの清掃を行うこと。なお、キャブレーター内部
の清掃を行う場合は事業場主任の指示を受けること。
2 故障は、幾つかの原因が同時に働いて起る場合が多いので、その原因を調べるには別表「故障早見
表」(略)から系統的に追求し、正しい処置をとること。
第8 修理および整備
修理および整備にあたっては、各機種の取扱説明書に従うほか、次の事項を守ること。
1 シリンダーの分解、トランスミッションやクランクケース内部の現われるような分解、キャブレー
ターの分解、またはそれ以上の分解を必要とするときは、事業場主任の指示を受けて分解を行うこと。
2 チェンソーを分解するときは、作業現場でむやみに分解せずに、よく整理された必要な工具と設備
のある定められた場所で行うこと。
(注) なお、本要領は、昭和43年2月26日付け昭和42年林野業第922号に基づき作成したものであ
る。
参考資料
燃料およびオイルの混合比(表)